特殊詐欺で暗躍の「元暴アウトロー」警察が“大成敗”に乗り出すも…「社会的排除」では解決できない本質的な問題

暴力団在籍時の犯罪スキルを持ちながら、守るべき“おきて”に縛られなくなった「元暴アウトロー」が“もっとも厄介”だという(takahiro.048 / PIXTA)

特殊詐欺等を広域的に敢行する集団「匿名流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の取り締まりを強化するため、警察庁は1日、都道府県の垣根を越えて捜査にあたる「特殊詐欺連合捜査班」を発足させた。

トクリュウをめぐっては昨年7月、従来の暴力団や準暴力団などに分類できない新たな犯罪グループとして警察庁が位置づけ、取り締まりの強化と実体解明に乗り出していた。

筆者は、トクリュウの犯罪が減じない要因のひとつとして、暴力団離脱者の問題があるとみている。

暴力団構成員等が“主導的な立場”で特殊詐欺に深く関与

警察庁が発表した2023年の特殊詐欺の検挙をみると、暴力団構成員等(暴力団構成員および準構成員その他の周辺者の総称)の検挙人員は404人であり、総検挙人員に占める割合は16.2%であった。

暴力団構成員等の検挙人員のうち、中枢被疑者は24人、指示役として受け子・出し子を動かした者は17名、リクルーターは70人であった。

また、中枢被疑者の総検挙人員に占める割合は38.7%で、「依然として暴力団が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与している実態が伺われる」と、警察庁はコメントしている(令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について〈暫定値版〉)。

暴力団を辞めても「暴力団員等」

ここでいう暴力団員等とは、暴力団を離脱して5年を経過しない者を含む。すなわち、社会復帰に失敗した真正離脱者や偽装離脱者を含んでいる。

筆者は、法務省の更生保護就労支援や保護司として、多くの暴力団離脱者と接するなかで、彼らの受け皿をつくる必要性を痛感してきた。

暴排条例が施行されてからの10年間、警察の支援で暴力団を離脱した5900人のうち、把握されている就労者は3.5%ほどである(自営を始めた者、縁故就労者は含まれない)。

暴力団離脱者の就労が進まない理由

離脱者の就労が進まない理由として、支援したある離脱者は「警察や暴力追放運動推進センターは、もとは反目(敵対していた)の組織だから頼りたくない」と言った。

そのほかに、「そういう場所に出入りしていると、あいつは警察の『S(スパイ)』だったのではないかという疑いを掛けられる恐れがある」という理由もあった。

また、これは暴力団離脱者に限らず一般の刑法犯も同様であるが、彼らは「お役所然」とした場所に行くことを忌避する傾向がある。たとえば、ハローワークの初期手続きは、支援員が同行すれば行くものの、その後の求職活動に行かない者が大半であった。

社会復帰できず犯罪に走る“元暴アウトロー”

暴力団離脱者は、一般社会の処罰感情に加えて、「元暴5年ルール」により、銀行口座が開設できない、賃貸契約ができない、携帯電話の契約ができない等、社会復帰における壁がある。

こうした壁に直面し、社会復帰を断念した元暴が、再び犯罪に走ることは想像に難くない。筆者は、20年間反社研究に従事して、そうしたケースを数多くみてきた。

トクリュウの中で、警戒を「大」にしないといけないのが、この種の元暴である。彼らは、暴力団在籍時とは異なり、守るべき看板やおきてがない“元暴アウトロー”なのだ。何より、もともと犯罪社会の住民だから、犯罪のスキルや経験に加えて、犯罪ネットワークを有しているゆえに危険である。

暴力団離脱者を社会的に排除することで、彼らの社会復帰は困難となり、生活も困窮する。そうすると、追い詰められた彼らは元暴アウトローとなり、再びトクリュウのような集団に合流して犯罪的生活に陥るから、新たな被害者を生み続ける可能性がある。暴力団離脱者の社会復帰支援は、新たな被害者を生まないためにも不可欠である。

特殊詐欺の検挙人員の推移。令和5年は、このうち16.2%にあたる404人が暴力団構成員等だった(警察庁「令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について〈暫定値版〉」より)

「刑務所入れろ」は税金の無駄遣い

ちなみに、「罪を犯した者は刑務所に入れろ」という意見があることも承知している。しかし、彼らを刑務所に収容すると、被収容者1人当たりの総経費は年間で約450万円に上るという(ダイヤモンド・オンライン 2023年10月16日)。この経費は、われわれの血税から賄われる。まっとうに働いて年間400万円稼ぐことが大変な昨今、「刑務所に入れておけ」という解決策は、効率的とは言い難い。

元暴の社会復帰につき、筆者の経験に照らして私見を述べさせていただくと、「住、職、衣」の確保に加えて「居場所」が不可欠である。だから、筆者が就労支援に従事していた時には寮付の職場を紹介していた。とはいえ、公的支援ということもあり、「居場所」の確保までは手が回らなかった。

元暴による、元暴のための立ち直り支援

公的支援ではカバーしきれなかった支援活動が、元暴の人たちによって行われている。先月24日に発売された『女ヤクザとよばれて――ヤクザも恐れた「悪魔の子」の一代記』(清談社)の主人公である西村まこ氏や有志による住居確保、就労支援、そして居場所づくりだ。この活動主体は、西村氏が支局長を務める「非営利活動法人・五仁會(ごじんかい)岐阜支局」である。

西村氏によると、「ここの住民は、普通の人じゃなく、訳アリの人が多いのです。たとえば、前科のある人、刑務所出たものの帰る場所のない人……様々です。こういう人たち、つまり、自宅の確保が難しい人たちのために部屋を確保しようと、藤本さん(編注:岐阜市柳ヶ瀬の西に位置する、五仁會岐阜支局の拠点・ロアビルの管理人)が管理するビルで始めた活動が、実は、五仁會岐阜支局の起点となっています」という。

さらに、居場所としての機能について、次のように述べている。

「毎日、仕事を終えてロアビル(編注:五仁會岐阜支局の拠点。一階は事務所兼住民の交流の場で、上階はワンルームの住居)の一階に集まるのは、コミュニケーションの場を持つこと、安否確認ができることなどの利点があります。ここロアビルでは、社会で孤立させない、ひとりにしないをモットーに、悪い事をしているであろう人にも(経験から何となく分かります)、冗談交じりに注意しつつ更生を促しています。税金から役所の手続きまで、何でも皆で教え合い、解決策を考えます。正直なところ、この場所は、ロアビルの住民の人たち以上に、私や藤本さんにとっても居場所になっています」

公的な支援には限界がある。しかし、暴力団のサブカルチャー経験者による支援は、かゆいところに手が届くようだ。この五仁會岐阜支局が運営するロアビルの定着率は高い。行政とは異なる元暴の支援は、共通の文化的背景を有するために、支援対象者の個別ニーズを把握しやすいという利点がある。

元暴による、元暴のための立ち直り支援、就労支援、居場所づくりの試みが、暴力団離脱者の再犯を防止する妙薬となることを、願ってやまない。

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