沖縄コザ高校自死事件「部活したくない」再調査で明らかになった“理不尽かつ強烈な叱責”

理不尽な指導を受け心身ともに疲れるまで部活は続けるべきか(Bilbo / PIXTA ※写真はイメージです)

沖縄県コザ高校の当時高校2年生だった男子生徒が、空手部の顧問教諭から激しい叱責を受けて2021年1月末に自死した。

「息子はなぜ死を選ばなければならなかったのか。それを知りたい」

自死した生徒の遺族らから陳情を受けた沖縄県議会は同年7月26日、再調査などを求める決議を行った。その後、県は22年1月6日に第三者委員会を設置し、37回もの委員会を開催。24年3月22日に調査報告書を公表した。

暴言、丸刈り強要…壮絶パワハラで自死

報告書によると、男子生徒は高校入学時から顧問に指導を受ける場面が多く、1年生の時は「顧問から空手部の古紙回収作業を指示されたことから学園祭のクラス活動に参加できなかった」などだったが、2年生になると行為がエスカレートする。

20年4月、この時期は新入生が入部する時期だ。空手部でも新入部員がいたが、入部予定者が練習に遅刻したり欠席したりした。ところが、なぜか顧問はこれらの遅刻や欠席が男子生徒の責任だとして叱責したという。

20年からは新型コロナウイルスが感染拡大を見せていく時期でもある。コロナの状況を踏まえ、男子生徒らは「感染したくない」との思いで顧問に対し、練習を休みにするよう提案したが顧問は激怒。男子生徒は混乱し、追い詰められ始める。

男子生徒はその後も顧問から「まぐれで勝った」「部活辞めろ」「キャプテン辞めろ」などと叱責を受け、さらには頭髪を丸坊主にしていないと指摘され、泣きながら丸坊主にするなどした。そして21年1月末、顧問から前日に激しい叱責を受けた男子生徒は、部室で部員らに「部活したくない」「先生と会いたくない」などと弱音を吐き、部室を出ていく。夕方、男子生徒の母親が帰宅。その際には鍵などがあり、帰宅した形跡はあったものの、男子生徒の姿はなかった。

「あれ?どこに行ったのかな」

母親が総合病院から連絡を受けたのは同日夜。母親の思いもむなしく、男子生徒は翌日午前、死亡した。

「前日の理不尽かつ強烈な叱責が大きな要因」

このように、男子生徒は顧問から壮絶なパワハラを受けていた。顧問は以前にも暴言騒ぎや、女子生徒にセクハラまがいの行為などの問題も起こしていたが、教員や部員らからは「言葉は荒いが愛情はある」「カッとなるところがある」「学校全体のことを考えて積極的に動く人」「空手の指導内容は基本的に適切な内容が多く、理不尽な内容で怒ることはなかった」との意見があった。

しかし、報告書では「自死前日の顧問からの理不尽かつ強烈な叱責が、男子生徒を自死に至らしめた直接のきっかけとなった大きな要因」と断罪。顧問が男子生徒に対し、支配的主従関係におかれていることを再認識させて覚醒状態を呼び起こし、さまざまな刺激に反応するようになったとも分析した。なお、沖縄県教育委員会は21同年7月末、この顧問を懲戒免職処分とした。ただ、校長は同年3月31日付けで定年退職。管理監督責任者は学校長だったため、教頭の懲戒処分はなかったという。

そのうえで、第三者委員会ではコザ高校や県教委へ以下のような事項を提言した。

  • 自死予防教育・研修の実施
  • 告発者等の不利益取り扱いの禁止
  • 生徒の悩みごとに対する相談体制の構築
  • 生徒・保護者が参加する部活動の運営体制の構築

21年2月に県が立ち上げ、「不十分だ」などと批判を受けた「第三者チーム」での調査から約3年。パワハラ行為に及んだ顧問はもういないが、一定の結論が出たと認識してもいいのかもしれない。なお、本稿記者はコザ高校に取材を申し込んだが、回答はいまだに届いていない。

部活の改革が進み、楽しく高みを目指せる部活に期待

「理不尽なことを受けて心身ともに疲れるまで、部活を続けるべきか」
「部活の指導を受ける際、暴言や暴力などがあり困っている」

4月から新学期を迎え、慣れない環境で不安を感じてはいないだろうか。部活では『厳しい指導をしてまで良い成績を求める』のか、それとも『ゆるく楽しくが良い』のか。考え方には多くの議論がある。

ただ、本稿記者はその中間の「厳しくかつ楽しく」を実現できないかと考えている。メリハリのある部活であれば、苦しいことも乗り越えられると思うからだ。

例えば『ゆるく楽しく』であれば、神奈川県立厚木北高校の「ヨガ同好会」で、インストラクターを外部から呼んで月1回活動。運動が苦手な生徒でも気軽に参加できることもあり、密かに注目を集めている。京都府舞鶴市立城南中学校でも、ボードゲームやキンボールなどを行う部活がある。体育会系の部活よりかは、生徒たちが楽しむことを主眼に置いていると感じられた。

今後、改革がもっと進み、楽しく高みを目指せる部活が増えることを願っている。

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