<レスリング>【特集】未曽有(みぞう)の少子化時代、高校レスリングの普及・発展を考える…高体連レスリング専門部・千葉裕司部長&原喜彦理事長(上)

少子化が進み、どの競技も生き残りに力を注がねばならない状況となっている日本スポーツ界。高校体育連盟が正式に統計を取り始めた2003年に「2,789人」(男子のみ)だったレスリングの競技人口は、昨年は「1,952人」(男女)に減り、学校対抗戦のメンバー(7人)を組めないチームが増えている。レスリング専門部の千葉裕司部長原喜彦理事長に、少子化時代下のレスリングの普及発展について話してもらった。(3月27日、風間杯全国高校選抜大会開催の新潟市東総合スポーツセンター/司会=樋口郁夫)

▲昨年に続いて有観客で行われた2024年風間杯全国高校選抜大会。高校レスリングの今後は、どうなるか?


男子の競技人口は横ばいだったが…

――全国の男子の競技人口(高体連への登録者数)に関しては、2022年度に比べて2023年度は2人減という意外な結果が出ました(1,724人→1,722人)。全競技の競技人口の減少率が3.66%であるのに、レスリング男子は0.11%。この結果を、どう判断されますが?

千葉部長 確かに2022年と2023年とでは、ほとんど違いがない数字となりました。しかし、数年前に比べると、ぐっと減っているわけです。減少のスピードは速い、という感覚があります。うかうかすると、1500人台になってしまう、という気持ちがあります。

――10年前の2013年は、男子のみの統計ですが、2,343人いました。10年で621人、減少しています。

千葉部長 コロナ禍で、小中学生でレスリングをやる選手が少なくなってしまいました。その影響が、2024年度、25年度に出ることが予想されます。どうするべきか、これまで以上に考えていかないとならない。中学校の部活動の地域移行が進んでいるので(2023年度~25年度が移行期間)、高校がどう対応するか、対応すべきか、を考えていきたい。

――風間杯全国高校選抜大会の開催県の新潟県は、学校対抗戦を組めるチームが1チーム(八海)だけとなり、2つある開催県枠のひとつを返上するほど、選手数が減っていますね。

原理事長 48校参加のひとつを地元が削ってしまったのは、本当に申し訳ないです。個人戦も全階級に2選手を出せない状況になっています。

――県内にキッズ・クラブは5チームあります。それでいながら、なぜ高校の競技人口が減少しているのでしょうか?

原理事長 レスリングを続けるとしても、そのまま新潟県に残る選手ばかりではないんです。それは、どの都道府県も同じだと思います。あと、これまで新潟県の高校レスリングを支えてきた指導者が高齢化してきたことと、公立高校では働き方改革が進み、部活動に力を入れることができづらい環境になっていることも原因と思います。そこへコロナ禍があり、うまくつながらなかったことがあります。

――レスリングを続けたい選手は、他県で受け入れてくれる高校へ行くケースが多いわけですね。

原理事長 県内に若い指導者がいないわけではない。(非常勤ではなく)正規の教員として採用してもらえるよう働きかけています。中学校でレスリング部のある学校はないので、部活動の地域移行は、レスリングにとっては明るい材料だと思っています。学校の部活動と外部のクラブとでは、学校の部活動が優先されますが、そうでなくなるわけですから。

▲全国高体連レスリング専門部・原喜彦理事長

現行の学校対抗戦は存続させたい

――全国には、中学校では部活動には所属せずにクラブ・チームでレスリングを続け、高校が受け入れる、という一貫チームが、すでにいくつかありますね。

原理事長 私立高校だけではなく、公立高校でもそうしたケースがあります。これからは、高校の監督がクラブ・チームを立ち上げ、選手を育てて高校で引き受ける、というケースが目立っていくと思います。団体の垣根を越えている、というか、キッズ、中学、高校が連携しあっていい形をつくっている都道府県はありますね。

――3月末の全国高校選抜大会は、新1年生はいないので一番選手数の少ない時期に行われ、それが学校対抗戦での不戦の多さになっています。ひとつの方策として、この大会の学校対抗戦は都道府県対抗とする可能性はいかがでしょうか。

千葉部長 可能性は否定しませんし、個人戦での成績をポイント化して学校対抗戦の成績を決める方法もあるでしょう。しかし、日本人的な感覚なのでしょうが、「7選手対7選手」の学校同士の対抗戦の方が圧倒的に盛り上がると思います。できる限りはやっていきたい、というのが、以前から変わらない気持ちです。高校レスリング界の主流がクラブ・チームになったときには、変えることも模索しないとならないかもしれません。

▲「デュアルミート」と呼ばれ、米国の大学や高校でも盛んに行われているチーム対抗戦

――学校の支援は、学校対抗戦だからあるのであって、都道府県対抗では支援の力が違う、ということはあるのでしょうか。

千葉部長 それはあると思います。

原理事長 この大会が全国高体連から認められたのは(注=以前は高体連の大会ではなかった)、学校対抗戦があったからです。

現場の指導者や選手の意見をしっかりとすくい上げたい

――やはり、学校対抗戦は外せませんね。

原理事長 中学の部活動の外部移行によって、どう変わっていくか。高体連が都道府県対抗を認めるのか、逆に認めなくなるのか。今が変わり目でしょう。あと、私達は組織を運営している立場ですが、こうした変化に対しては、現場の指導者や選手の意見をしっかりとすくい上げ、議論を重ねて実行することが大事だと思います。私達の意見だけで「変えます」と言っても、現場は納得しないかもしれないし、強く反発されることもあるでしょう。そのあたりを、ていねいにやりたい。実行するのは、次の世代の人になるかもしれません。

▲全国高体連レスリング専門部・千葉裕司部長

――競技人口を増やす方法として、柔道やラグビーなどの選手を「引き抜く」ということではなく、レスリングの方が向いているかな、と関心を向けさせることもひとつの方法。アピールについてはいかがでしょうか。

原理事長 高体連の活動としては、過度な宣伝・活動には限界があるんですよ。少年少女や中学の全国大会のように、予選をやらずに全国の選手を一堂に集めて大きな大会をやれば、それなりのアピールにはなるでしょうけど、それはできないんです。

――目立ちたがりの選手は、有名になりたい、というのも頑張るエネルギーでしょう。若者がテレビでも報じられる華やかなスポーツに気持ちが向くのは当然だと思います。

千葉部長 吉田沙保里さんの存在は大きかったですよね。スポーツは、スターがいないと盛り上がらない。オリンピックのときだけではなく、通常でも協会を挙げて盛り上げる努力をしてほしいし、適切な表現かどうか分かりませんが、広告塔として目立ってくれる選手が出てほしい。

《続く》

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