CCUS6年目-現場利用のフェーズへ・上/メリット具現化に本腰

◇就業履歴が頭打ち、打開策急務
建設キャリアアップシステム(CCUS)の本格運用から5年が経過した。2023年度末までに登録技能者は140万人、登録事業者は17・3万社に達し、その数だけ見れば業界内で定着してきた感がある。ただ、就業履歴の蓄積を含む現場利用は足踏み状態にある。危機感を抱く関係者にとって次なる課題は建設会社と技能者本人の「メリット」具現化で共通する。CCUSの現場利用とその先にある処遇改善に向け、官民が足並みをそろえて取り組むフェーズに来ている。
3月28日のCCUS運営協議会の総会では、運営主体の建設業振興基金(振興基金)が取り組み状況を報告した。安定運営が見込める「低位推計」の目標値を、23年度は技能者、事業者ともに登録数で達成するのは確実。一方、就業履歴数(カードタッチ数)は目標の6000万件を割り込む5448万件との見通しを示した。
今月以降、能力評価(レベル判定)に経歴証明を活用できる経過措置が終了し、原則としてCCUSに蓄積した就業履歴でなければ反映されなくなった。まさにカードタッチが十分に行われることが肝心だが、登録技能者のうち就業履歴がある者の割合は、この2年近く30%前後でほぼ横ばい。事業者登録する総合工事業者のうち、元請として現場で履歴蓄積を行うのは直近の2月でも24%に過ぎない。このまま頭打ちの状況が続けば、技能者の処遇改善はおろか、システムの持続可能性も揺らぎかねない。
建設会社と技能者のどちらもCCUSのメリットを実感していないことに問題の根がある。振興基金が23年7月時点で登録技能者に行ったアンケートでは、レベル判定に興味がある者が3割にとどまった。特に30歳未満は半分以上がレベル判定を認識しておらず、興味があるとの回答は2割を下回った。就業履歴がある者に蓄積のきっかけを聞くと、元請や所属会社からの指示が大半で、自らの意思との明確な返答はわずか5%だった。
この結果に総会では「技能者にとって魅力がない。強制で進めることの限界がきた」との厳しい声が上がった。日本建設業連合会(日建連)の井上和幸CCUS推進本部長は「ある程度の人数がもう登録している。その人たちのメリットの具現化に軸足を移した方がいい」と主張した。国土交通省が総会で骨子を示した「CCUS利用拡大に向けた3カ年計画」は、こうした業界の声に呼応する形で目指す方向を指し示す。
技能者のメリットは何よりもレベルに応じた給与や手当などの処遇改善に結び付くことだ。その実現のため国交省は、処遇改善に取り組む企業が競争で不利とならず、受注機会を拡大できるような市場を創出する道筋を描く。CCUSという業界統一のルールに基づき、優良で施工能力も高い企業を「見える化」すれば、公正な評価軸たり得る。技能者の処遇改善と建設会社の受注拡大というメリットを関連付け、好循環を生み出せるかどうかが鍵となる。
専門工事業団体が基準化を進めてきた施工能力などの「見える化評価制度」を念頭に、建設産業専門団体連合会(建専連)の岩田正吾会長は「(建設業法改正で請負単価が安定化すれば)仕事を良い企業に任せたいはず。発注者目線でも検討してもらいたい」と改善を要望。住宅業界の関係者は一般消費者から見た企業の差別化につながる工夫を求めた。
企業の見える化が市場全体で効力を発揮するよう幅広く関係者に目配せし、理想像を描きながらメリット発現への多様なメニューを3カ年で加速する。

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