不妊治療の妊娠率・分娩率が向上 食品の鮮度保持技術を体外受精に応用 群馬・高崎市のクリニックが企業と共同研究

「予想以上の結果が得られている」と話す上条院長

 不妊治療・婦人科の上条女性クリニック(群馬県高崎市栗崎町、上条隆典院長)が、食品の鮮度保持装置の製造などを手がけるDENBA JAPAN(デンバジャパン、東京都中央区)との共同研究で、体外受精での妊娠率・分娩率の大幅な向上を実証した。受精卵(胚・はい)を培養する環境に同社の技術を活用することで、胚細胞の活性化やダメージ軽減をもたらすもの。上条院長(61)は「これまでさまざまな製品や手法を試してきた中で、予想以上の成果が得られた」と話している。

 元気な胚はより良く

 体外受精は、排卵近くまで発育し成熟した卵子を体外に取り出し(採卵)、培養液の中で精子と接触させ、細胞分裂した受精卵を子宮内に戻す(胚移植)不妊治療を指す。採卵と同じ周期で移植する「新鮮胚移植」と、受精卵を一度凍結させ、別の周期で解凍して子宮に戻す「凍結融解胚移植」の手法がある。上条院長によると、ここ数十年、体外受精に関するさまざまな技術、製品が開発されてきたが、「胚の培養については近年、出尽くした感がある」という。

 デンバジャパンは独自の電気エネルギーによって「電場空間」をつくり出し、その空間にある水分子を振動させることで、鮮度保持や菌の発生抑制につながる技術を開発した。この技術を胚の培養環境や凍結および解凍に応用し、胚の良好な発育を促す。同社は「胚が培養液の中で順調に分裂していくことが大事。当社の技術で元気な胚はより良く、元気のないものも活性化させる効果が得られる」とする。

「安全性保たれる」 

 2002年にクリニックを開業して以来、患者の妊娠率・分娩率を高めるため独自の研究を重ねてきた上条院長。デンバジャパンの製品である、食品の鮮度保持技術を使った健康マットをたまたま見つけて使った経験から、胚の培養環境に応用できると考え、22年3月に共同研究を始めた。

 その結果、国内の体外受精・新鮮胚移植の妊娠率21%、分娩率15%(日本産科婦人科学会、21年)に対し、同クリニックは妊娠率54%、分娩率29%と大きく上回った。凍結融解胚移植に関しても、妊娠率が研究前と比べて32%増、分娩率が54%増となった。上条院長は昨年11月に石川県金沢市で開かれた日本生殖医学会学術講演会・総会で、研究の成果について発表した。

 上条院長は現在、クリニックで取り扱う胚のほぼすべてに同社技術を使っているといい、「胚や培養液に何かを加えるのではなく、液の水分子に影響を与えるものなので安全性が保たれる」と強調する。今後については「培養以外の分野でもデンバの技術の導入を検討したい」と語った。

かみじょう・たかのり 群馬大医学部卒。1993~96年、米国の不妊治療専門機関や大学で研究。帰国後、群馬大産婦人科を経て2002年に上条女性クリニック開業。生殖医療専門医・婦人科内視鏡技術認定医取得。

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