岸田文雄首相の訪米になぜYOASOBI? 透けて見える思惑と、気になる「スポーツ選手」

西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】

元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が指摘

岸田文雄首相は8日から米国を国賓待遇で訪問するが、現地時間10日(日本時間11日)に予定されているホワイトハウスでの公式晩餐(ばんさん)会に、日本の人気音楽ユニット・YOASOBIが招待されていることが分かったと複数のメディアが報じた。なぜ、ここでYOASOBIなのか。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が、考えられる2つの可能性を指摘した。

私は個人的にはYOASOBIが好きだ。ライブにも行って、アンコール曲の『アイドル』で感動もした。それだけに心から思う。「ミュージシャンを変なことに巻き込まないで欲しい」と。

公式晩餐会の主催者は米ホワイトハウスなので、形式上はホワイトハウス側が、YOASOBIを招待したことになっているのだろう。しかし、このような時にホスト国が招待するのは通常、「ゲスト国とゆかりのあるホスト国の国民」か「ホスト国を拠点に活躍するゲスト国の関係者」だと思う。

前回、日本の首相が国賓として訪米したのは2015年の安倍晋三首相(当時)だったが、その晩餐会にオバマ大統領が招待したのは映画『ジャージー・ボーイズ』に出演した米国のミュージカルスターだった。安倍首相が同作の監督を務めたクリント・イーストウッド氏のファンだと聞きつけた「もてなし」だったという。

また、バイデン大統領の下では、昨年のインド・モディ首相訪米時にインド出身で活躍する米国人であるマイクロソフト社CEOらが招かれた。韓国・尹錫悦大統領を迎える晩餐会には、ハリウッド・スターのアンジェリーナ・ジョリー氏が招かれた。ジョリー氏の長男がソウルの大学に留学している縁だ。こうした晩餐会への招待客は「ゲスト国とゆかりがある米国人」だった。

逆に外国要人が日本を訪れた際には、その国とゆかりの深い日本人が晩餐会に招待されることが多い。17年にトランプ米大統領が訪日した際、安倍首相は全米で人気になったピコ太郎さんやブロードウェイ・ミュージカルで主演した俳優の米倉涼子さんらを招いた。

しかし、YOASOBIは米国籍でもなければ、米国を活動拠点にしてきたわけでもない。4月12日の音楽フェスティバルを皮切りに米国で公演があるため、この時期に同国にはいるが、活動拠点は日本のはずだ。岸田首相がYOASOBIに会いたければ日本で会えばいいわけで、わざわざホワイトハウスで会う必要はない。また、YOASOBIの楽曲が海外でも支持されつつあると言っても、「米国での知名度が圧倒的」とまでは言えず、バイデン大統領が会いたがったわけでもないだろう。

ほほ笑ましい光景からは遠く離れた「計算」

では、何のために「YOASOBI出席」になったのか。これには2つの可能性が考えられると思う。1つは今回の訪米をにぎやかなものにしてニュースや情報番組で取り上げてもらい、日本での支持率を高めるために、岸田首相側が米国側に提案した可能性。もう1つは、岸田首相の日本国内での支持率を高まるように、米国側が気を利かせてYOASOBIを呼んだ可能性だ。

どちらにしても、そこにはホスト国がゲスト国を心づくしでもてなすほほ笑ましい光景からは遠く離れた「計算」しかないように感じられる。「日本のスターをホワイトハウスに連れて行き、米大統領に会わせることができる」とアピールをして日本国内での人気を高めようとする計算、または日本の首相にそうした人気向上の場を与えて「貸し」を作るという米国側の計算だ。

エンターテインメントは理屈抜きで見る人の心を揺さぶる。そのため、これを利用して好感度を上げようとする政治的な思惑は後を絶たない。「日本の首相をもてなすアメリカの晩餐会に、日本のミュージシャンが招かれる」という今回のねじれた構図にも、そうした意図が透けて見えるように感じた。

さらに気になることがある。FNNは今回の晩餐会にYOASOBIだけでなく「スポーツ選手などの著名人が出席する方向で調整が進んでいる」と報じた。まさかとは思うが、ドジャースの大谷翔平選手が招かれているのか……。晩餐会当日の10日には、ミネソタ州ミネアポリスでデーゲーム、翌11日は休日予定。ミネアポリスから晩餐会が開かれるワシントンDCまでは直行便フライトで約2時間半だ。

今回の岸田首相訪米で何があるかは分からない。だが、必要なのは報道する側も、それを受け止める側も「自分たちが一体何を見せられているのか」を冷静に見つめることだと思う。その背後には、きっと何かがある。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。西脇亨輔

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