オリンピック開催迫るフランス・パリ    「花の都」は、いま、桜満開、春爛漫に

パリ・オリンピック/ パラリンピック(以下パリ輪)開催まで110日余り。フランスの首都パリは、街中至る所で五輪観客席の建設が始まるなど、五輪開催ムードが高まるなか、長く「花の都」と謳われてきた首都パリは、いま、春を告げる満開の桜が街を彩っている。パリの桜は、「シロタエ」と名付けられた白桜の開花がチューリップとともに3月、「花の都」の花のシーズンの始まりを告げる。

花のシーズンの始まりを告げるパリ植物園のシロタエ桜

4月も半ばになると、濃いピンク色の八重桜がパリの中心部、エッフェル塔にもノートルダム聖堂にもモンソー公園にも植物園にも、そしてセーヌ河左岸にも咲き誇る。パリ市に登録されているサクラの木だけでも6000本を超えるという。お花見という習慣は欧州にはないが、花壇を見て楽しんだり、花園に迷い込んでピクニックしたりするのは、欧州人であれば日常茶飯事のこと。満開の桜の木の下でくつろぐ人たちをよく見かける。

パリには八重桜が多いのはバロン薩摩の寄贈の賜物?

日本では桜と言えば「ソメイヨシノ」を見褒める機会が多いが、パリでは「ソメイヨシノ」は数少なく、シロタエ桜と八重桜とがそれぞれ3月、4月に街を飾る。パリに八重桜が多いのは、一説に20世紀初頭にパリに出て社交界に出入りした「バロン薩摩」というと称された薩摩次郎八氏がパリ郊外のソー公園に、「関山」と呼ばれる八重桜の木100本を寄贈したことに拠ると言われる。八重桜の木の数も咲き誇らしさもパリではソー公園が随一。ソー公園は、ル・ノートル(ヴェルサイユ宮殿の設計者)が設計した庭園であるが、この由緒ある庭園が4月中旬から1ケ月間、広大な桜の園に一変する

桜が終わって5月になると、パリのチュイルリー公園のハナズオウの木の濃い桃色の花が咲き誇り、観光客に加え、常時、ハナズオウの旺盛な咲きっぷりを楽しむ市民が絶えない。

ノートル聖堂の八重桜とシロタエ桜

エッフェル塔を背景には気誇るチューリップ。多くの人でにぎわうモンソー公園

そして季節が進み6月を迎えると、ありとあらゆる花々が市内の公園を埋め尽くす。ツツジから始まり、牡丹、薔薇、アヤメ、アイスランド・ポピー、藤の花などが市内の至る所で咲き誇り、パリは文字どおり「花の都」になる。

エッフェル塔、サンジャックの塔も春爛漫

パリの愛称「花の都」は、20世紀初頭にパリに居住した日本人がパリの社交界に出入りする人たちの華やかさを讃えて「花の都」と呼び親しんだと言われるが、地元パリでは、「光の街」(City of Light)と呼ばれることが多い。19世紀に欧州で初めてガス灯がパリ市街に導入され、犯罪防止に効果を発揮したことや、同じく18-19世紀のフランス啓蒙思想時代に思想家のルソーやモンテスキューを始め、化学者のパスツール、工学者のルイ・ルノー、エッフェルなど先進的な知識人がパリに大勢集まり、欧州を知の力でリードしたことに拠るとする説がある。現在のパリの姿は、「光の都」とも「花の都」とも、その言葉の原義とはやや違っているが、それらは現在のパリを象徴していることは確かだ。そして、フランスの首都パリは、今年2024年、新たに「スポーツの都」に相応しい欧州の都に生まれ変わろうとしている。

時の経つのも忘れさせる桜、桜、桜## 五輪カウントダウン開始、「スポーツの都」への期待

パリ五輪開催まであと110日余り、パリではそのカウントダウンがすでに始まった。2024年夏のパリ五輪は、オーバーツーリズムに加え、極端な為替レートの不均衡が重なり、日本発のパリ五輪観光は、負担の大きな旅になる。もちろん、日本発の旅の負担増にも拘わらず、パリ五輪観光の機会を得る幸運な方々も大勢出てきそうだ。

リ五輪開会式予想図(セーヌ川の右方にエッフェル塔) Le Parisiene紙に拠る

一方、共通通貨ユーロ圏の欧州人にとっては、為替不均衡の問題を抱えず、パリまで列車で平均4-5時間の半日圏の旅になるので、パリ五輪観光入込客は空前の規模に達することは容易に想像される。「花の都」パリが「スポーツの都」に生まれ変わる日を待ち望む声は日増しに強くなる。

(2019年現地取材並びに2024年現地情報に依る)寄稿者 旅行作家 山田恒一郎 (やまだ・こういちろう)

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