離婚伝説×First Love is Never Returned対談 2組に共通する“いい曲”に向かうスタンス

Spotifyがその年に躍進を期待する新進気鋭アーティストをサポートするプログラム『RADAR: Early Noise』。2024年はMFS、音田雅則、サバシスター、JUMADIBA、jo0ji、CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN、tuki.、十明、First Love is Never Returned、離婚伝説の10組が選ばれた。3月15日、東京・Spotify O-EASTにて行われたライブイベント『Spotify Early Noise Night #16』には、その中からサバシスター、jo0ji、First Love is Never Returned、離婚伝説の4組と昨年選出されたFurui Rihoが出演し、満員のフロアに向けて熱いステージを届けた。

今回リアルサウンドでは、同イベント出演前の離婚伝説とFirst Love is Never Returnedを迎えた対談を企画。この日初対面だった2組が話を進めていくと、いくつかの共通点が浮かび上がってきた。(編集部)

■『RADAR: Early Noise 2024』選出の反響は?

――『RADAR: Early Noise 2024』に選出された感想を聞かせてください。まずは離婚伝説のお二人から。

別府純(離婚伝説):嬉しいです。 どのアーティストが選ばれるのか毎年チェックしていたし、「選ばれるといいね」と話していたので、「おお、選ばれたぞー!」って感じで。

松田歩(離婚伝説):おかげさまで、Spotifyでもたくさん聴いていただけています(笑)。ありがとうございます!

――First Love is Never Returned(以下、FLiNR)のお二人はいかがでしょう?

Kazuki Ishida(以下、Ishida/FLiNR):僕らは札幌の小さいライブハウスでずっと活動を続けてきたので……メンバー誰も選ばれると思ってなかったんじゃないんですかね?

松田:札幌ってことは、goetheと一緒になることも多いですか?

Ishida:そうですね。同じライブハウスに出たりしてます。

Yuji(FLiNR):本当にローカルな活動しかしてこなかったんですけど、『RADAR: Early Noise 2024』に選ばれたことで、今までにないくらいの再生数になってて。

松田:分かります。びっくりしますよね。

Ishida:はい。今もまだ実感が追いついていないくらいなんですけど、すごく嬉しかったです。

――音楽活動をする上で、Spotifyをはじめとしたストリーミング配信サービスの存在にはやはり助けられていますか?

別府:とっても助かってます。

Ishida:僕自身Spotifyユーザーで、リスナーとしてもずっと楽しませていただいているんですけど、今は自分たちのアーティストページがあったり、曲をプレイリストに入れてもらうことがあるので、不思議な感覚で。

Yuji:「This Is First Love is Never Returned」ができたりね。

Ishida:そうそう。

松田:俺たちまだできてないんですよ。もしかして曲が足りないのかな?

別府:そうかも。「This Is 離婚伝説」ができるくらい、たくさんリリースをしていきたいですね。

――『RADAR: Early Noise 2024』に選ばれた他のアーティストの中で、刺激を受けているアーティストや、気になっているアーティストはいますか?

松田:jo0jiさんとは最近よく会うので、勝手に仲いいと思ってます(笑)。

別府:俺たちすぐに仲いいムーブするので、見かけたら「おお、jo0ji!」って声を掛けてるだけなんですけど(笑)。

別府:今頑張って距離を縮めてるところです。

Ishida:僕らもjo0jiさんのことはもちろん気になっているんですけど、tuki.さんのことも気になってます。歌上手いなって、いつも驚きながら曲を聴いていますね。

■離婚伝説とFLiNRの共通点を探る 互いへのリスペクトも

――ちなみに、今日はSpotify O-EASTで開催のライブイベント『Spotify Early Noise Night #16』の本番前に集まってもらったんですが、離婚伝説とFirst Love is Never Returnedは初対面だそうですね。お互いに対して、どのような印象を持っていますか?

松田:制作期間中に(First Love is Never Returnedの曲を)2人で聴いたんですよ。ノスタルジックな音楽をやっている方だなと思って。

別府:うん、キラキラしてるよね。楽器の音色にすごくこだわりながら制作してるんだろうなという印象を受けました。

Ishida:僕は、離婚伝説さんのことがずっと気になっていたんですよ。というのも、Spotifyの関連アーティストの欄にずっと出てきていたので。

松田:こいつら、なんだよって(笑)?

