年金月28万円だった元共働き夫婦。67歳妻の死後、72歳夫が腰を抜かした「衝撃の遺族年金額」…よくある誤解“年金の4分の3もらえる”【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

配偶者に先立たれた場合にもらえる「遺族年金」。受給額について正しく理解していますか? 本記事では、 亀田さん(仮名/72歳)の事例とともに遺族年金に関する勘違いされやすいポイントについて、相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。

予想外の妻の死

亀田春樹さん(仮名/72歳)は大手企業の元社員です。亀田さんは長く独身のままでしたが、55歳のころに知り合った5歳年下の妻の幸恵さんと結婚しました。お互い初婚で子供もおらず、夫婦2人でリタイア後の生活を楽しんでいたのでした。

2人とも長年会社勤めをしており、公的年金も亀田さんは月額で15万円程度、妻の幸恵さんも13万円程度受け取ることができ、合計で月額28万円程度を受け取ることができていました。

しかし、そんなある日、妻の幸恵さんに肺がんが見つかってしまいます。発見されて検診を受けた際には、すでにステージ4まで進行していました。一旦は治療を終えたのですが、転移が発見され、発見から約1年半の闘病生活を経て亡くなりました。

一緒に過ごしていた亀田さんは、妻を失った寂しさとともに、長い闘病生活を終えて正直ホっとした気持ちもありました。

遺族年金への誤解

幸恵さんの死後、亀田さんは死亡手続きを済ませにいきました。その際に亀田さんは想定外の事実を告げられます。

亀田さんは「遺族年金がもらえる」と自身が契約している生命保険の営業マンより説明を受けており、年金受給額の4分の3は幸恵さんの死後支給されると思い込んでいました。

しかし、亀田さんの予想に反し、幸恵さんが受け取っていた公的年金の支給は完全に停止され、亀田さんの受け取ることができる公的年金は自分の分の月額15万円程度の年金のみになったのです。亀田さんは驚きのあまり腰を抜かしました。これでは一人分の生活費も賄うことすらできません。

その理由は、遺族年金は老齢厚生年金の4分の3が支給される制度ですが、自分の受け取る厚生年金が配偶者の遺族厚生年金よりも少ない場合、その差額が給付される制度になります。自分の厚生年金の金額のほうが多い亀田さんは幸江さんの遺族年金を受け取ることができないのです。

説明した営業マンも亀田さんご夫婦の状況を誤認して受け取れないものを受け取れると説明してしまっていたのですが、さらに亀田さん自身も誤って認識し、厚生年金部分のみでなく幸恵さんの受取っている基礎年金も含めて4分の3受取れると誤解していたのでした。

そしてさらに、亀田さんはもともと自炊が苦手で、幸恵さんを失ってからの食事は外食かスーパーの総菜に頼るようになり、そして話し相手欲しさに行きつけのスナックに通う機会も増えていきました。また、一人暮らしの家に帰ると誰も待っていない、暗い部屋への寂しさからか、街中で店内の明かりが煌々と光るコンビニを見かけるとどうしても入りたい衝動に駆られ、お酒やお菓子などを買う無駄遣い癖がついてしまいました。

細々した部分の出費ですが、結果、2人で生活していたときよりもむしろ支出は増えてしまうことになり、月額約15万円の年金額に対し毎月10万円も超過してしまうような状況になってしまったのです。

そして、自宅のリフォーム代も重なり、妻の死後4年で2人で貯めた資産は底をついてしまったのでした。

配偶者が先立つリスクも想定した老後プランを

亀田さんが老後破産することになった根本的な原因は、自身の収入に合ったお金の使い方ができていなかったことです。なかでも、その要因のひとつとして幸恵さんの死後に遺族年金を受け取れると誤解していた点があります。

退職時に亀田さんが生命保険の見直しを行った際、遺族年金についての説明を生命保険の営業マンより受けていましたが、その際に亀田さんは遺族年金受給額について誤解して理解してしまっていました。

また、一般的に老後の生活費を考える場合、夫婦2人の公的年金収入に対し、見込まれる支出がどの程度か、そして不足分をどのようにして準備していくかを考えていきます。

しかし、今回のように夫婦2人で公的年金を受け取って収支のバランスが保たれていた状況から、夫婦のどちらか片方が亡くなった場合には、片方の年金が失われたことによって収入と支出のバランスが大きく崩れることになります。

夫婦のどちらか片方が亡くなった場合、1人分の公的年金が失われることになりますが、1人が欠けてしまっても生活費が単純に半分になるわけではありません。逆に、今回のように家事を担っていた妻が亡くなって、料理が苦手な夫が1人で残ってしまったり、一人暮らしで料理をするのが面倒になってしまったりと、食費の負担が大きく増えるケースは多いのです。

そのような状況に加え、亀田さんのように妻を失った寂しさからスナックやコンビニへ通う回数が増えると、収支のマイナスが膨らみ、資産を取り崩すスピードも加速してしまいます。こういった思わぬ支出の増加要因もあるため注意が必要です。

毎月の収支をチェックしていれば自身が明らかにお金を使い過ぎていることがわかるので、節約を意識するようにできます。

運用で資産寿命を延ばす

また、亀田さんの資産はほとんど貯蓄性の生命保険と預貯金で保有されており、運用することで資産寿命を延ばすこともできたでしょう。

老後の生活をスタートする際には、こういったどちらかが先に亡くなった場合のリスクも想定しておくことが必要です。

配偶者に先に亡くなってしまった場合に自身はいくら受け取ることができるのか、その後の生活設計のためにも考えておく必要があるでしょう。こういった場合も踏まえ、金融商品や保険商品を活用し、効率よく将来の資金を運用、管理していくプランを考えることが大切です。

5人に1人は老後の生活の前半で亡くなる

今回は配偶者に先立たれ、老後破産してしまった亀田さんの事例を紹介しました。厚生労働省が2017年に発表したデータによると、66歳まで生きている確率は約92%、75歳まで生きている確率は約82%とあり、75歳までに亡くなる確率は約18%ということがわかります。つまり、5人に1人は老後の生活の前半で亡くなっているのです。

夫婦共働きで2人分の年金に余裕を持てていると思っても、今回の事例のようにどちらかが先に若くして亡くなってしまった場合にはこういった問題が潜んでいる場合があります。

特に公的年金の制度については複雑であり、受給された人が周りにいて、「遺族年金をもらった」などの話を聴くことによって自身ももらえるものであると誤解してしまいがちです。

自身が受け取れるであろう公的年金の制度についても確認し、夫婦どちらか先に万が一があったときに家計がどうなるかも考えておく必要があります、

小川 洋平

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