イラストレーターISHIDA UMIが描く「カワイイ不気味な“人外”がいる世界」

カワイイのなかに、どこか不気味さや怖さを感じさせる人外のイラストが話題を呼んでいるイラストレーターのISHIDA UMIさん。

こだわりを英語にするとSticking(スティッキング)。創作におけるスティッキングな部分を、新進気鋭のイラストレーターに聞いていく「イラストレーターのMy Sticking」。今回は、ISHIDA UMIさんに人外を描くうえで意識していることなどについて聞きました。

『夏のホラー特集』がすごく好きでした

ISHIDA UMIさんがイラストをSNSにアップするようになったのは、2022年の始めごろ。それから1か月ほどして大きな反響があった。

「それまでも絵は描いていたんですが、特にどこかに載せるわけではなかったんです。特にきっかけがあったわけではないんですが、なんとなく上げてみようかなと思ったんです。心機一転みたいな感じでした。

すごいたくさんの反応をいただいて、こういう感じになるんだと思いました。絵を見て、いろいろ考察してくれる人もいたりして、読んでて面白かったですね。“そんな意見もあるんだ”と思いました」

幼少期から絵を描くことが好きだった話すISHIDAさん。子どもの頃は少女漫画をマネて描いていたという。

「小さい頃からずっと絵を描いてる子どもでした。気づいたら絵を描いてる感じ。『ちゃお』を毎月買ってもらってたので、好きだった漫画をマネして、キラキラした絵を描いてました。友達から“このキャラ描いて”って言われることもありましたね」

▲本人X(旧Twitter)より

具体的に、どんな作品を描いていたのか聞いてみた。

「日常に潜んだ怖さを描いている作品、少女漫画の『夏のホラー特集』みたいな特別号がすごく好きでした。タイトルでいうと『地獄少女』(永遠幸)がすごく好きでした」

幼少期は「海の上での生活が日常」

ISHIDAさんのイラストには、人外のキャラクターが多く描かれている。特に海に棲んでる生物をモチーフにしたイラストが多いことに触れてみると、すごい話が飛び出した。なんと、両親が船に乗って世界中を旅することを趣味としており、小学校に通うまでは船で世界中を転々としていたそうだ。

「自分が生活しているなかで、“こんなキャラクターがいたら面白いな”って考えから描き始めたんだと思います。昔からそういことを考えるのが好きでした。人外を描くときは、かわいさと不気味さのバランスをすごく意識して描いています。純真無垢だけど、どこか怖く見えるような絵を目指してますね。

両親は日本人なんですが、私が生まれたのはアメリカでした。ほとんど船に乗って生活していたので、船が家って感じで海の上での生活が日常でした。4か月かけて太平洋を渡ったりもしました。だから、自分の中では海が特別で、海にいる生き物が多くなるんだと思います」

▲ウミウシのような人外が少女に懐いている

ISHIDAさんのイラストは背景も細かく描かれていて、そこにもこだわりを感じた。さらには、“この干してある服、別のイラストで誰かが着ていたような……”みたいな考察も。

「できるだけリアルな背景を目指しています。背景がリアルだと、見る人が感情移入しやすくなると思っているので。写真っぽいリアルなところだけど、そこに不思議な生き物がいる、っていう絵作りが理想ですね。それから、私が描く絵は同一世界線のなかで描いてるんです。別の絵でも、同じ世界のどこかで起きているっていうイメージです」

▲周りのアイテムも何かしら意図を考察してしまう

それに加えて、一枚のイラストなのにストーリーがあるようにも感じられる。置かれているモノの向き一つにも意味があるのではないか、そう勘繰ってしまうのだ。

「それは意識はしているところですね。漫画の見せコマっぽくするっていうイメージはあります」

常に絵のことを考えて生活してます

ISHIDAさんのイラストからは、アナログ的な質感を感じていたので、フルデジタルで描いていると聞いて少し驚いた。リアルに感じつつも、“確かに絵だ”とも思わせる不思議な魅力。自分の描くイラストについて、どのように分析しているのか気になった。

「いろんな人から“ぬるぬるしてる”とよく言われます。糸を引きそうな感じだって(笑)。私自身、湿度が高いところがすごい好きなので、肌に感じる生温かさみたいなものも意識して描いてますね」

▲どこか質感を感じるイラスト

ISHIDAさんのイラストは、リアルな背景と“人外”というファンタジーの組み合わせ。そのアイデアは、どうやって思いつくのだろうか。

「散歩中に風景を見てアイデアを思いつくことが多いですね。アイデアが浮かんだときの場所を写真に撮って、背景の参考にします。日常的に絵のことを考えながら生活してます。というか、考えてないことがないかもしれないです」

常に絵のことを考えていても、まったく疲れないと話すISHIDAさん。息抜きはしていないのか尋ねてみた。

「う~ん……思いつかないですね(笑)。もともと絵が息抜きだったので。そのままでずっと楽しいです。基本、すべての工程が楽しいですよね。実際に描き始めたら1枚6時間くらいで描いちゃいます。構図をどうしようか考えるのが一番時間がかかりますね」

子どもの頃の出来事を絵に落とし込んでいる

SNSにアップされているトビウオのような人魚のイラストは、2枚の連作となっている。1枚目は人魚と少年が海岸で楽しそうに戯れている様子。2枚目は気を失っているように見える人魚を少年が担いで無邪気に笑っている。続けて見るとかなりショッキングだ。この2枚のイラストのあいだにもストーリーがありそうに思い、話を聞いてみた。

「2枚同時に思いついたわけではないんです。最初に1枚目を描いて、ふと2枚目を“あっ”と思いついて描いていった感じですね。SNSでの反響は大きかったです。“ショックを受けた”という反応が多かったですね。“そうだよなぁ”と思いました(笑)」

日常にある怖さを感じるイラストを、どういう発想で描いているかを聞いてみた。

「子どもの頃にあったショックな出来事を、今でも覚えているんですよ。小さな生き物で遊んで殺めてしまう経験は誰しもあると思うんですけど、そういうのを絵に落とし込むように描いています。幼いからこその好奇心と悪気の無さなんですが、いま思うと残酷だなって感じます」

ISHIDAさんにとって転機となった作品は、玄関で女の子がウミウシのような人外を抱っこしているイラストだという。女の子と人外はもちろん、後ろのゴミ捨て場が荒らされてる感じや、ダンボールがまとまってるところとかも気になってしまう、じつに興味深いイラストだ。

「初めてSNSで人外を上げた作品になるんですけど、これを描いたときに“こういうのが描きたかった”と思って。そこからずっと人外を描くようになりました」

▲カワイイのなかに不気味さがある不思議な感覚

ISHIDAさん自身が影響を受けた作品について話を聞いた。

「かわいらしい絵柄みたいなものは、昔読んでた少女漫画が起源かなと思います。ホラー作品が好きだったので、“かわいらしさと怖さを組み合わせたら面白い”っていう発想になったのかもしれないです。

ホラー漫画だと、伊藤潤二さんの作品がすごく好きで読んでました。怖いなかにもギャグがあって、シュールさもあったりして、ちょっと笑っちゃうんです。そこがいいんですよね。映画だと『ミスト』がすごい好きで。はっきりとクリーチャーは出てこないんですけど、物語でどんどん人が恐怖に陥るみたいな感じが好きですね。そういうのを見て、こういう作品が作れたらいいなと思ってました」

最後に今後やりたいことについて聞いた。

「イラスト以外にも表現方法を広げていけたら、というのが目標です。漫画やアニメーションに興味があるんです。フィギュアも作ってみたいですね」

(取材:山崎 淳)


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