Ishida:いやいや(笑)。「眩しい、眩しすぎる」という曲が出た時に初めて聴いたんですけど、いい曲だなと思ってお気に入りボタンを押しました。そこから今でも聴いてますし、スタジオに向かう時の車内とかでもかけてます。新譜もめちゃくちゃよかったです。

別府:嬉しい。ありがとうございます! さっきリハを聴いてたら、DX7(ヤマハ社のシンセサイザー)の音がして。

松田:「おっ!」ってなったよね。

別府:そうそう。多分、お互いのルーツを辿っていけば似たところも出てくるのかなと思います。もちろん生きていく上で違うエッセンスもそれぞれ取り入れていると思うので、そこが音楽性の違いとして出てきているんだと思うんですけど。

Ishida:離婚伝説というお名前は、マーヴィン・ゲイの『Here My Dear』の邦題から取っているんでしたよね? 最初は「気になるバンド名だな」「どうしてこういうバンド名をつけたんだろう?」と思っていたんですけど、マーヴィン・ゲイの作品からだと聞いて、シンパシーを感じました。僕だけじゃなく、他のメンバーもそう言ってました。

松田:マーヴィン・ゲイ、いいですよね。きっと、みんな通りますよね。

別府:こういう音楽をやってると、もはや通るとかじゃないよね。義務教育の一環みたいなもの(笑)。

Ishida:あはは。バンド名もそうですけど、曲のタイトルも毎回素敵ですよね。こだわりを感じるタイトルなので、どういうふうにつけているのか気になってました。

松田:そんなふうに言ってもらえて光栄です。こだわりというか、プレイリストで他の曲と一緒に並んだときに「なんだこの曲名?」と思ってもらえるように、ということは意識しています。邦楽でよくあるようなタイトルを避けることも意識してますね。

Ishida:タイトルは最初につけるんですか?

松田:いや、最後ですね。最初につける派ですか?

Ishida:いや、僕らも最後です。これはあるあるだと思うんですけど、デモにつけた仮タイトルがそのまま採用されることもあります。

別府:そうなんですね。俺たちはそういうことってあんまりないよね?

松田:ここでは言えないような仮タイトルにつけたりしてるので(笑)。タイトルを決めるのは本当に最後の最後なんですよね。歌詞も全部できあがって、なんならマスタリング終わって、というタイミングでやっと決めます。

Ishida:なるほど。離婚伝説さんはどうやって今の音楽性に行き着いたんですか?

松田:いやー、実はあんまり考えないようにしていますね。俺たちは、自分たちの好きなようにやって、いい曲であればなんでもいいぐらいの気持ちで。こだわりがあるようでないんです。

別府:その上で、前に生演奏で歌えるカラオケ屋さんでアルバイトで演奏していた経験はけっこうデカいのかなと思ってます。

松田:お客さんの年齢層が比較的高かったので、歌謡曲とかを耳にすることが多かったんですよ。

別府:そういう曲を毎日聴きながら働いていたので、「やっぱりみんなが歌える音楽が残っていくのかな」というふうに思うようになりました。

Yuji:僕らも、長く愛される音楽っていいなと思っていて。

別府:そうですよね。

Yuji:そういうところを目指しながら活動しているんですけど、まだ変化している途中というか。「これだ」と思える道をまだ見つけている最中のバンドなのかなと、自分たち自身感じています。だから「こだわりがあるようでない」というのもすごく共感できる。

Ishida:僕らはそもそもメンバーが5人いるので、ルーツがそれぞれ全然違うんですよ。例えば、Yujiはメタルをやっていたし。

別府:へえー! メタル、何が好きですか?

