公式戦いまだ無敗の衝撃!クラブ史上初のブンデス優勝も現実味を帯びるレバークーゼンの何が凄い?【戦術エキスパートが徹底解剖|後編】

ボール保持は、後方からショートパスを繋いでチーム全体を段階的に押し上げていくビルドアップアタックが基本。相手が前線からマンツーマンでハイプレスを仕掛けてきた場合には、GKを経由してプレスをかわし、そこから一気に前線に展開するダイレクトアタックも選択肢として持っているが、それはあくまでバリエーションという位置づけだ。

後方からのビルドアップは、敵のプレスの高さと枚数に応じて配置が変わるが、基本は3バックによる第1列と2セントラルMFによる第2列という3+2のユニット。相手が3バックに対して3対3の同数ハイプレスを仕掛けてきた場合には、左WBのグリマルドが3バックに加わることで4+2となり、第1列に4対3の数的優位を作り出す。この「プラス1」、GKも含めれば「プラス2」の数的優位を活かして相手のプレスをかわし、その背後にいるジャカかパラシオスが前を向いてプレーできる形でボールを渡すのが、ビルドアップの第1段階だ。

特徴的なのは、この3+2(あるいは4+2)のユニットがきわめて近い距離でコンパクトな配置を取り、中央ルートから中盤にボールを運ぼうとする点だ。

この時、前線では早いタイミングで高い位置に進出する右WBのフリンポン、そしてホフマン、ボニフェイス、ヴィルツというアタッカー3人が敵最終ラインと4対4の関係を作って2ライン間を埋めていて、ジャカかパラシオスが前を向いたところから、敵中盤ラインの背後にいる彼らに縦、あるいは斜めのパスでボールを送り込むのが次のステップとなる。

ここで「遊軍」として機能し、局地的な数的優位を作り出す役割を担うのが左WBのグリマルド。プレーの展開に応じて、左CBタプソバ、左セントラルMFパラシオス(状況に応じてジャカ)、左トップ下ヴィルツと異なる味方と繋がる位置にポジションを取り、前方あるいは後方に斜めのパスコースを作り出すことで、ボールの前進とチームの押し上げを助ける戦術的なキーマンとなっている。

23節マインツ05戦では、相手の5バックに対して同数の関係を作るため、前線までポジションを上げて左大外レーンにパスコースを作り出しているが、大外レーンを上下動するだけでなく、一列内側に入り込んでMFとして機能する「偽SB」的な動きを見せることもある。

フリンポン、グリマルドという左右WBが異なる役割を果たしていることに象徴されるように、レバークーゼンのボール保持は配置的にも機能的にも左右非対称になっているところが特徴だ。

よく見られるのは、ジャカ、グリマルド、ヴィルツというテクニカルなプレーヤーが揃った左サイドに、さらにもうひとりのセントラルMFパラシオスやCFボニフェイスまでが寄ることでボールサイドに人数をかけて数的優位を作り出し、それを活かす形でコンビネーションによってフィニッシュを狙ったり、逆サイドでフリーになったフリンポンに展開してそこからの仕掛けやフィニッシュに繋げる形。フリンポンはチーム内ではもちろん、ブンデスリーガ全体でもハリー・ケイン、レロイ・ザネ(ともにバイエルン)、ロイス・オペンダ(RBライプツィヒ)、チームメイトのボニフェイスを上回り、敵ペナルティーエリアでのボールタッチ数が最も多いプレーヤーであり、ドリブル成功数でもリーグ9位にランクインするなど、実質的にウイングとして機能していることがわかる。

一方、左からの崩しはワンツー、裏抜けに合わせたスルーパスなど、複数のプレーヤーが絡んだ形が多い。それも含めて、ファイナルサードの攻略は中央3レーンを使ったコンビネーションが大部分を占めていて、サイドはあくまでそのために一旦ボールを逃す場所という位置づけになっている。

データを見ても、ペナルティーエリアへのクロス本数がリーグで最も少ない一方、ワンツーの出し手ランキングでヴィルツ、グリマルド、フリンポンがリーグの2~4位を占め、受け手ランキングではヴィルツ、グリマルド、ホフマン、ジャカがトップ10に入っている。さらにペナルティーエリアへのパス数でヴィルツ、グリマルド、ジャカがトップ10、スルーパス成功数でもヴィルツがリーグトップと、コンビネーションによる崩しが効果的に機能している事実を示している。

象徴的なのは得点数。チームトップが10ゴールのCFボニフェイスなのは当然としても、それに続くのがグリマルド(9ゴール)、フリンポン(8ゴール)という2人のWB、続いてトップ下2人(ヴィルツ、ホフマン)がそれぞれ7得点、5得点と、多くのプレーヤーがフィニッシュに絡んでいる。このあたりは、CFケインがひとりで31得点も挙げているバイエルンとは対照的だ。

