高齢になった親が、健康によくなさそうな「好きなもの」ばかり食べることに頭を悩ませている人もいるのではないでしょうか。しかし、そうした健康的ではない食事が「高齢者の健康を保つカギ」になることもあると、精神科医の和田秀樹氏はいいます。本記事では和田氏の著書『老化恐怖症』(小学館)から一部抜粋し、高齢者の食生活と病気の関係について解説します。
好きなものばかり食べることに隠された「意外な理由」
「親が80代になってから、好きなものしか食べてくれない」と悩む声があります。甘いものや塩辛いもの、脂っこいものばかり食べていたら、子供として心配になるのも理解できます。
その理由は、肥満が健康に悪影響があり、塩分、糖分、脂質が体に悪いもの、と捉えられているからでしょう。しかし高齢者の場合、「体がそれらの栄養を求めている」と考えることもできます。
たとえば塩分。腎臓にはナトリウム(塩)を貯留する働きがありますが、老化によりその働きが落ち、塩分制限をしていると、血中のナトリウム濃度が不足する「低ナトリウム血症」を起こすことがあります。
これを防ぐために、体が塩分を欲しがるということがあるわけです。低ナトリウム血症は意識障害や痙攣などを引き起こす怖い症状です。
栄養的には蕎麦よりラーメンが優れている?
血圧や血糖値のように、歳をとればとるほど、「足りないことの害」が目立ってきます。それは栄養においても同じです。
老化予防=アンチエイジングの観点から言えば、多品目を食べたほうがいいのは確かです。若い頃であれば、ダイエットをしても顔がしわくちゃになることはまずありませんが、歳をとってからやせると、顔はしわくちゃになってしまいます。
肌を若く保つにはタンパク質を多く摂ったほうがいいし、鉄や亜鉛などの微量元素も摂ったほうがよい。だから、1日30品目以上食べるほうが良いとされているわけです。
ただ、その30品目の摂り方にはいろいろあります。たとえば、最近流行っている化学調味料不使用のラーメン。スープだけで魚介系や肉系、野菜など10〜15種類の食材の栄養が入っています。それに炭水化物である麺のほか、ナルトやメンマ、チャーシュー、煮卵などが具材にあれば、それだけで20品目くらいの栄養は賄えます。
その意味では、蕎麦のほうが体に良さそうに思えるけど、品目という観点からはラーメンのほうが栄養的に優れているわけです。
一方、足りない栄養は食べ物だけで摂る必要もない。食事では好きなものだけ食べ、不足する栄養素はサプリメントを摂取して補うことも可能です。
肉食が中心のアメリカで心筋梗塞がものすごい勢いで減っていますが(2011年の心筋梗塞による死亡数は1977年比58%減)、栄養の偏りをサプリメントで補うライフスタイルが一役買っていると考えられます。
「カロリーを減らせ」はアメリカの健康常識
そして、もう一つ、日本人は「好きなものだけを食べる」ほうが理に適っていると私が考える理由があります。
それは、好きなものを食べて幸せな気分になるほうが、健康にはいいからです。逆に、嫌いなものを食べるストレスのほうが、体に悪いと思っています。
アメリカと日本を比べた時、アメリカはいまだに心疾患が死因のトップですが、日本では急性心筋梗塞で亡くなる人はがんで亡くなる人の12分の1しかいません。そんな日本で健康のために一番大事なのは、免疫力です。
体中に発生するがん細胞をやっつけてくれるのがNK(ナチュラル・キラー)細胞ですが、これはストレスがあると活性が低下する一方、笑っている時などの幸せな気分では活性が上がることがわかっています。
つまり、がん死が多い日本では、楽しむことが一番大事なわけです。反対に、いまだに心疾患が死因トップのアメリカにおいては、コレステロールやカロリーの摂取を減らして、心筋梗塞を予防すること=体にいいこと、とされています。食べたいものを我慢する食事制限は、アメリカ流の健康常識である面が大きいのです。
食べたいものを我慢させて、食べたくないものを「体にいいから」という理由で勧めることは、わざわざ「がんになりやすい食事」を勧めていることになりかねないのです。
老親の「飲酒」で注意すべきは「依存症」
80代を迎えたら、したいことは我慢しない――これが幸せな高齢者になる秘訣ですが、お酒やタバコ、ギャンブルなども「適度に」楽しむなら問題はありません。この場合の適度とは、「自分でコントロールできる範囲」のことです。
老親が離れてひとり暮らしをしている場合でも、飲む時は友人と楽しんで飲んでいるとか、適量にとどめているなら心配はないでしょう。
幸いなことに、日本人は遺伝的にアルコールにそれほど強くない体質のため、歳をとるほど酒に弱くなるので、たとえば水割り2〜3杯、日本酒2合くらいまでで済んでいるなら、それほど問題はないと思います。
注意すべきは、ひとり暮らしで誰かと一緒に飲むわけでもなく、お酒の量がどんどん増えていくことです。特に、朝から晩までお酒を肌身離さないとか、飲まない時間帯がないとか、朝から飲んでいる状況がある場合は要注意。
すでにアルコール依存症になっている可能性が高く、命に関わる状況が生じやすいため、なんとかお酒から引き離したほうがいいでしょう。
とはいえ、離れて暮らす老親の飲酒を見張ることは現実にはできないので、依存症が疑われたら、専門医の診察を受けることを考えるべきでしょう。
和田 秀樹
精神科医
※本記事は『老化恐怖症』(小学館)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。