【病院の働き方改革】患者の “命” を守る現場で「より良い医療の提供」を続けるには《長崎》

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(佐藤肖嗣アナウンサー)

4月から始まった「医師の働き方改革」についてです。

(青木雄大アナウンサー)

今月1日から、病院などで働く「勤務医」の勤務時間に制限が設けられました。

国は、長時間労働の問題に対する「働き方改革」について、2019年に法改正を行いましたが、医師については、すぐに制限すると医療が成り立たなくなるおそれがあるとして、5年間の猶予を与えていました。

その期間が終わり、4月から時間外労働の上限規制が設けられるました。

2016年の国の調査結果です。

一般的に「過労死ライン」と言われる残業時間は「年間960時間」で、これを超える医師は39.2%と、4割近くとなっています。

さらに、この2倍の1920時間を上回った医師も1割近くの9.7%いました。

この6年後のおととし、2022年はというと・・・

1920時間を超えた医師は3.6%、960時間を超えた医師は21.1%と、いずれも減少しましたが、依然として2割以上が960時間の「過労死ライン」を超えています。

これまでの医療体制を保ちながら、医師の労働時間を短くするにはどうすれば良いのか。

現場での取り組みを取材しました。

近藤燦太記者の報告です。

▼ドクターの医療行為を代わりに行う「診療看護師」

(村上友悟さん)

「おはようございます。きつい?もともと偏頭痛持ち?どのへんが痛い?」

入院患者の病状を確認し、診察を行う男性。

医師ではなく「看護師」です。

長崎大学病院心臓血管外科に所属する 村上 友悟さん 42歳。

医師が行う医療行為を代わりに行うことが「診療看護師」です。

(診療看護師 村上友悟さん)

「基本的にドクターがいなくなる時の、ドクターの代わりの部分とか患者がしっかり入院生活、治療を遂行できるようにというところを担っている」

村上さんは、地元・愛知県の病院で看護師として勤務した後、2014年にさらなるレベルアップを目指して「診療看護師」の資格を取得。

6年前に、医師の負担軽減のため診療看護師を募集していた長崎大学病院にやってきました。

▼多忙な医師を補助、患者の状況を細かく把握

「おはようございます」

午前8時。

1日の始まりは、夜間の当直からの「申し送り」です。村上さん以外は全員、医師。

受け入れている患者の状況を確認していきます。

集中治療室=ICUのカンファレンスにも参加した後、病棟に戻り、カルテなどを確認。

看護師ともコミュニケーションをとりながら、入院している患者の情報を集めます。

(診療看護師 村上友悟さん)

「きのうは朝から緊急(患者)が来ていて、当直が対応するから、申し送りもできない状況だった」

(記者)

「きょうはまだ落ち着いていますか?」

(診療看護師 村上友悟さん)

「そうですね」

その後は、通常、医師が行う入院患者の「回診」へ。

部屋を回りながら手術後に必要な処置などを行っていきました。

(診療看護師 村上友悟さん)

「きょうはテレビの取材が来てます」

(患者)

「先生の張り込み?」

(診療看護師 村上友悟さん)

「張り込み?まぁ、そうね」

“先生”と呼ばれるほど、患者からも信頼されています。

(診療看護師 村上友悟さん)

「患者からすれば、自分を診てくれる人がちゃんと診てくれるなら、役職はあまり気にしない。信頼関係が築けるかは、常に(意識している)。患者だけでなく、医療スタッフに対しても気を付けている」

▼「診療看護師」 の導入による変化

手術の件数が多い心臓血管外科。

そのため、医師は日中に回診を行うことは難しかったといいます。

(長崎大学病院 心臓血管外科 三浦 崇教授)

「朝の9時くらいから夕方の3時、4時まで、病棟に医者がいないことが多々あった。村上君がいないと、夕方4時くらいから病棟の仕事が始まるので、勤務が終わるのは午後7時、8時、9時となる。そういう過重労働があったのが是正された」

“診療看護師” の導入によって医師の負担の軽減だけでなく、看護師の残業時間も減少。

入院患者の状態を随時、村上さんが確認し対応することで、入院の日数も短くなっているといいます。

(長崎大学病院 心臓血管外科 三浦 崇教授)

「絶対、医者でないといけない部分ではないところもあるので、そこは(診療看護師に)移行して、本当に医者しかできないところに集中して取り組むことが、本当の働き方改革なのでは」

医師の働き方改革でカギを握る看護師には、様々な枠組みがつくられています。

その1つが村上さんなどの「診療看護師」。

国が定めている38の「特定行為」をすべて行え、大学院を卒業し、認定試験に合格して資格を得ます。

一方「特定看護師」は、国からの指定を受けた病院で1年間、研修を受ければ特定行為の一部を行うことができます。

長崎大学病院では「特定看護師」向けに17の行為の研修を実施、去年までに25人が修了しました。

(長崎大学病院 特定行為研修室 戸北 正和室長)

「例えば脳神経外科病棟では、喉から入れた管を2回目以降は “特定看護師” が交換している。脳外科の先生も、自分の仕事に集中できて負担軽減になっている」

▼「看護師不足」医療現場の現状

一方で、今後に向けた課題もあります。

コロナ禍などの影響で離職する看護師が増加。

日本看護協会の調査では、2021年度に新卒で採用された看護職員の約1割が(10.3%)、1年以内に離職しました。

同じ方法での調査が始まった2005年以降、最も高い離職率です。

長崎市の「長崎みなとメディカルセンター」でも、看護師らの退職が相次ぎ、現在、受け入れの制限が行われているということです。

こうした中 進められてきた「働き方改革」。

長崎大学病院では、導入した診療看護師や特定看護師に負担が偏らないように、検討も進める考えです。

(長崎大学病院 人事企画担当 大嶽 有史さん)

「(診療・特定看護師らの)負担を、どのように軽減していくかを検討しているところ。看護補助者という職種もあるので、その増員も検討している」

▼医師の「働き方改革」カギを握る看護師

「医師」と「看護師」いずれの立場も担いながら、患者を支えている診療看護師の村上さんは・・・。

(診療看護師 村上友悟さん)

「大学院の時に教えてもらった先生から言われるのは、忙しすぎると忙しい医療職をつくるだけだから、そこはちゃんと考えて働きなさいと言われたので、燃え尽きないように気を付けてやっている。人数が増えれば改善する部分もあると思うが、もっと全体的に待遇面も改善していかないといけないのでは」

患者の “命” を守る現場で「より良い医療の提供」を続けるには・・・。

真の「働き方改革」の実現に向けて模索が続いています。

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