重い、メンテナンスが面倒なはずの「普通鋼」、あえて最新型の鉄道車両で使うワケ 中には「一部のみ採用」も

小田急電鉄の8000形(左)と4000形(右)。古い8000形は塗装が必要な普通鋼、新しい4000形は塗装不要のステンレスを車体素材に採用しています

近年の通勤電車では、銀色の車体が主流です。これは、ステンレス車体かアルミ車体を使用した車両。いずれも普通鋼による車体よりも軽量なほか、腐食に強いことが特徴です。また、塗装を省略することもできるので、メンテナンスコストの削減にもつながっています。

ステンレス車両もアルミ車両も、ともに日本では60年を超える歴史を持つのですが、今なお従来の鉄製(普通鋼)の車体を使った車両が存在します。それも旧型車両ではなく、新型の車両でです。

鋼製車体は、ステンレス車体やアルミ車体のメリットと逆に、重い、塗装が必要といったデメリットがあります。一方で、ステンレスやアルミと比べると加工が容易というメリットも。たとえば、JR東日本の房総エリアで活躍する209系は、転用時にトイレを設置した箇所の窓を塞いだのがよくわかる見た目です。また、2023年に引退した小田急電鉄のロマンスカー「VSE」は、アルミ車体の加工が困難なことが、早期引退の理由の一つに挙げられていました。鋼製車体では、このようなネックがないため、一部ではまだまだ積極的に使われています。

新型車両でも普通鋼を積極的に採用しているのが、近鉄の特急車両。2020年にデビューした最新型の80000系「ひのとり」も、例に漏れず鋼製車体です。改造時の加工が容易などが採用理由だそう。たとえば、最新型車両から旧型車両まで設置していた喫煙ルームは、設置箇所付近の窓割をも変更するほど車体に手が加えられていましたが、設置車はみな鋼製車体のため、違和感なく仕上げられています。ただし、同社の車両でも、通勤電車のうち、1980年代に登場した形式からは、アルミ車体が採用されています。

また、踏切などで自動車が絡む事故に遭った際の復旧を考慮し、鋼製車体とした例もあります。京阪では、1970年デビューの5000系以降、京阪線用の形式ではアルミ車体を採用していますが、1997年デビューの大津線用800系は、路面区間があることから、鋼製車体となっています。今では全車両がステンレス車となっている京王でも、1962年にデビューした井の頭線用の3000系はステンレス車だった一方、翌1963年デビューの初代5000系は、踏切が多い京王線用のため、踏切事故に遭った際の復旧を容易にすべく、鋼製車体となっていました。

このほか、313系や223系のように、ステンレス車体ながら先頭部のみ鋼製とした車両もあります。加工の容易さを活かし、ステンレスでは表現できない前面形状を実現したり、踏切などでの事故発生時を想定したつくりとなっています。

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