【エフレイ設立1年】研究トップに聞く 「先端技術で営農促進」

佐々木昭博(ささき・あきひろ)氏  東京都出身。北海道大農学部卒業、農学博士。農業・食品産業技術総合研究機構副理事長を経て、2018年から東京農業大総合研究所参与。原発事故後の12~14年に県農業総合センター所長を務めた。専門は小麦・大麦の育種。72歳。

 設立1周年を迎えた福島国際研究教育機構(エフレイ)が最重点に位置付けるロボットや農林水産、エネルギーなど研究開発5分野のトップには、国内を代表する研究者らが名を連ねた。各分野の研究内容と将来像について、5人に聞く。

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 自動化で高い収益性を、農林水産分野長・佐々木昭博氏 

 ―就任の抱負を。
 「東京電力福島第1原発事故後、県農業総合センター所長として対応に当たった。除染や試験研究を通じて安全・安心な農作物の供給は大きく進んだ一方、避難指示が出た地域では住民の帰還がまだ十分でない。復興には農林水産業の再生が不可欠だ。福島国際研究教育機構(エフレイ)で再び貢献したいとの思いを強くしている」

 ―方針に「従来の発想を超えた次世代農林水産業」と掲げる。具体的には。
 「(先端技術を活用した)スマート農林水産業は大きな目標の一つになる。例えば、稲作は播種(はしゅ)(種まき)から収穫・乾燥までの完全無人化を目指す。海外の事例もあるが、日本は気象や土地条件が異なり、独自の手法を見いださなければならない。福島発の技術を国内で広げ、将来は(条件が近い)東アジア全体に展開できる可能性も十分あると考えている」

 「そうした将来を見越し、まずは『超省力化』を目指す。これまで経験と勘頼みだった作業もデータを蓄積することで全体を最適化できる。データ駆動と自動化を通じて、より収益性の高い農林水産業を実現したい」

 ―農林水産業の研究は各地で行われている。エフレイで取り組む意義は。
 「福島という現場がある。農林水産省の復興事業がエフレイに移管され、企業や生産者などに既存のネットワークがあることで社会実装(産業化)につなげやすいことも強みだ。エフレイはロボットやエネルギーなどを研究対象とし、各分野との連携で新たな視点を取り込める利点もある」

 「福島は国内有数の果樹生産地だが、特産のモモはまだ大々的な輸出に至っていない。傷みやすく日持ちしない難点に対し、貯蔵条件や品種など検討の余地はある。重要な研究課題だ」

 ―将来像は。
 「特に浜通りでは、放射性物質や野生動物対策など独特の課題がある。2029年度までの第1期は営農再開と復興に結び付く成果を出すことが目標だ。深刻化する担い手不足や資材高騰などは全国的な課題でもあり、将来を見据え持続可能な農林水産業の実現を図る」
 
■主な研究テーマ
・輸出需要が見込めるモモとナシの新品種を浜通りで導入、省力型栽培を実証
・県産果物で腐敗の原因成分を除去、保存期間長期化
・遠隔操作や超音波を用いた野生動物の捕獲・撃退法の開発
・浜通りの農林水産業の将来像を検討

【エフレイ設立1年】廃炉、災害、除染にロボットの力を

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