銃の不法所持、暴行事件――問題児のポーターJr.がギリシャのクラブと契約。新たな挑戦に本人は「きっといいものになる」<DUNKSHOOT>

銃器不法所持や恋人への暴行事件といったオフコートの問題で世間を賑わせていたケビン・ポーターJr.。23歳のスラッシャーは昨年10月にヒューストン・ロケッツからオクラホマシティ・サンダーへトレード後、すぐに解雇されて無所属の状態となっていたが、ギリシャリーグのPAOKと今季終了までの短期契約を結び、コートに復活することになった。

米スポーツ専門メディア『The Athletic』のシャムズ・シャラニア記者が、このニュースをX(旧ツイッター)に投稿したのが4月1日だったこともあり、バスケファンや欧州メディアの間では「エイプリルフールのジョークか?」と勘繰る声もあがったが、クラブの公式サイトが正式に発表。ポーターJr.は、テッサロニキを拠点とする名門クラブの一員となった。

サザンカリフォルニア大出身のポーターJr.は、2019年のNBAドラフトでミルウォーキー・バックスから1巡目30位で指名され、トレード先のクリーブランド・キャバリアーズからデビュー。4シーズンで通算196試合に出場して平均15.3点、4.3リバウンド、5.0アシスト、ヒューストン・ロケッツに移籍した2年目の2020-21シーズンはGリーグでプレーする機会も多かったが、4月のミルウォーキー・バックス戦では50得点、11アシストをマークし、50点+10アシスト超えを同時にクリアしたリーグ最年少選手にもなった。
そんな有望株の23歳での欧州挑戦は、普通ならあり得ないキャリアパスだが、冒頭に挙げた事件や、ロッカールームでの暴力行為といった問題行動が原因で、NBAでは”扱いにくい選手”になっていた。

欧州のバスケ専門サイト『Basket News』によれば、サンダーから解雇された後、NBAの球団からのオファーを待ち続けていたが、今年に入ってから実戦でプレーする姿を披露するのが最大のアピールになるとの決断に至り、欧州方面を専門とするエージェントに相談。

そこでヨーロッパのバスケのレベルが高いとアドバイスを受け、欧州クラブへの移籍を視野に、3月から本格的なトレーニングを再開していた。

スペインのACBリーグなど、いくつかの欧州リーグはすでに移籍マーケットが閉鎖していたため、可能性はギリシャかトルコに限られ、最終的にPAOKと話がまとまった。

PAOKのゼネラルマネージャーのミカリス・ヤナキディスが同サイトに語ったところでは、ポーターJr.の代理人から提示された金額があまりに高額で、最初は”お話にならない”レベルの交渉だったようだが、その後両者が歩み寄り、公表はされていないものの、ここからシーズン終了までの約1か月間、試合に出場するという保証つきで、約15000ドルでまとまった模様だ。
交渉の最中にギリシャリーグはレギュラーシーズンが終了し、PAOKは9位とプレーオフ圏外に沈んだが、今季から導入されたプレーインを勝ち上がり、プレーオフ出場を決めた。

PAOKのタナシス・チャツォプロス会長は、「彼は自分のキャリアを立て直したいと思っている若者だ。彼は不運な時期を過ごした」とラジオ局にコメント。

「私は他人を糾弾するのが好きな人間ではないし、間違いを犯したら2度目のチャンスを与えてやりたいと考える」と寛大な姿勢を見せ、「それほど出費もしていない。家を一軒売っただけだ」とジョークも飛ばしている。

4月2日にテッサロニキに到着したポーターJr.は地元ファンから熱烈な歓迎を受け、「ギリシャは、ずっと訪れたい国のひとつだった。この国の人たちはバスケットボールが大好きだ。このチームの一員になれたこと、そしてこの機会を得られたことに感謝している」と語った。

ポーターJr.はすぐにチームに合流し練習に参加したが、本人は交渉期間中にギリシャのバスケについて勉強していたようで、ルールやリーグへのアジャストもスムースにいくだろうとクラブ側は楽観視している。

PAOKの幹部によれば、ギリシャでの生活面も含めてポーターJr.はすべてをありのままに受け入れ、「とにかくバスケがしたい。ただそれだけ」という印象を周囲に与えている。
クラブ側も過去の出来事には一切触れることなく、「我々は彼に不快な思いをさせないように最善を尽くす」とサポートの姿勢を表明している。

彼らには、ポーターJr.のキャリアを助けたいのと同時に、ファンに質の高いバスケットボールを見せたい思いもあるのだ。

ポーターJr.が最後にNBAでプレーしたのは、2023年4月7日のシャーロット・ホーネッツ戦。1年間も実戦から遠ざかっているが、「3歳の頃からバスケットボールが大好きだった。美しいゲーム、美しいスポーツだ。この機会を得たことが、すでに美しい。きっといいものになる」と、新たな挑戦に胸を躍らせている。

契約はあくまで今季終了までで、目標は来季のNBA復帰。PAOKはそのための実戦復帰の場を与え、そしてポーターJr.は己の持てる力を発揮して、チームの勝利に貢献する目標に挑む。

PAOKがプレーオフで当たるのは強豪オリンピアコスと相手に不足はない。この異例のコラボが“ウィンウィン”の結果になることを祈りたい。

文●小川由紀子

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