小林製薬を揺るがす「紅麹事業」の起源とは

事業譲受した「紅麹」問題で揺れる小林製薬(Photo By Reuters)

小林製薬<4967>が紅麹問題で揺れている。因果関係は明らかではないが、同社が製造した紅麹原料を含む機能性表示食品を常用していた5人が亡くなった。渦中の紅麹だが、小林製薬オリジナルの事業ではない。大手衣料品メーカーのグンゼ<3002>から事業譲受した新規ビジネスだ。その経緯は?

M&Aで新事業を開拓してきた小林製薬

グンゼから事業譲受して生産した小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」(同社ホームページより)

小林製薬は事業譲受によって業容を拡大してきた。1985年に経営破綻した小林脳行(小林製薬とは無関係の会社)から、「モスノー」「モスボックス」といった防虫剤事業の営業権を取得している。

2001年に使い捨てカイロ大手の桐灰化学を買収し、2002年には日立造船から健康食品の杜仲茶事業を譲受。直近では2019年に梅肉健康食品の梅丹本舗を完全子会社化するなど、枚挙にいとまがない。同社はM&Aで事業を拡大してきた会社なのだ。

問題の紅麹事業は2016年5月にグンゼから譲受している。そもそも、なぜグンゼが全く畑違いの紅麹事業を手がけていたのか?グンゼは1980年代、衰退する繊維産業に依存する経営体質を改めるため、経営多角化に取り組んでいた。その一つが紅麹事業だったのだ。

グンゼの製造特許が事業譲受の決め手に

紅麹は、古くから伝統的な調味料や健康食品として利用されてきた。グンゼは紅麹に含まれる色素成分「モナコリンK」のコレステロール値を下げる効果に着目。従来の液体発酵法と比べて、高品質な紅麹を効率的に生産できる固体発酵法を開発した。同社は1988年3月に「小麦紅麹の製造法」で特許を申請している。

1990年代に入ると、グンゼは紅麹を配合した健康食品でサプリメント事業を拡大した。2007年10月には従来品の約10倍に相当する重量比で2%のモナコリンKを含む紅麹を生産でき、培養期間の短縮やエキス化工程を省くことで生産コストを引き下げる「モナコリンK生産性に優れた紅麹菌株」の特許を出願。2013年6月に成立した。

しかし、2014年にグンゼは多角化戦略を改め、「戦略的ビジネスユニット」(SBU)戦略を掲げて既存事業の「選択と集中」に取り組む。同年に紅麹で発酵させた米に由来するサプリメントの摂取が原因と疑われる健康被害が欧州で報告されたのを受けて、内閣府の食品安全委員会が注意喚起したことも影響してか、紅麹事業の譲渡に踏み切った。

小林製薬がグンゼの紅麹事業を譲受したのは、これらの特許を含む卓越した製法があったから。欧州で健康被害をもたらした紅麹菌株の生み出す有毒物質シトリニンが、グンゼの紅麹製法では発生しないことも事業譲受を後押ししたと見られる。

特許では得られない「生産技術」の難しさ

今回も小林製薬の紅麹からシトリニンは検出されていない。そうなると紅麹製法の問題ではなく、製造過程で青カビ由来の強毒性プベルル酸などの異物が混入した疑いが残されている。問題となったサプリを製造していた大阪工場は老朽化が進んだため、2023年12月に閉鎖されている。

小林製薬は3月29日の記者会見で、グンゼから事業を譲受するまで麹製造の経験がなく「(グンゼから)技術者も入社してもらい、(製造法を)手順書に落として引き継いだ」としている。知的財産で文書化されている製法と違い、生産技術は現場のノウハウを積み上げだ。異物混入も、生産ラインの老朽化や安全管理の不徹底といった生産技術上のトラブルである可能性が排除されていない。

生産技術が問題を引き起こすリスクは、M&Aで新規事業の垂直立ち上げ(新製品販売のタイミングで量産をスタートし、売上を最大化させる戦略)を目指す「時間を買うM&A 」の落とし穴になり得る。企業や事業の取得がM&Aの「ゴール」ではない。とりわけ既存事業との関連性が薄い新規事業でのM&Aでは、完璧な対応が求められる。

文:M&A Online

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