子どもたちに“居場所”と“癒し”を…「スクールドッグ」とは? 背景には“不登校問題” 「自分の価値に気づいてもらいたい」ある男性の挑戦

「スクールドッグ」という言葉を聞いたことはありますか?
その名の通り「学校にいる犬」なんですが、ある大事な役割があるんです。
このスクールドッグを広めようと奮闘する一人の男性を取材しました。

鳥取市にあるクラーク高校鳥取キャンパス。
生徒たちと一緒にいるのは、一頭の犬です。

「すごくかわいくて、本当におりこうさんで、すごい癒されています」

この学校の校長室に週1回やってくる、ゴールデンレトリバーのフルートくん、2歳。
なぜ学校に犬がいるのでしょうか?

Social Animal Bond 青木潤一 代表
「“動物介在教育”というふうに一般的に言われています。その中でも学校に来ている子たちを、私達は“スクールドッグ”というふうに呼んで活動しています」

「スクールドッグ」とは、家や学校に居場所がないと感じる子どもたちの学びの場に訓練された犬を介在させることで、安心できる「居場所」を見つけてもらう取り組みのこと。

このスクールドッグを広めようと活動しているのが、青木潤一さんです。

鳥取県との県境に近い岡山県西粟倉村。
青木さんの自宅兼事務所に案内してもらうと…

出迎えてくれたのは、3頭の犬たち。

Q.それぞれ名前は?」
「この子がスーちゃん、アスランくん、フルートくんです」

学校に居たフルートをはじめ、みんなスクールドッグとして活躍しています。

実は青木さん、以前は京都で中学校の教員をしていました。

しかし、あるきっかけから今の活動を始めたといいます。

Social Animal Bond 青木潤一 代表
「1人不登校の生徒がいて、ずっと学校に通えなかったんですね。その生徒が、また学校に通えるようになって、卒業式まで出ることができて。でも進学した先の高校で、結局中退してしまって…」

不登校の問題は深刻です。
文部科学省の調べによると、小・中学校における不登校の児童生徒数は年々増え続けています。昨年度(令和4年度)は29万9000人を超え、過去最多となりました。

生きづらさを感じる子どもたちに「居場所」を作りたい。
でもマンパワーには限りがある…。

そんな時、動物介在教育のことを知った青木さんは「スー」を飼いはじめ、許可を得たうえで学校に連れていくことにしました。
すると…

Social Animal Bond 青木潤一 代表
「不登校の子が本当にいなくなったというか、そういった意味では目に見える変化もありましたし、あとは何より子どもたちと会話をする、そういうチャンネルが広がりました。」

この活動を広めるのは今しかない―青木さんは一大決心をします。

2021年に教員をやめ、犬とのふれあいを提供する「Social Animal Bond」を設立。
現在、県内外の学校でスクールドッグの派遣やイベントの開催、講演などの活動を行っています。

この学校はフルートを招いて1年半。
生徒たちに目に見えて変化があったといいます。

あすなろ高等専修学校 青山太郎 校長
「我々に見せない顔を子どもたちが見せるんですよね。本当に、“共存している”という感じですね」

フルートと楽しそうに触れ合う男子生徒の一人は、昔、犬に噛まれた経験があり、犬に対して恐怖心があったといいますが…

生徒は
「慣れましたね、おとなしいので。フルートといると気持ちが穏やかになりますね。」

そして、生徒の自主性も芽生えました。
触れ合いの予約管理や放課後の散歩などを自分たちでやろうと、半年前にスクールドッグ愛好会ができました。

スクールドッグ愛好会 田中遥 副リーダー
「今後は新しく入って来る1年生とか、いまあまり来ていない子にもきちんと知ってもらえるように活動していければと思っています」

Social Animal Bond 青木潤一 代表
「生徒さんそれぞれによってどういうふうに捉えているかは違うと思うんですけど、居場所と言うか、そういう場所になっているのは間違いないかなと思っています」

3月1日。
この日、スーと青木さんの姿は、学校ではなく鳥取県八頭町のとある施設にありました。

Social Animal Bond 青木潤一 代表
「僕自身教員をしていたから学校現場でこの取り組みはしてたんですけど、学校だけである必要もないのかなっていう気がしてて」

八頭町社会福祉協議会が運営する福祉相談支援センター「ほっと」とコラボし、今年2月から月2回で開催している「ほっと×Dog(ほっとどっぐ)プロジェクト」。
学生だけではなく、地域の人全てを対象に、犬を通じて交流や癒しの場を作ろうというものです。

参加者
「楽しかった」
「犬と触れ合えるのはもちろん、犬が好きという共通点があるいろんな世代の人と交流できるのはいいと思います」

八頭町福祉相談支援センター「ほっと」 松原勇作さん
「思っていた以上にいろんな世代の方が参加してくださっているなと。毎週あればいいのにと言ってくれるような子もいます。」

このように活動範囲が広がる中、青木さんは、おととし「日本スクールドッグ協会」を立ち上げました。
資格研修制度を通し全国に仲間を増やそうとしています。

Social Animal Bond 青木潤一 代表
「北海道から沖縄まで、日本全国どこでもこのスクールドッグっていうシステムを作るためには、やはり協会とか仲間が集えるような組織が必要だなっていうふうに思ってたので」

スクールドッグを全国に広め、1人でも多くの子どもたちに居場所を作ってあげたい。
犬の無限の可能性を信じる青木さんの活動は、これからも続きます。

Social Animal Bond 青木潤一 代表
「自分ってすごく価値がある人間なんだなっていうことを、スクールドックと一緒にいることですごく感じるんですね。だから1人でも多くの人が自分の価値に気づいてもらいたい。存在価値に気づいてもらいたい。こんなことが、世の中に発信できたらいいなっていうふうに思いますね」

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