NHK『Venue101』、MC 濱家隆一&生田絵梨花が柱の一つに 新音楽番組続く中で打ち出す独自カラー

音楽の魅力を広く伝えるメディアとして、大きな機能を果たすテレビの音楽番組。各局にて、それぞれ趣向を凝らした番組づくりが行われている。そんななかでも、注目すべき番組に焦点をあてていく連載「テレビが伝える音楽」。第15回では、『Venue101』(NHK総合)を手掛けるプロデューサー・大塚信広氏を迎えた。若い世代をターゲットにした番組作りで意識していること、ハマいくとして2023年の『NHK紅白歌合戦』出場も果たしたMC・濱家隆一(かまいたち)と生田絵梨花の起用理由とその魅力など、放送開始からの2年間を振り返りつつ語ってもらった。(編集部)

■ほぼ満場一致で決まったMC 濱家隆一(かまいたち)&生田絵梨花コンビ

――『Venue101』はこの4月で番組スタートから丸2年を迎えますが、この2年間を振り返っていかがですか?

大塚信広(以下、大塚):まずは、2年間続けられてよかったなというのがあります。コロナ禍の時期から始まっているので、視聴者のみなさんがいつもとは違った形でテレビに向き合っている中で、番組をどうチューニングしていくかを考えて。2022年から2023年が節目の一つでした。2022年より2023年の方が視聴率が良かったり、視聴者がテレビに触れてもらう機会が多くなったのは良かったと思っています。

――同じ放送枠だった『シブヤノオト』を担当していた大塚さんがそのまま『Venue101』で制作統括を務めています。

大塚:NHKには『うたコン』、『SONGS』、『The Covers』などのいくつかの音楽番組がありますが、『Venue101』は比較的若い世代に向けた番組というのがあります。『シブヤノオト』も、その前の『MUSIC JAPAN』もターゲット層は一緒なんですね。

――『シブヤノオト』は丸5年続いたということを考えると、『Venue101』はまだまだこれからといった感じですか?

大塚:そうですね。MCもいい感じにハモっていますし。長く続けたいなと思っています。続けるためには結果を残さなければいけないので、そこが一番大きいかなとは思いますが。

――濱家隆一(かまいたち)さんと生田絵梨花さんのMCもすっかり定着していますが、そもそもこの2人が選ばれたのにはどのような経緯があったのですか?

大塚:MCをどういった世代に刺さっている人にするかをチーム内で議論して、上がってきた候補の中でほぼ満場一致だったと思います。男性と女性で行きたいというのは決まっていて。濱家さんといくちゃんがいいというので総意でしたね。

――それぞれどういった理由があったのですか?

大塚:濱家さんは、MCをやっている時のほかの出演者に対する向き合い方が優しいんですよ。いろんなタイプの芸人さんのMCがいると思うんですけど、『Venue101』ではアーティストに向き合ってもらうので、濱家さんみたいな優しい向き合いができる人が合うんじゃないかというところですね。いくちゃんは、ちょうど乃木坂46を卒業してソロになったタイミングだったので、新たな一歩というところと年齢的にも番組と親和性が高いなと。

――その2人が、ハマいくとして「ビートDEトーヒ」で『第74回NHK紅白歌合戦』出場まで駆け上がっていくわけですが、その大きなきっかけとなったのがSNSでのバズですよね。

大塚:SNSのバズって起こそうと思っても、起こせるものではないじゃないですか。これに関しては、正直予想を遥かに超えています。楽曲が良かったというのと、あの濱家さんが踊っているというところ、いくちゃんと濱家さんのコンビネーションが番組で成熟していき、ハマいくとして表現されていったことが、その一因にもなっているんじゃないかと思っています。

――具体的に、バズを実感したエピソードはありますか?

大塚:この前、濱家さんと話していたんですけど、去年の秋ぐらいに濱家さんの地元の小学校の運動会で「ビートDEトーヒ」が流れたと知り合いから連絡が来たという話を聞いた時に、僕は本当にバズってるんだなと思いました。最近はストリーミングでの1億回再生が一つの指標になってきていますけど、僕の中でインフレを起こしてしまっていて、多いのか少ないのか分からなくなってきていて。「ビートDEトーヒ」は“踊ってみた動画”の再生回数が3億3千万回を突破したりしていますが、運動会で使われるような広がり方をしたことから、バズというのを実感しています。『FNS27時間テレビ』(フジテレビ系)とのコラボも、いろんなアーティストの方に踊ってもらったのもそうですが、ほかにもいろんなことをやったので、何が直接的な要因だったかは分からないんですけど、ただあの2人のキャラクターと楽曲の良さ、濱家さんが頑張っているダンス、その辺りなんだろうなという気はしています。

――『27時間テレビ』とのコラボ生放送はNHKとしても異例でしたよね。

大塚:フジテレビにはNHKの画がワイプで出ていて、NHKにはフジテレビの画がワイプで出ているという場面もありましたし。濱家さんが『27時間テレビ』の総合司会で、『Venue101』のMCでもあったというところが大きいんですけど、上手くいったなという実感はあります。フジテレビのみなさんがやる気満々でやりやすかったですね。NHKの中継車をフジテレビにつけさせてもらって、機材を持ち込んだり、大変なオペレーションでした。

――フジテレビのスタジオから『Venue101』を放送していたんですよね。普通では考えられない。

大塚:あの時は、いい協力関係ができましたね。『千鳥の鬼レンチャン』チームに『Venue101』の素材を提供していたりもしたので、そんな関係性があってよかったなと思っています。

■『Venue101』の柱になる、MCの魅力×生放送のライブ感×出演者のクロストーク

――改めて、MCとしての生田さんと濱家さんのそれぞれの魅力はどこにあると感じますか?