レバークーゼンの特徴は、一旦敵陣までボールを運んだ後は、ハーフウェーラインを大きく越えたところまでコンパクトな陣形を押し上げ、5~6人、多ければ7人をファイナルサードに送り込むところ。3バックの3人がセンターサークルを越えたところまで上がっているケースも珍しくない。

これは攻撃に人数をかけるという以上に、ボールロスト時に複数の選手が素早くボールホルダーに襲いかかって即時奪回する、いわゆるゲーゲンプレッシングを効果的に機能させることを大きな狙いとしている。

ファイナルサード攻略が中央からの崩しに特化しているのも、ボールを失ってもすぐに奪回できるだけの密度を保てるから。これがもうひとつの理由だ。事実、敵陣に押し込んだ時点で、3人のアタッカー、2人のセントラルMF、そして3バックという8人が中央3レーンに集まっている。

このゲーゲンプレッシングの強度の高さ、敵陣でのボール奪取数の多さは、レバークーゼンの強さを支える大きな武器であり、躍進の秘密であると言ってもいい。実際、敵陣ラスト40mでのターンオーバー(ボールを奪って攻守が逆転した)数248は群を抜いてリーグトップ。そのうちシュートで終わったアクション数も50回でリーグトップだ。

コンパクトな陣形を敵陣深くまで押し上げ、中央からのコンビネーションによってフィニッシュを狙う攻撃のメカニズムは、そのままゲーゲンプレッシングによる即時奪回からの再攻撃という守備のアクションを支える土台にもなっている。平均60%を超えるボール支配率の秘密もまたそこにある。

この「後退せず前に出る守備」は、ボールロスト時だけでなくボール非保持時、相手のビルドアップに対するプレッシングにも当てはまる。ブンデスリーガの多くのチームがそうであるように、レバークーゼンも相手のビルドアップに対しては前線からマンツーマンで強度の高いハイプレスを仕掛けていく。3人のアタッカーが中央のパスコースを塞ぐ形でプレッシャーをかけることでボールをサイドに誘導、そこでさらにプレスの強度を上げて追い詰め、ボールを奪うか、そうでなくともミスを誘うのが狙いだ。

このアグレッシブな守備戦術には、ラルフ・ラングニックが編み出した「レッドブル・メソッド」の影響が強く感じられる。

後方からのビルドアップとポゼッションによるボールと地域の支配、中央からのコンビネーションに軸足を強く置いたファイナルサード攻略、ゲーゲンプレッシングとハイプレスによる「前に出る守備」という組み合わせは、シャビ・アロンソ監督がかつてその下でもプレーしたグアルディオラの影響を強く感じさせるものだ。

しかし、このレバークーゼンの美点は、そうした先鋭的なスタイルだけでなく、相手と状況に応じて異なる戦い方を選び、それを効果的に機能させる戦術的柔軟性も兼ね備えているところ。それを象徴するのが、最初に取り上げたバイエルン戦だった。この試合のボール支配率はわずか39%。バイエルンにボールを持たせながらも、堅固な5-2-3のブロックを敷いてラスト30mにはほとんど侵入させずにはね返し――ケインが良い形でボールを持つ場面は皆無だった――、そこから効果的な逆襲でゴールを奪って3-0の完勝を演じたこの試合は、レバークーゼンのチームとしての成熟度を示すものだった。

本格的な監督キャリアにおいて率いた最初のチームであるレバークーゼンを、就任からわずか1年半でこれだけの完成度、成熟度に導いたという事実は、シャビ・アロンソがどれだけ優れた手腕の持ち主かを物語る証左だ。かつてのグアルディオラがそうだったように、新世代の旗手として欧州サッカーで長く主役を演じる存在になることを期待したい。

文●レナート・バルディ(イタリア代表マッチアナリスト)
翻訳●片野道郎

公式戦いまだ無敗の衝撃!クラブ史上初のブンデス優勝も現実味を帯びるレバークーゼンの何が凄い?【戦術エキスパートが徹底解剖|前編】
【著者プロフィール】
レナート・バルディ(Renato BALDI)/地元のアマチュアクラブで育成コーチとしてキャリアをスタートし、セリエBのランチャーノ、バレーゼで戦術分析を担当。ミハイロビッチがサンプドリア監督に就任した際にスタッフとなり、ミラン、トリノ、ボローニャにも帯同した。現在はイタリア代表のマッチアナリストを務める。

※『ワールドサッカーダイジェスト』2024年3月21日号の記事を加筆・修正

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