【社説】少子化対策法案 国民負担、逃げずに議論を

 子育て世帯への経済支援策を柱とした少子化対策関連法案が国会で審議入りした。

 政府は「2030年までが少子化を反転させるラストチャンス」とする。3年間で集中的に対策を進め、財源として28年度までに年3兆6千億円の確保を目指す法案だ。

 児童手当は所得制限を撤廃して高校生の年代まで支給を広げ、親の就労を問わずに保育を利用できる「こども誰でも通園制度」を全国で始めるなど対策はあの手この手だ。子育てを終えた人や高齢者を含め幅広く国民に負担増を求めるだけに、意義を社会で共有できる論戦にすべきだ。

 最大の懸念は、財源確保策として創設する「子ども・子育て支援金」制度である。

 公的医療保険料に上乗せし、新たに徴収する。しかし岸田文雄首相は、法案提出後も変わらず「国民の実質的な追加負担は生じない」との説明を続ける。医療や介護費の歳出改革で保険料の伸びを抑えるという理屈のようだ。

 分かりにくいし、正面切って国民に説明する姿勢に欠ける。そもそも社会保障費の削減策を決めない時点で現実的ではない。高齢者の自己負担を一部増やす案はたなざらしで、今後さらに医療や介護のニーズが増えるのは確実だ。答弁を野党が「ごまかし」と批判するのはもっともだ。

 その点を気にしたのか首相は審議入りに際し、徴収額を給与明細などに記載するよう事業主側に促すと口にした。ただシステム改修が必要であり、企業には新たな負担になる。現実的には難しい。

 何より個々の負担額をいまだ提示していないのが理解できない。政府は先月下旬、ようやく医療保険別の試算を公表した。被保険者1人当たり平均月額は28年度で350~950円という。所得や共働きかどうかなどで異なるが、モデルケースの提示は困難とした。挙げ句、加藤鮎子こども政策担当相が、月額で医療保険料の4~5%が目安として、国民が自分で計算できると説明したのには驚く。

 若い世代にさらなる保険料負担を求めるのは妥当か。なぜ税の徴収ではないのか。疑念は山積みで、制度設計の再考が必要だろう。議論を深めるには、政府による誠実で透明性ある説明が欠かせない。逃げた答弁を続けることで、肝心な施策の論戦がおろそかになってはならない。

 子育て世代への予算を手厚くすることに異論はないが、単なる家計支援では、ばらまきに陥る。政府は施策の根拠や効果を明示すべきだ。少子化対策はこれまで30年以上続けてきたが、出生数が年80万人を切る現状を招いた。検証が必要である。

 子どもがいる家庭への支援に偏る点も気がかりだ。例えば未婚者向けの対策が不足していることだ。若い世代には雇用や所得の不安から結婚や出産を諦める風潮が広がる。格差の解消を含めて社会の構造を変え、希望を持てる方向に向かわなければ出生率を好転させるのは難しい。

 国の将来や社会制度を左右する重要な課題である。まっとうな議論を求めたい。

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