【桜花賞】ステレンボッシュが桜冠奪取!ポテンシャルの蕾が花開くとき

写真:産経新聞社

「能力の高い馬です」「素晴らしい馬です」「ポテンシャルが高いです」――今年の桜花賞を制したステレンボッシュに騎乗したジョアン・モレイラはレース後のインタビューでこう語り、パートナーを褒めちぎった。

ステレンボッシュはポテンシャルが高い......それはレベルが高いとされた今年の3歳牝馬の中でも、素材面を最も高く評価されていたのは間違いなくこの馬だった。

しかし、ステレンボッシュはここまでに2度敗れ、重賞は未勝利のまま。素質の高さは間違いなくとも、ほんの少しの運がなかったと思わせるような負け方を彼女はしていたのだ。

そうした運のなさが最も顕著に表れたのは阪神JFだろう。直線で先に抜け出したアスコリピチェーノを捕まえようとした際、ステレンボッシュは末脚のエンジンの掛かりが遅かったため、本来狙っていた外ではなく内へと進路を切り替えた。

これが仇になり、上がり3ハロンではメンバー最速となる33秒5という末脚を繰り出したが、ステレンボッシュは先に抜け出したアスコリピチェーノにクビ差届かず、2着に敗れた。

「あの時、外に出していれば」......鞍上を務めたクリストフ・ルメールが悔しがったというのもよくわかる。2歳女王になれるだけのポテンシャルを秘めた馬だったのだから。

あれから4ヶ月後。桜花賞のパドックにステレンボッシュは現れた。

阪神JFを制したアスコリピチェーノはもちろんだが、年明け以来、クイーンズウォークがクイーンCを制し、スウィープフィートがチューリップ賞を勝利するなど、新興勢力が台頭し、さらに阪神JFに出走できなかった素質馬チェルヴィニアもエントリー。

阪神JFの時以上にレベルの高いメンバーが揃い、混戦模様と称された今年の桜花賞だが、1番人気には2歳女王のアスコリピチェーノが支持され、2番人気にはステレンボッシュが推された。

世代レベルが高いとはいえ、この2頭が抜けている――それが多くのファンの出した答えだったのだろう。

そんなファンの想いに応えるかのようにステレンボッシュは堂々と闊歩。

「パドックで乗ってからすごくいい感じがした」とモレイラがレース前からそう感じるほど、気合に満ち溢れた周回を見せ、返し馬では素晴らしいフットワークを見せながらも「落ち着いていたし、大丈夫だと思いました」と国枝栄調教師が感じるほどだった。

そんな国枝調教師の予感は、ゲートが開いた90秒後に現実のものとなった。

満開に咲いた桜の中でスタートした今年の桜花賞。ハナを切ったのはシンガリ人気のショウナンマヌエラだった。

これを追いかけるように阪神JFでも上位を争ったキャットファイト、コラゾンビートらが先団を形成し、その後ろに新興勢力のクイーンズウォーク。外にはチェルヴィニアが付け、その後ろにアスコリピチェーノとステレンボッシュが続くという形になった。

前半3ハロンの時計は34秒5と例年の桜花賞とほぼ同じくらいの平均ペースで、昨年の阪神JFともあまり変わらない速さ。

それだけにアスコリピチェーノとステレンボッシュにとってはレースがしやすかったのかもしれない。

まるで昨年の阪神JFの再現VTRを見ているかのように馬群は大きく動くことなく、3コーナーを過ぎていき直線へと入っていった。

各馬が横並びとなり、瞬発力勝負となった最後の直線。ここも阪神JFと同じ展開になったが、違ったのはアスコリピチェーノとステレンボッシュの位置取り。

馬群の中で揉まれるのではなく、外に出して前を捕まえに行く体勢を取っていた。

もしかしたらこの時点で今年の桜花賞は、この2頭のものだったのかもしれない。

先に前に出たのは、4コーナーで外に出たステレンボッシュだった。阪神JFの時、直線でエンジンの掛かりが遅く進路取りで予定を変えたことで敗れたというルメールの苦い経験を活かすかのようにモレイラは早めにスパート。

阪神JF時とは違い、外に進路を取っていたステレンボッシュの前を邪魔するものは何もなく、スムーズに動いて前を追いかけていく。

そんなステレンボッシュを追いかけて行ったのが、アスコリピチェーノ。先に動いたライバルを捕まえようと懸命に追い出し、桜の女王の座を狙ってただ前を見つめて懸命に追いかけていった。

残り200m過ぎ、ステレンボッシュが先頭に立った。そしてそれを差そうと外から懸命にアスコリピチェーノが迫り、さらにその外からは伏兵ライトバック、末脚に賭けたスウィープフィートが猛追してくる。瞬発力に優れた馬たちがこぞって上位を争う展開となった。

しかし、先頭に立ったステレンボッシュはもう止まらない。これまでの惜敗のショックを全て振り払うかのような走りを見せて、追いすがるアスコリピチェーノにクビ差退けてゴール。

誰もが高く評価したポテンシャルがついに開花したステレンボッシュは見事に桜の女王となった。

今年の桜は例年よりも遅咲きで桜花賞当日には満開の桜が咲き誇っていたが、ポテンシャルの蕾がようやく花開いたステレンボッシュも桜の女王として、長きにわたり世代のトップとして君臨することだろう。

■文/福嶌弘

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