入学式ウイーク

 よそ行きのスーツにきりりとネクタイを締め、ぴかぴかのランドセルを背負った男の子にお母さんが「はい、笑って」…五分咲きの桜並木をバックに入学写真の“前撮り”を楽しむ親子を見かけたのは3月末の日曜日だった。なるほど、その手があったか▲開花が遅かったのだから、もう少し頑張って…と、はらはら散り始める花びらにこっそり念を送っていたのは先週のこと。やや不安定な空模様が続くここ数日の県内、当日の桜はどんな具合か。今週は入学式ウイーク▲6歳も12歳も、15歳になっても、入学式に臨む「1年生」の心境はそんなに変わるまい。新しい環境への期待と不安が代わりばんこに巡ってくる。期待の分量が多めだといい▲本紙のローカル面には「たった一人の入学式」が毎年のように載る。皆の視線と歓迎を一人きりで受け止める姿は、ほほ笑ましさの一方で、少子化の進行を何より実感させる光景でもある。今年はどうだろう▲児童文学の名手、あさのあつこさんは連作小説「ランナー」の中で、スタートの緊張をこんなふうに表現している。〈走ることは、いつだって、真っさらなシャツに袖を通すことだ。見知らぬ道程を行くことだ〉▲しっかりと前を向いて、自分の歩幅で。合図のピストルができるだけ軽やかな音で響くといい。(智)

© 株式会社長崎新聞社