『虎に翼』を盛り上げる仲野太賀のコメディセンス 伊藤沙莉との息の合った芝居は必見

NHK連続テレビ小説『虎に翼』第1週「女賢しくて牛売り損なう?」が放送された。言いたいことを隠せず口にしてしまう寅子(伊藤沙莉)は、大学で偶然出会った穂高(小林薫)の一言をきっかけに法の道を志す。この件では、書生として猪爪家に下宿する佐田優三(仲野太賀)が大切な役割を果たしている。

仲野太賀が演じる優三は早くに両親を亡くす。弁護士だった父に憧れて大学に進むもののなかなか高等試験(現在の司法試験)に合格できずにいるという役どころ。昼は直言(岡部たかし)の務める帝都銀行で働きながら、夜は明律大学の夜間部で勉学に励む浪人生だ。そもそも寅子は優三に弁当を届けようと明律大学を訪れ、穂高に出会っている。優三の存在が巡り巡って寅子を法の道に進ませたことから、今後の物語においても重要な立ち位置になりそうな存在だ。加えて、仲野の芝居の塩梅がまた素晴らしい。

仲野といえば、これまで数々の作品でその演技力を発揮し、世に実力を知らしめてきた。NHK大河ドラマは『風林火山』『天地人』『江~姫たちの戦国~』『八重の桜』『いだてん~東京オリムピック噺~』の5作品に出演。他にも『この恋あたためますか』(TBS系)の新谷誠役や主演を務めた『初恋の悪魔』(日本テレビ系)の馬淵悠日役、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)の赤田鼓太郎役などで注目を集めてきた。

この後、豊臣秀長役で主演を務める2026年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』が控えていることからも、今回の朝ドラ出演は大河前の顔見せの場としてもうってつけ。さっそく伊藤との息の合った芝居で『虎に翼』を盛り上げてくれている。

●視聴者の心をガッチリと掴む仲野太賀のコメディセンス

仲野の持ち味はやはり、シリアスからコメディまで演じきれる幅広い演技力だろう。これまでの出演作では、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2016年)のような繊細な映画作品から、『50回目のファーストキス』(2018年)のようにクスリと笑える作品まで見事に演じわけてきた。今回の『虎に翼』でも、仲野のコメディセンスは初っ端から視聴者の心をガッチリと掴む。ズボンを履いている途中に寅子が部屋に入ってきて、おまけに花江(森田望智)まで帰ってくるという、てんやわんやの芝居はまさに笑わずにはいられない楽しいシーンとなった。

第1週では、女性であることでの生きづらさをピリッと描く部分も多かった『虎に翼』。こうした理不尽さ、言いたいことを言えない苦しさは物語を描く上で重要なパートでありながら、どうしても心に重くのしかかってくる。その中において、仲野のコミカルな芝居はいっときモヤモヤを忘れさせてくれるかのような明るさを持っている。何があっても進み続けようとする寅子の前向きさと相まって力強く作品を盛り上げてくれるのだ。伊藤もまたコメディエンヌとして素晴らしい芝居をするだけに、仲野との楽しい掛け合いで本作を盛り上げる姿も期待できそうだ。
(文=Nana Numoto)

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