オーガスタの「申し子」 最後の切符でマスターズへ【舩越園子コラム】

フィアンセや仲間と喜びを分かち合うバディア(撮影:GettyImages)

「マスターズ」前哨戦の「バレロ・テキサス・オープン」。初日から首位を独走し2位に4打差で最終日を迎えた22歳のアクシャイ・バティア(米国)が、そのまま逃げ切って完全優勝を収めることをバティア自身も周囲も予想していた。

ローリー・マキロイ(北アイルランド)や松山英樹といった大物選手が最終日に猛チャージをかけてバティアを捉える可能性が無かったわけではない。しかし、マキロイはスコアを6つ伸ばしたが単独3位、1つしか伸ばせなかった松山は残念ながら4位タイから7位タイへ後退して4日間を終えた。

バティア自身は前半に3つ伸ばし、後半も好プレーを維持していた。だが、それでもすんなり優勝とはいかない展開になった。

同じ最終組で回っていた31歳のデニー・マッカーシー(米国)は前半を1アンダーで終えると、後半は11番以外の8ホールすべてでバーディを重ねるゾーン状態。 17番のバーディでついにバティアに並んだ。18番はどちらも見事なバーディを奪い合い、ともにトータル20アンダーでプレーオフへ突入した。

マッカーシーは昨年の世界ランキング上位50位以内のカテゴリーですでにマスターズ出場資格を得ていたが、PGAツアーではいまなお未勝利。初優勝を目指していた。一方、バティアは昨年の「バラクーダ選手権」で初優勝を挙げたが、「全英オープン」と同週開催の“裏大会”での勝利ではマスターズ出場権を得ることができず。今大会はオーガスタ・ナショナルへの切符を手に入れるラストチャンスだった。

いざ、プレーオフが始まると、どちらにも波乱が起こった。

数分前まではあれほど見事な「ゾーンのゴルフ」を披露していたマッカーシーは、1ホール目の18番パー5でフェアウェイからの3打目がダフリ気味となり、グリーン手前のクリークに落とすまさかのミスショット。初優勝は遠ざかっていった。

「ボールに虫が飛んできた。邪魔になるほどではないと思ってそのまま打ってしまったけど、少しだけ邪魔になった。仕切り直せば良かった」とがっくり肩を落とした。

対するバティアは、72ホール目の正規18番でガッツポーズをしたときに、左肩から腕にかけて突然走った痛みがプレーオフ開始後に悪化。フェアウェイ上から急きょトレーナーを呼ぶ事態になった。駆けつけたトレーナーによる応急処置を受けた直後の3打目でピンそば1.5メートルをとらえ、しっかり沈めたバーディパットがウイニングパットになった。その瞬間、夢にまで見たマスターズ出場が確定した。

ロサンゼルスで生まれ育ったバティアは、姉の影響で幼いころからゴルフクラブを握り、めきめき腕を上げていった。2014年にはマスターズ開幕直前の日曜日にオーガスタ・ナショナルで初開催されたジュニア対象の「ドライブチップ&パット」に出場。12歳~13歳の部で6位になった。

プロゴルファーになる夢を追うために、あえて大学には進学せず、19年にプロ転向。ミニツアーや下部ツアーでの下積み生活を経て、23年にPGAツアーにたどり着いた。そして、ルーキーイヤーに初優勝し、2年目を迎えた今、2勝目を挙げ、オーガスタ・ナショナルへの最後の切符を手に入れた。

「自分のゲームプランに集中しようと必死だった。デニーのゴルフは信じられないほど素晴らしくて、怖いと感じた。いろんなことが起こったけど、最後はトレーナーが上手くテーピングしてくれたおかげでナイスなウェッジショットを打つことができた」

ドライブチップ&パット出場者からPGAツアー優勝者が輩出されたのは、バティアが史上初。かつてオーガスタ・ナショナルで未来のチャンピオンを夢見た少年は、ちょうど10年後、PGAツアーチャンピオンとなって夢を叶え、再びオーガスタ・ナショナルに立つことになる。

ゴルフ界に育てられたバティアは、米ゴルフ界とオーガスタ・ナショナルの申し子と言っても過言ではない。そんな彼のマスターズでの活躍が、とても楽しみである。そして惜敗したマッカーシーにも、マスターズで雪辱を目指してもらいたいと秘かに願っている。

文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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