FC東京、復活の契機は完敗と過密日程 「これが僕らのやりたかった試合」…快勝で見えたヒント【コラム】

FC東京が浦和に2-1逆転勝利【写真:Getty Images】

FC東京が浦和に2-1逆転勝利、近年獲得選手と生え抜きで構成されたスタメン

FC東京の快勝劇を最後尾から支えた野澤大志ブランドンは、開口一番「これが僕らのやりたかった試合」と振り返った。

FC東京にとって中3日の強行日程は、むしろ僥倖だったかもしれない。ピーター・クラモフスキー監督は、クラブの未来を示唆するような新しいバランスを発見したからだ。

ここ数年間のFC東京は、精力的な補強を続けてきた。だがせっかく戦力を整えながらも方向性が定まらず、投資に見合ったリターンを得られなかった。とりわけ「これまでやってきていないサッカーを」と改革に挑んだ前任のアルベル監督時代は、選手たちの特性とのギャップが著しく隔靴掻痒感が否めなかった。

今年も滑り出しは芳しくなかった。ホーム2戦も1分1敗。前節は途中で退場者が出て川崎に0-3で敗れていた。しかし完敗は、逆に指揮官に再考の機会を与えたようだ。おそらく連戦でのコンディション面も考慮したクラモフスキー監督が、東京・国立でのホームゲーム(4月3日/第6節・浦和レッズ戦)に送り出したスタメンは平均22.7歳。加入5年目の中村帆高を除けば、ここ3年以内に獲得した選手と生え抜き組で構成された。

川崎戦に続いて軸は動かさなかった。2トップは新加入の荒木遼太郎と3年目の松木玖生。どちらも圧倒的な運動量を誇り、前線から守備の強度を担保しながら、互いに入れ替わってMFに顔を出して起点となり、フィニッシュワークも得意としている。現在のトレンドを象徴するような2人だ。

またボランチは、2年目の小泉慶と新加入の高宇洋。ジュニアユースまで川崎で田中碧と同期の高は、板倉滉、三笘薫ら同アカデミー黄金期に育まれ、華麗なポゼッションスタイルを確立した新潟を支え、FC東京でも初年度から信頼されている。さらに左サイドバック(SB)のバングーナガンデ佳史扶が連続スタメンとなったが、指揮官は残り6人を入れ替えた。「川崎戦ではゴール前のキレが不足していた。もっと脅威を与えられるように」(クラモフスキー監督)と分析した結果だという。

鍵になったのは19歳ドリブラーの俵積田晃太、味方と好連係で左サイドを完全掌握

鍵になったのは、アルベル前監督が好んで抜擢して来た19歳のドリブラー、俵積田晃太の起用だ。スピード豊かでカットインも左足でのクロスも可能な左ウィンガーが、どれだけ脅威を与えたか。それは浦和側が最初に切った交代カードが如実に物語っている。

浦和では最も経験値も信頼度も高い酒井宏樹が、俵積田に翻弄されベンチが白旗を挙げた格好だ。だが代わって右SBに回ったFC東京から今年浦和に新加入の渡邊凌磨も、元チームメイトの仕掛けの切れ味を警戒して寄せ切れず、フリーで松木の決勝点のアシストを許すことになった。俵積田が入った左サイドは、荒木やバングーナガンデも絡んで完全に主導権を掌握したので、浦和は酒井と同時に右ウィングの前田直樹も下げている。一方右ウィングとして初出場の安斎颯馬も、昨年専門外のSBでプレーした時とは異なり、ダイナミックな動きでチャンスに絡んだ。

結局前半はチアゴ・サンタナのハーフウェーライン付近からのスーパーゴールでリードを奪われたFC東京だが、ほぼ浦和に有効な攻撃を組み立てる機会を与えず必然的な逆転を呼び込んだ。同点弾は、自陣まで降りた荒木が2度ボールに絡み、最後はバングーナガンデのパスを受けて自らフィニッシュ。逆転弾も右から逆サイドでフリーの俵積田に展開した松木が、再びDFの背後から飛び込みボレー。2トップが攻守に質量ともに十二分な貢献を見せているのは、新シーズンの重要なセールスポイントになっている。

「それぞれがとても良い個性を発揮し、チームとしても強いパフォーマンスができた」(クラモフスキー監督)

もちろん浦和が、対照的に補強に見合ったパフォーマンスをまったく見せられなかったこともあるので、たった1試合の快勝劇では手放しの評価はできない。しかし長谷川健太監督時代に優勝争いをしてから低迷続きだったFC東京が、今後どんな方向へ進んでいくべきなのか。ピッチ内外を含めて重要なヒントがちりばめられた試合だったことは確かだ。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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