58歳 エッセイスト 広瀬裕子さんの暮らし「不安は“課題”と受けとめて、かろやかに歩いていく」

日々を明るく照らしてくれる小さな楽しみや、心を潤すための暮らしの工夫は、幸せを感じさせてくれます。そんな暮らしを営み、わたしらしく、今を生きる女性を紹介する『60代からの小さくて明るい暮らし』(主婦の友社)から、エッセイスト 広瀬裕子さんを2回に渡って掲載します。

PROFILE
エッセイスト・設計事務所共同代表
広瀬裕子さん(58歳)
東京都在住。ひとり暮らし
東京で生まれ育ち、葉山や鎌倉、香川を経て、2023年から東京在住。衣食住をテーマに執筆を続ける一方、設計事務所で空間デザインディレクターとしても活動。近著は『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)。

気持ちを落とさないための工夫をあれこれ用意しながら

高層ビルと倉庫の間にきらめく隅田川や東京湾。大きく開けた空に、夕暮れどきには小さく富士山も。そんな東京らしい眺めが広がるマンションが、広瀬裕子さんの昨春からの住まいです。

「香川県で暮らしていたのですが、父の介護を機に実家のある東京へ移ることに。転居準備中に父は亡くなってしまいましたが、60歳を前に今後の生活を考えようと、生まれ育った東京に戻ってきました」

新居は交通の便のよさで中央区に。中でも隅田川周辺に惹かれていました。

「日本橋から隅田川を船でめぐるツアーに転居前に参加して。江戸城石垣や橋の裏の弾痕などの歴史の痕跡に驚き、東京は水の街だと実感。川のそばに暮らしたくなりました。また父を亡くした夏に、隅田川の近くで盆踊りを見かけて、昔ながらの文化を守る土地柄にも魅力を感じました」

そうして始まった約15年ぶりの東京暮らし。さらに東京の東側は初めてとあって、気持ちは今、外に向かっています。

「香川県の生活では車移動が中心でしたが、東京では散歩が日課になりました。身近なところでは近くの氏神さまの分社にお参りして川辺のカフェに行ったり、野菜を買いに築地まで歩いたり。目的があると歩くのが苦にならないし、歩道も広くて歩きやすいんです。久々の東京は以前よりもずいぶんバリアフリー化が進んで、やさしい街になったと感じています」

一方、東京ならではのたまの楽しみも。川めぐりや、落語、歌舞伎へのお出かけ。鰻やお寿司などの江戸ものの外食に、大好きな『とらや』や『ウエスト』のお菓子……。それらは、気持ちを落とさないための工夫でもあります。

「だれしも歳を重ねると心配ごとは増えますよね。だからこそ自分の気持ちが落ちないよう気を配りながら、今までとは“不安のとらえ方”を変えていかねばと思うのです。漠然とした不安に引っ張られず、解決できることとできないことをきちんと分けて、できる対処や準備をする。すぐ解決できないことは“悩み”ではなく“課題”ととらえる。こなせない課題はいったん横に置いてもいいし、考え中だと思えば、気持ちが少し軽くなるのかなって」

日々を照らす、小さな楽しみ

“紅茶をいれて味わう”毎朝の習慣を通して自分の中の小さな変化を感じとる

朝は紅茶をいれて1日を始めるのが10代からの習慣。お湯を沸かし、カップを選んで温めて、紅茶をいれる。毎日繰り返しているからこそ、一連の動作の中に立ち現れるほんの小さな変化に気づきます。同じ茶葉でも体調や天候で味や香りが違ったり。落ち着かない日は丁寧にお茶をいれることで心を鎮めたり。習慣は自分を形づくるものであり、自分を知るための基準にもなります。

ミルクティーが定番。「ウエスト」のバタークッキーなどで軽めに。
茶葉はそのときどきで1種類。最近は「とらや東京ミッドタウン店」限定の“とらや特選紅茶”がお気に入り。
よく使うカップ。左上はポットとそろいの「マイセン」。右上は約25年愛用する「ロイヤルコペンハーゲン」。右下は心ときめいた同ブランドの新作、ブラックフルーテッド ハーフレース。
抽出は茶葉の状態が見える耐熱ガラスポットで。蓋のデザインが好みではなく「ヴィジョングラス」の蓋で代用。時間がある日は濃くなりすぎないよう陶器ポットに移してゆっくり飲みます。

日々を潤す、暮らしの工夫と心がけ

花を添え、テーブルセッティングしてひとりの食事も気分よく

夕食はごはんとおみそ汁とシンプルなおかずが基本。この「オーボンヴュータン」のパテのように東京はおいしい加工品が多いので、たまの楽しみに。花を飾りテーブルセッティングをすると、ひとりの食事も悲しい気持ちになりません。

自分に合うまくらで良質な睡眠を

よく眠ることと湯船に浸かることは健康維持のためには欠かせません。睡眠時間は8時間ほど。安眠のために大切なまくらは「ボディドクター」。ほかのものが使えないほどわたしに合っていて、大きさを買い替えながら20年近く愛用しています。

日中、寝具は見えないように収納して生活にメリハリをつける

数年前から、引っ越しや模様替えが大変なマットレスをやめて布団の生活に。今の住まいは寝室が別ではないので、寝具はたたんでクローゼットに収納。朝起きて布団をしまうと気分が切り替わり、お昼寝したくなるのも予防できます。

写真/清永洋

※この記事は『60代からの小さくて明るい暮らし』主婦の友社編(主婦の友社)の内容をWeb掲載のため再編集しています。


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