「ピアニストがよく見る悪夢」3選!【榎政則の音楽のドアをノックしよう♪】

普段から気を付けているからこそ、それを大失敗してしまう夢を見る、というのはよくあることではないでしょうか。ピアニストも、「絶対これは起きてほしくない」と普段から思っているからこそ見てしまう悪夢があります。そんなピアニストだったら共感してくれそうな「あるある悪夢」を3つ紹介します!

 1.本番に遅刻してしまう

これはもう定番中の定番です。筆者の場合は、正午からの本番なのに、気づいたら午前11時40分という場面から夢がスタートする場合が多いです。

ギリギリ間に合うかもしれない、演奏会が5分遅れでスタートするのは普通だから、それを考えて・・・、と焦って電車に飛び乗ります。しかし、気づいたら寝巻き姿でした。いや、すぐにスーツショップに行って買えばまだ間に合うから、とスーツショップを調べているときに、手持ちのお金が無いことに気づきます。

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会場に着いたらスタッフからスーツを貸してもらおう、と思って電話を掛けようとするも、スマホも忘れていることに気づきます。

時計を見たらもう11時55分、まだ始まっていないので、奇跡が起これば間に合うかもしれない!と思うのですが、逆方向の電車に乗っていることに気づきます。

筆者の場合はこのように遅刻した決定的な場面を見ないまま目が醒めるのですが、人によっては遅刻した後のシーンを見ることもあるようです。

時間に厳しい職業の方であれば、遅刻してしまう夢を見るというのは共感していただけるのではないでしょうか。

 2.本番当日、プログラムを見たら練習していない曲がある

これも人によってバリエーションがあると思いますが、本番で練習していなかった曲を弾かなければいけないという状況に陥る夢はよく見るようです。

筆者の場合は、そのような状況になってから、控室で必死に楽譜を読み始めるというシーンから始まることが多いです。また、共演者がいるパターンも多いです。

共演者がいるので、適当に弾いてごまかすというわけにもいきません。初見で弾けるところは弾いて、弾けないところはどのようにごまかそうか?と頭をフル回転させます。

なお、夢の中ではそこまで細かく楽譜を読むことはできないのですが、大体いかにも難しそうな曲であることが多いです。

そして、演奏が始まると思っているよりもよっぽど速い音楽で、ついていくのがやっとです。左手だけ弾いてごまかそうとしたり、ある程度即興にしてなんとかくらいついていく・・・という場面で目が醒めます。

「ああ、夢だったのか」と安心することもあれば、「意外と上手くいったぞ!やっぱり私は天才だな!・・・あれ、夢か」というガッカリのパターンもあります。

いずれにせよ、知らない曲を演奏会で弾く夢は定番のようです。

 3.自分の弾けない楽器を弾くことになっている

これはそこまで定番ではないかもしれませんが、筆者はよく見る夢です。

フルートやヴァイオリンといった楽器は、音を鳴らす程度ならできますが、曲として演奏するには全く力不足です。しかし、演奏会当日、なぜかこれらの楽器を演奏しなければいけない状況になっています。

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いまでも覚えている夢は、舞台に上がったらテノール歌手のソリストになっていた場面です。歌う曲はベートーヴェンの「交響曲第九番」でした。

この曲は何十回と聞いた曲だし、歌も以前習ったことがある。こんなオーケストラをバックにして歌う機会なんて滅多にないんだからむしろ喜んで歌おう!と思って堂々と歌うのですが、楽譜に書いてあるドイツ語の読み方がよくわかりません。

お客さんのなかにそんなにドイツ語がわかる人なんていないんだから、適当に音程だけあわせよう!と思っても、声がひっくり返ってしまいます。

あまりにお粗末な歌に、冷汗をかいたところで目が醒める、そんな夢でした。

実際は夢よりも窮地に陥ることがある

このように、本番で大失敗してしまう夢はよく見るものですが、そのような夢を普段から見るからこそ、失敗しないように気を付けることができているのかもしれません。

そして、事実は小説より奇なりといいますが、現実は時に夢よりも恐ろしいものです。

私は無声映画にピアノで伴奏付けをするという仕事をしていましたが、「リハーサルだと思って行ったら本番だった」「映画が始まったら、知らない映画だった」「2時間前に突然本番が組まれた」というような夢みたいなことが何度もありました。

また、「本番のピアノの鍵盤数が少なくて練習した通りに弾けなかった」「ピアノの調律をお願いしたら、調律器具を渡された」のような、信じられないことも経験しました。

自分で考えうる最悪の状況は夢で見ることができますが、自分の想像が及ばないような最悪の状況は、夢で見ることすらできないので、現実のほうがよっぽど大変です。

特にピアノは伴奏に使う楽器という性質上、とんでもない状況におかれることがよくあります。 悪夢は、どんな時でも冷静沈着にその場を乗り越えるという心構えを持たせてくれているのかもしれません。(作曲家、即興演奏家・榎政則)

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 榎政則(えのき・まさのり) 作曲家、即興演奏家。麻布高校を卒業後、東京藝大作曲科を経てフランスに留学。パリ国立高等音楽院音楽書法科修士課程を卒業後、鍵盤即興科修士課程を首席で卒業。2016年よりパリの主要文化施設であるシネマテーク・フランセーズなどで無声映画の伴奏員を務める。現在は日本でフォニム・ミュージックのピアノ講座の講師を務めるほか、作曲家・即興演奏家として幅広く活動。

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