アニメーション研究家・かねひさ和哉氏は「レトロブーム」をどう見るのか?【インタビュー後編】

生成AIもすっかり昭和の雰囲気になっている

【昭和90年代の人々】昭和初期・中期のアニメーションを再現した動画で人気を集めるアニメーション愛好家、かねひさ和哉氏へのインタビュー。後編では「レトロブーム」に対する率直な感情、今後の制作活動・研究への展望についてもじっくり語ってもらった。

――現在のアニメーションと、かねひささんが愛好されている過去のアニメーションでは、明らかな違いがあるのか

かねひさ そうですね…。アニメーション以外の文化でもそうだとは思うのですが、年代ごとに明確な壁や溝があるとは思っていないんです。グラデーションと言いますか、黒と白の間に灰色を挟んでいくような形で流行や表現の特徴も変わっていくのかな、と感じていて。

――時代ごとに切り離せるものではない、と

かねひさ それこそ1930年代のディズニーやフライシャー(1920年代~1940年代を中心に活動した「ベティ・ブープ」「ポパイ」等で知られるスタジオ)の作品と、現代のディズニー映画を比べれば大きな違いがありますけど…。1960、70年代になれば映画のみならずテレビも普及して、宣伝のためのアニメも放映されていますし、現代に通ずる部分もしっかりあるんです。アニメーション全体が徐々に今まで変化しているということであって、それまでの流れを断絶するように刷新されているということではありませんから。

――一方で現在は「昭和」「平成」のように時代を区切り、かなりカジュアルな形で過去の文化を楽しむ人が増えている印象です。この風潮をどのように感じられていますか?

かねひさ この流れに関して、最初はかなり複雑な気持ちではありました。正直自分で動画を作るようになる前は、「レトロ」というカルチャー自体にも懐疑的で…。

――それでは、心境の変化があったということですか?

かねひさ そうですね、動画投稿をするようになったことは自分の中では大きくて。おそらくものまね芸人の方とかも同じ感覚を持っていらっしゃると思いますけど、過去のコンテンツを意識してすごく再現性を高めたとしても、結局それの〝模造品〟になってしまう危険性が常にあるんです。であれば、過去のアニメーションには良いところも悪いところもあるわけだし、現代の価値観に合わせて再構築するということには意味があるのかな、と。過去の表現を現代に即して楽しむための懐古カルチャーはあってしかるべきだなと思えるようになりました。

――発信者としての気づきもあったのですね

かねひさ 今後も映像の再現度というものはもっと高めたいし、違和感のない表現を追求していきたいと思っていますが…。「過去の表現はこんなに面白いんだよ」と伝える橋渡し役として活動できたらいいなとは思うようになりましたね。

――その意味で新しい業界とのコラボは積極的に行っていく、と

かねひさ そうですね。入り口を広げて多くの人に楽しんでもらうための映像制作と、その活動のきっかけになった過去のコンテンツへの研究・評論という、2つの軸を中心に今後も動いていこうと考えています。もちろん制作に励みつつ、どこかクリティカルな目線も持っていないといけないと思うので。

――ある種、俯瞰している部分もあると

かねひさ 実際、「過去のコンテンツはすばらしい!」という主張一辺倒ではやっていけない所もあると思うんです。やはり現代の価値観とはそぐわない表現もあるし、そういった表現が多い理由は何なのかといった部分への関心も持っていて。ただそういった意識や何らかの提起を動画の中に盛り込もうとすると、今度は動画の方がややこしくなってしまうんですよね。そういう意味では純粋にアニメーションのことを研究・分析する場所も、動画とは別に作っておきたいなと思っています。

――米国のアニメーションを再現した動画も積極的に投稿しているが、再生回数は「日本アニメ」に寄っている印象。需要の違い等は感じているのか?

かねひさ 米国のアニメーションを意識した作品を投稿した際に、国が違うという事実が一つ視聴への壁になっている感覚はありますね。反対に日本のアニメーションを意識した作品は、実際には初見であったとしても「見たことがある気がする」という方が多いのかなと思います。これまで受けてきた動画制作の依頼も、ほとんどが昭和30、40年代のコマーシャルのテイストで作ってほしいという内容ですね。

――依頼ということでは、「日本コロムビア」や「カルピス」等、老舗企業・ブランドとのコラボ動画も制作・投稿されています。〝昭和を知っている企業〟からのオファーはやはりプレッシャーが大きい?

かねひさ 当時からコマーシャルで流れていたり、映画等で広告されていたりした事実があるわけですから、もちろんプレッシャーはあります。ですが先ほども話した通り、突き詰めた結果〝模造品〟になってしまってはいけませんから。いっそ当時の映像も残っているからこそ、自由にやらせてもらおうとも思うようになりました。昭和としての再現度は高めつつ自分らしさを出そう、と。そういった意識で制作しています。

――今後取り組んでいきたい動画や映像作品は

かねひさ あくまでも構想段階ではありますが、何十年も続いているような架空の長寿アニメを設定して動画を作ってみたいなとは思っています。時代による表現の変化にはとても関心がありますし、初期はこんな絵柄でこういう演技だったものが、少しずつ変わっていった、みたいな…。そんな「モキュメンタリー」(フィクションをドキュメンタリーに似せた形式で演出する手法)作品は作ってみたいですね。それこそパイロット版ではSF調だったり、早い段階で声優が変わったり、といった〝長寿アニメあるある〟を詰め込んでも面白いかな、と思っています(笑い)。

――過去のアニメーション制作に携わっていた方とも交流してみたい

かねひさ その気持ちはとてもあるのですが、例えば1930年代にアメリカでアニメーションを作られていた方は、ほとんど鬼籍に入られていますからね…。そういった意味では、人と会うということよりも、まだ残っているものを守るという方向に意識はシフトしています。現代ではオークションや骨董市からフィルムが散逸していくことも多いので、適切に収集・保管するということはやっていきたいですし、長年放置されていたフィルムをしっかりと有効活用するということにも、今後は関わっていきたいと思っています。

――その意味では、動画でアニメーションの良さをさらに周知することも重要そうです

かねひさ ええ、何より過去のアニメーションの面白さを伝えたいということが活動の大前提ではありますから。視聴した方にはそれぞれの楽しみ方をしていただきたいですが、それでも表現の「当時らしさ」を経由して、過去のアニメーションに関心を持っていただけたらうれしいです。あとは一度過去の作品に触れてからもう一度僕の動画を見ていただけたらとは思います。「この表現を再現したかったのか」と理解できて、より楽しんでもらえるのではないでしょうか。

――それでは、最後に動画の視聴者の方にメッセージをお願いします

かねひさ まずは愛好家としてこれからもアニメーションに関する活動は続けていきたいということは強調しておきたいです。遊び半分で始めた動画作成ではありましたが、最近は〝作る楽しさ〟というものも感じられるようになってきました。今まで以上に活動を広げて、これまでにないジャンルを含めて作品を作っていこうと思いますので、今後もどうかご期待ください。

☆かねひさ・かずや 2001年生まれ。アニメーション愛好家・研究家・動画クリエイター。幼少期から日本・アメリカの古典的なアニメーションに熱中し、2022年から個人で動画制作を開始。最新鋭の技術や現代社会を昭和アニメ風に表現した動画で注目を集める。

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