台湾の音楽フェス『大港開唱 MEGAPORT Festival』で印象的だったアーティストは?(前編)

<土井コマキのアジア音楽探訪 Vol.2>

3月30日、31日の2日間、台湾南部の高雄で開催された音楽フェス『2024 大港開唱 MEGAPORT Festival』に行ってきました。なんとアーティストが全く発表されないうちにチケットが売り切れるという大人気のフェスです。日本のアーティストもラインナップされているため、日本での知名度も高いのでは?

『MEGAPORT』の名前の通り、港のすぐそばのエリアが会場なのですが、このエリアは駁二芸術特区という観光地で有名なので、ご存知の方も多いと思います。港のそばの古い巨大な倉庫をリノベーションして、アート、音楽、ショッピングなどを楽しむことができるエリアです。そもそもあちこちにアーティスティックなオブジェや壁画があって、散策が楽しい場所。そこに10個のステージが組まれ(船の上のステージもあり、実際に出航しちゃう!別料金、笑!)、フードゾーン、マーケット、キッズエリア、NGO村などがポップアップし、それはそれはどんなに時間があっても足りない盛大なイベントでした。フリーで楽しめるエリアも多いので、チケットが取れなかった人も大勢集まっているようで、特に終盤の一番大きなステージの周りには音漏れを求める人の群れが。そんなフェスで見て印象的だったアーティストをいくつかピックアップしようと思います。

「女神龍」という名の屋外ステージがあります。「女神さま~」と言いたくなるような女性ボーカルがたくさん出演するステージで、日本からは「満島ひかり × SOIL&"PIMP"SESSIONS」が登場しました。キャパでいうと2つ目の大きさかな。そのステージに2日目の夕方18時すぎという、ちょうどいい時間に登場したシンガーが「洪佩瑜 Pei-Yu Hung」。

2011年に台湾ドラマの挿入歌で大ヒットを生み出した後11年もの月日を経て、2022年に1stアルバム『明室』をリリースするやいなや、台湾のグラミー賞と呼ばれる「第34回金曲奨」で最優秀新人賞をかっさらったというシンガー。予習をしたくて「今年の出演者の中で、今HOTな話題のニューアーティストはどの人?」と台湾で会った音楽関係者に聞くと、みんな口を揃えて、彼女をお勧めしてくれました。清らかで大人しいイメージで音源を聴いていたのだけど、ライブを見ると真逆でびっくり! バックバンドは迫力あるハードめの音作り、本人はステージにボディラインがはっきりわかる黒いロングドレスで現れ、全身全霊で歌っている印象。パワーと芯があり、惹きつけられる歌声でした。凛とした美しい立ち姿にも心奪われました。こんなに音源とのイメージが変わる人ってあんまりいないなと驚きました。ちなみにそのアルバムには日本のorigami PRODUCTIONS所属アーティストMichael Kanekoが参加している曲も収録されています。

その女神様ステージ(と私は呼んでいた)で、昼間からムーディな良い風を吹かせていたのが、「溫蒂漫步 Wendy Wander」という、R&Bを感じる男女ツインボーカルのバンド。大きなフラッグを掲げるファンもいて、人気を感じました。タイミングよく今月2024年4月に来日ツアーがあり、日本のバンドBillyrromがツアーに帯同するので、ぜひ目撃してほしいです。もちろん私ももう一度しっかり見たいと思っています。アジア各地でツアーを成功させている注目のバンドだと思います。

日本で近々見ることができるアーティストというと、「草東沒有派對 No Party For Cao Dong」。日本ではあまり知られていないかもしれないのですが、ものすごい実力と人気があるバンドで、男臭く、ファンが拳をあげて泣きながら歌っちゃう系です。実は去年来日していて、大阪の梅田クラブクアトロでワンマンを見たのですが、ほぼ台湾からのお客さんでチケットはソールドアウト。国内でチケットが取れないから、ファンが海外まで見に行ってしまうという状態なんですね。「一番見たい台湾アーティストは誰?」と台湾の音楽関係者に聞くと、ほぼ全員彼らの名前をあげました。絶対に見た方がいいよと強くお勧めされました。もちろん一番大きな「南霸天」ステージに初日トリで登場。ヘビーでタフなロックバンド。凄まじい演奏テクニックとパワーで、言葉がわからなくても圧倒されます。今年のフジロックにも出ます! これぞインターナショナルなアーティストだというパフォーマンスです。ただ、モッシュやらダイブやらが苦手な人は、どうぞ少し離れたところで安全に(私もセーフティーエリアで見ます、笑)。

この「南霸天」ステージは海沿い、まさに港に組まれていて、入り口のゲート横には、大きな船が横付けされています。フェスが掲げるテーマの「人生」と「音楽」。人生に寄り添う音楽、音楽が必要な人生、人生のアップダウンがあるからこそ響く音楽……など色々想像してはグッと胸が熱くなっているのですが、海ではなく港で見るライブとして、やはりロックは最高です。

絶対に台湾で見たかったのが「拍謝少年 Sorry Youth」です。去年の来日ツアー時、私のラジオ番組にもゲストで来てくれたのですが、ちょっとナードなキャラクターと、ステージに上がった時に急に輝くプレイ姿の差に、びっくりしました。絵に描いたような「音楽好きが集まって学生の時に組んだバンド」という感じ。大人になっても好きな音楽の話でいつまでも盛り上がれる愛すべき人たちです。そして彼らは多くの人が使っている公用語の台湾華語ではなく、台湾特有の言語である台湾語で歌っているということを、忘れてはいけません。そこには彼らのプライドがある。ASIAN KUNG-FU GENERATIONに憧れて結成したというだけあって、メロディはキャッチーで、とてもフレンドリーに跳ねるリズムの曲も多い。ライブの後、このフェスに出演していたアジカンと一緒に晩御飯でテーブルを囲んだのだけど、彼らはアジカンにバックボーンを尋ねたり、社会情勢の話をしたり、それはそれは親和性の高い2組でした。現在レコーディング中とのことで、作品が完成したらまた来日してくれるはず。山あり谷ありの人生の歌が多いとのことですが、言葉がわからなくても伝わってくるものがあると思います。

今回、私にとって初めての台湾の音楽フェスで、素晴らしい体験をたくさんしたので伝えたいことが多く、どんなふうに記事にまとめようかとワクワクしている最中の4月3日、台湾の東部沖で大きな地震が起きた。私の番組に来てくれたこともあり、今回のフェス取材の段取りもしてくれた拍謝少年 Sorry Youthにメッセージを送った。彼らは運よく大きな被害はないとのことで、逆に沖縄のことを心配してくれた。日本に災害が起きた時、すぐに心配して支援してくれるのが台湾の人たちだ。フェス開催エリア内にあるカフェでは、能登半島地震のチャリティライブをすぐに開催してくれた。お店にお礼を伝えたくてコーヒーを飲みに行ってきたところだ。

被災された台湾の方々にお見舞いを申し上げるとともに、私が今すぐ台湾にできる最大のことは、このフェスでの素晴らしい体験を日本の皆さんにしっかり伝えることだと思う。次回は、後編をお届けします。

(文=土井コマキ)

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