「ネットに名前晒しますから」現場の「カスハラ」どう防ぐ? ビジネスネーム導入、名札を「苗字のみ」...取り組みを取材

従業員の本名、あるいはフルネームは公開しません――。「カスハラ」(カスタマーハラスメント)問題への注目が集まる中、これまで「名札」などで掲示していた従業員の氏名を、苗字のみにしたり、本名以外の名前に置き換えたりするケースが、最近増えている。

「苗字のみ」を採用した自治体からは、「トラブルは減ったと感じています」との声も。また、「ビジネスネーム」を導入する交通機関の取り組みには、Xで大きな反響があった。その狙いと効果は。

「すべてのサービス業で取り入れて欲しい」称賛の声

京王バス(東京都府中市)は2024年3月28日、4月1日からバス乗務員の氏名表示に、乗務員自身が考案した「ビジネスネーム」を取り入れると発表した

23年8月1日にバス車内での乗務員等の氏名掲示義務が廃止されたことを受け、バス車内に掲示する乗務員の氏名表示について、「バス乗務員のプライバシー確保の観点から、本名と異なる『ビジネスネーム』の選択を可能といたしました」という。

これがXで拡散されると、「これすべてのサービス業で取り入れて欲しい 会社公式HPのスタッフ紹介で本名晒されるのマジで嫌」「文句があるにしたって会社がその人を特定できればいいわけで、良い取り組みだと思います」「良い事だよね。一方的に利用者にプライバシー暴かれて不公平だもんな」などと称賛の声が寄せられた。

過去3年に「カスハラ」経験した人は15%

近年、顧客による企業などへの不当な嫌がらせ、いわゆる「カスハラ」(カスタマーハラスメント)への注目が高まっている。矢面に立つ従業員個人がターゲットになるケースもあり、厚生労働省が2022年に公開した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、「従業員個人への攻撃、要求」などがカスハラの例として挙げられている。

過去3年間(調査実施時期は20年10月)に勤務先でカスハラを1度以上経験した人は15.0%との結果も掲載されている。また、ハラスメントの該当件数の傾向の調査では、過去3年間にカスハラに該当する事案があったと回答した企業は92.7%で、パワハラやセクハラなどに比べて高い割合となっている。

こうした観点から、従業員が特定されるきっかけとなる「名札」の記載内容を見直す動きがある。Xなどでは「カスハラ」対策の文脈から、京王バスの取り組みを評価する声が多いようだ。

実際のところ、京王バス側の目的はどこにあるのか。今回の導入の理由を京王バス側は、「お客様が乗務員に対し親しみもっていただき、より当社グループに愛着を持っていただけるよう、氏名形式である『ビジネスネーム』を採用いたしました」と説明する。

バス内に設置したアンケートはがきや電話、投書などを含め「年間700件近いお褒めのお言葉を頂いており(2022年度実績)、その多くが乗務員の名前を特定した内容となっております」と説明。「お寄せいただいたご意見は、乗務員に共有させていただくとともに、規程に基づき表彰を行うことで、乗務員の励みとなり、更なるサービス向上に繋がると期待しております」という。

京王バスの「ビジネスネーム」は選択式だが、どの程度使用されているのか。4月2日にJ-CASTニュースの取材に応じた京王バスの広報担当は、「乗務員のプライバシーの確保も目的としておりますので、正確な人数や割合というところは、回答を差し控えさせていただければと思います」と回答した。

京王バスでも「カスハラ」対策への効果を期待しているのか、という問いについては肯定しつつ、導入の理由としてリリースに記載された「乗務員のプライバシーの確保というところにも含蓄されているのかなと」と回答した。

「あなたの名前を覚えたから」などと言う来庁者も...

同様の取り組みは、自治体などでも進んでいる。

たとえば品川区では「名札」の表記を苗字のみとし、写真の掲載も外した。2024年4月4日にJ-CASTニュースの取材に応じた人事課の担当者によると、1月から3月まで施行実施し、不都合がなかったため4月から本格導入した。

導入の理由は、窓口業務に当たっている職員から「(来庁者と)トラブルになったときに、『あなたの名前を覚えたから』とか『インターネット上にあなたの名前を晒しますから』などと言われた」と報告されたことがあったことだ。「なんとか対策を講じないと」として導入した。

反響については、「窓口系職場の職員からは、職務に専念できるといった、概ね好評の声が寄せられております」という。導入から約3か月、「職員証を原因とするトラブルは減ったと感じています」と明かした。

ほかにも複数の自治体が、表記を苗字のみに改めている。千葉県船橋市も4月から苗字のみにすることを発表しているほか、長野県茅野市などの表記変更も報じられている。ニックネームを採用した店舗などがSNSなどで話題になることもある。

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