山口県警巡査長もハマった「SNS“いいね”バイト」の落とし穴 専門家「犯罪に巻き込まれる可能性も」

犯罪、闇バイトに巻き込まれるきっかけにもなり得るという「SNS“いいね”バイト」 ※画像はphotolibrary

華やかな写真が並ぶインスタグラムやX(旧ツイッター)などのSNS。そこに投稿した内容の“人気度”を測る指標の1つが、他のユーザーから投稿者への支持を示す「いいね」数だ。現在も、他者からの「いいね」が欲しいSNSユーザーは多くいるだろう。そんな、承認欲求を満たしたい利用者心理を逆手に取り、SNS誕生期から「いいね」を増やすビジネスは横行してきた。しかし、昨今そこには思わぬ罠が潜んでいることもあるようだ――。

SNSに「いいね」をつけるバイトをしていたとして、山口県警の男性巡査長(20代)が、所属長注意を受けたというニュースが報じられたのは4月4日のことである。

全国紙社会部記者が言う。

「そもそも公務員は許可なく副業をすることが禁じられています。しかし、この巡査長は県警の許可もなく勝手に副業をしてしまっていたとのこと。さらに、副業をしたにもかかわらず、その作業に関連する手数料を副業先から求められ、支払わされる羽目になった。

結果的に巡査長は、手数料が報酬額を上回っていたそうです。同じような手口でカネを騙し取られる人は最近、珍しくないといいます。ただ、犯罪を取り締まるはずのお巡りさんが、逆に騙されるとは……」

SNS投稿へと「いいね」をつける仕事そのものは、これまでもあった。

「2013年には、イギリスの調査報道番組『Dispatches』や、イギリスの大手新聞社『ガーディアン』が相次いでバングラデシュにある“クリック工場”の存在を報道。鉄格子のある部屋に集められた人たちがフェイスブックの”いいね”をせっせと増やす姿は衝撃で、波紋を呼びました。

この“工場”では労働者が”いいね”1000 個を押すにつき、15ドルの報酬だったそうです。これが明らかになった4年後の17年にも、タイで中国人が”いいね”の水増し工場を操業していたことが、現地警察の摘発により世間に知られるところとなりました」(前同)

日本国内に限らず、海外でも行なわれているという「いいね」バイト。ただし、今や単純に「いいね」数の“水増し”目的だけで、このバイトは募集されているわけではないようだ。

■気軽な「いいね」バイトに潜むリスク

TBS系の情報番組『ひるおび』などのコメンテーターとしても活躍するITジャーナリストの三上洋氏が、SNS上の「いいね」を取り巻く環境の変化を話す。

「SNSが世に出始めた当初から“いいね”数、フォロワー数、動画においてはチャンネル登録者数、再生回数を増やすビジネスは横行してきました。単純に著名人が見栄のためにと数字を稼ぎたい、という場合もありますが、よくあるのは何らかの宣伝や企画をする会社がバイトに依頼するケース。

SNS上の反響で効果測定をするため、”いいね”数が多ければ多いほど良いというわけです。いわゆる“不正行為”ですが、堂々と存在してしまっているのが事実です」(三上氏)

しかし本来、無料であるはずの「いいね」に高いコストはかけられない。そこでスマホを大量に並べた工場のような環境に人を集め、激安の賃金で効率的に「いいね」を量産するわけだが、三上氏は「巡査長は詐欺、あるいは闇バイトにひっかかっている可能性が高い」と、その怖ろしい実態を話す。

「実は“いいね”をつけるバイトは、応募してきた人が闇バイトの犯罪に巻き込まれるきっかけになったり、カネを盗られるケースもあるのです。人材マッチングサイトで”いいね”バイトの募集を見てみると、作業時間は1日30分間ほど。毎日数百の“いいね”を押すだけで月1万円稼げるといった求人が見つかります」(前同)

まるで自宅で手軽にお小遣い稼ぎができるかのような謳い文句が、バイト募集の文面には並ぶというわけだ。しかし、その内容をよく読むと《契約金額からシステム利用料を差し引いた金額が受取金額となります》などと書かれていることが多々あるという。

「バイトへと応募する側からすると、まさか手数料(システム利用料)が報酬を上回るとは思わないものですが、その手数料がだんだん上がっていったりするのが実態です。巡査長の場合、報酬よりも手数料が高くなっていたという話なので、まさにこの手口に引っかかってしまったのではと」(同)

■巡査長の副業が「バレた」ワケを専門家が推察

前出の三上氏によれば、「応募者に対し、一旦きちんと報酬を払う」のも、応募者が”いいね”バイトの罠にハマりやすい理由だという。

「一度、応募者へと報酬を払った後に何かと名目をつけて、働く側からお金を巻き上げようとする。これがエスカレートしていくと、何らかの闇バイトに巻き込まれているのではという疑惑が出てきます。

たとえば“報酬が高額の振込みになるから身分証明書を出してくれ”と言われて応募者がその通りにすると、身分証明書を元に脅されて別の犯罪仕事を依頼される可能性すらあります。

いわゆる闇バイトにあたるものですね。闇バイトの中には、仕事の依頼主から”宅急便の転送”を頼まれ、その結果として、不正利用されたクレジットカードで購入した品物をバイトの応募者が、犯罪者側に送るなどのケースが散見されます。こうした犯罪に応募者が巻き込まれる可能性もあるのです」(三上氏)

そのうえで三上氏は、今回の巡査長の「いいね」バイトが発覚した経緯について、こう推測する。

「今、警察は闇バイト対策を非常に強化しています。想像ではありますが、闇バイト、もしくは詐欺などの捜査をやっているなかで、偶然、巡査長が浮上してきてしまったのではないかと。もちろん副業は違反でしょうが、巡査長は“被害者”とも言えるかと思われます」(前同)

“手軽に稼げる”ことを売り文句にする求人には、落とし穴があるのだ。

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