Yuji:Children of Bodomとか。

別府:うおお、チルボド! きたー! 俺、メタル全然通ってないんですけど、チルボドは好きなんですよ。「Are You Dead Yet?」を聴いて、大好きになりました。

Yuji:僕は(チルボドのメンバーと)同じ髪型でベース弾いてました。メタルバンドと同時期にボサノバのバンドもやってたので、ボサノバの時には必死に長い髪を隠して、ライダースも脱いで(笑)。

別府:雰囲気もチェンジしてね(笑)。

Ishida:僕らは5人それぞれ全然違うものが好きだし、極端なこだわりを持っているので、どうして一緒にバンドやってるのか、たまにわからなくなることもあるんですよ(笑)。

Yuji:でも楽曲制作の時はぶつからずに、毎回いい感じに混ざり合うというか。いろいろなところから受けた影響が楽曲にも生きているのかなと思ってます。

別府:すごいですね。俺だったら無理かも。離婚伝説を始める前に何度もバンドを組もうとしたんですけど、曲を出す前に自然消滅しちゃったんですよ。

松田:自分もバンドを組んでたんですけど、そのバンドがなくなった時に「これからはもう1人でやっていこう」と思ったくらいで。まあ、別府とならやれるかなと思って、今に至るんですけど。

別府:だから5人それぞれ違うこだわりがあるなんて、俺らだったら大喧嘩になっちゃいそう(笑)。

松田:(笑)。本当にすごいなって思います。

■都会への憧れがあるから描けるもの

――この2組の共通点といえば、都会の夜景をイメージできるようなサウンドを鳴らしていることですよね。First Love is Never Returnedが北海道のバンドだと知った時、ちょっと意外に感じました。

Yuji:僕たちは自然に囲まれたような地域に住んでいるんですよ。メインのストリートと言えば、1カ所しか思いつかないし、そこは一本道だから奥まで簡単に見渡せる。なので、視覚から入ってくる情報よりも、普段聴いている音楽に影響を受けながら、都会に憧れて音を出しているようなところがあるかもしれません。

別府:今も北海道に住んでるんですか? 地元で結成して、東京でライブがある時は毎回来て?

Yuji:そんな感じです。

別府:すごい。ハードスケジュール。でも自然に囲まれた場所に住んでいるからこそ、都会のイメージがしっかりできるのかもしれないですね。上京したら東京が生活圏になるから「人がたくさんいて歩きづらいな」って思ったり、汚い部分が見えてきたりしちゃうじゃないですか。都会から離れているからこそ、綺麗な都会を描きやすいのかなと思いました。

Ishida:あー、確かにそうですね。

松田:俺も鹿児島出身で、どちらかというと都会に対する憧れから入ってるから、その感覚はすごく分かる。東京に出てきて初めて知った現実とかもありましたしね。

Ishida:離婚伝説さんは、北海道に来たことはありますか?

別府:実は俺はまだ行ったことないんですよ。

Ishida:そうなんですね。北海道に対してはどういうイメージを持ってますか?

別府:「食べ物美味しいんだろうな」というのがやっぱり一番かな。だから、北海道で一番うまい飯屋とか教えてほしいです(笑)。

Ishida:あとで教えます(笑)。今度ぜひ曲を作りにいらしてくださいよ。お二人が北海道に来たらどんな曲ができるのか、気になります。

別府:確かに。今とは違う曲ができるかもしれないですね。

■2組が目指すのは“いい曲”を作り続けること

――最後に、今後の活動について聞かせてください。実現させたい目標や描いているビジョンなどはありますか?

別府:こういう質問、いっつも困っちゃうんですよ(笑)。

松田:ビジョン、明確にはまだ持てていないですからね(笑)。いい曲を作り続けられれば、それでいいかなと思います。

Ishida:その気持ちは僕らも同じです。

別府:そうですよね。

Yuji:はい。今こうして『RADAR: Early Noise 2024』に選出していただいて、キラキラのジャケットを着させてもらっているような状況だと思うんですよ。なので、今後も継続して、いい音楽をSpotifyやストリーミング配信サービスを通じて届けられたらいいなと思ってます。

Ishida:そうですね。初めて楽曲を配信した頃と比べて、今はすごくたくさんの方に聴いていただいてるのがすごく嬉しいです。これからは、もっといろいろな人に聴いていただけるような曲を1曲でも多く作っていきたいです。

(文=蜂須賀ちなみ)

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