大塚:いくちゃんは天然なところですかね。進行を任せられるほどしっかりされているんですけど、 たまにいくちゃんの天然っぽいところが出るんですよ。そこがナチュラル感というか、アーティストも構えなくていいというような、親しみやすいところとしっかりしているところの両面を持っている気がします。濱家さんはMCが天才なんで。僕らが気づいていないところも拾ってくれたりするので、そこはいくちゃんが濱家さんに対して安心して任せられているところだと思いますし、濱家さんはいくちゃんが進行していく中でたまに出る天然の部分を楽しんでいる。そんないいコンビネーションだと思います。

――Creepy Nutsが出演した時に、濱家さんとR-指定さん、DJ松永さんとのトークが盛り上がって、観ていてもたぶん押しているんだろうなというのが分かる空気になっている時に、生田さんがMCとしてちゃんと仕切る場面があって。いいコンビネーションだなと感じました。

大塚:いくちゃんの仕切り方も冷たい感じにはならないんですよね。ちゃんと寄り添っているというか、元々アーティストっていうのもあると思うんです。その微妙なバランスというか、現場は慌てているんですけど、その慌てた状態を表現してしまうと冷たく思われることもあるので、アーティストに対して優しく楽しい雰囲気にっていうのを感じますね。

――濱家さんとJO1のみなさんとの絡みも毎回印象的ですよね。

大塚:事務所の先輩と後輩という関係性もありますし、濱家さんは『Venue101』だけではなくJO1に対していろんな場所で絡んできていると思うんです。親近感もあるんじゃないですかね。濱家さんはメンバーのことを下の名前で呼んでくれるので、そういうところをファンも楽しんでいるのかなと思います。

――TREASUREのYOSHIさんが小さい頃に濱家さんと共演していたというエピソードには、濱家さんも記憶にあって、そこから「推そう」と実際に口にするところがよかったです。

大塚:すごいですよね。X(旧Twitter)上でもそのエピソードがファンの間で話題になっていました。話は戻りますけど、MCのオファーをした時に、濱家さんサイドから「音楽は素人で知識もないですけど、それでも大丈夫ですか?」と聞かれたので、僕から濱家さんに期待していることは、ファーストリアクションですと伝えたんです。「視聴者のみなさんも知らないアーティストがいっぱいいるので、そのアーティストのパフォーマンスを観た時に、素直にファーストリアクションをしてくれればいいです」っていう話をして。濱家さんのすごいなと思うところが、パフォーマンスが終わった後に本当に感じたことを言ってくれるんです。「あの転調良かったよね」とか、現場で聴いたり、観たりして感じた素直な言葉を伝えてくれているのが、生放送の『Venue101』っぽいなと思いますし、濱家さんの魅力でもあるんだろうなという気がしています。TREASUREの時は、濱家さんが素で喜んでいる感じがありました。最近で言うと、Kroiも喜んでいましたね。様々なアーティストの音楽が聴けるというのが『Venue101』でもあるので、そういうところも楽しんでくれているんだろうなと思います。

――生田さんにとっては、乃木坂46が出演した時は特別な心持ちなんじゃないかと思います。

大塚:本人も初めは何を話していいのか分からなかったって言ってましたけど、 乃木坂46のみなさんには何回かご出演いただいているので、何回か回数を重ねてからは「MCとして肩肘張らずに話せるようになりました」って。彼女にとっても特別なアーティストだと思うんですけど、最近はいい感じに慣れてきたのかなと思います。撮影裏でも仲良さそうにしています。スタンバイの時とかに話したりもしていますし、終わった後とかも服の話をしていたりしますね。

――先ほどあった通り、『シブヤノオト』に引き続き若い世代がターゲット層だと思いますが、出演アーティストの選定についてはどういった部分を意識しているのですか?

大塚:いろんな指標を見て決めているのですが、各ランキングの順位の確認とSpotify、Apple Music、LINE MUSICといったストリーミングのバズり方。特にSpotifyは、どれだけ聴かれているか再生回数が出るので参考にしていますね。SNSのほかにも、うちのチームのスタッフには「ライブに行って」と伝えているので、そのライブの感想などから総合的に判断しています。基本的には出演アーティストは3組なので、そのバランスでアイドル、シンガーソングライター、バンドという組み合わせもあれば、逆に全組が同じパターンのダンスボーカル特集にしようという時もあります。

――『Venue101』は通常放送のほかにスピンオフ特番もあって、昨年10月にはNewJeansが出演した『Venue101 Presents NewJeans”Get Up”Live』が放送されました。

大塚:『Venue101』は生放送の30分枠の中で3組が出演しているので、複数曲をやるのは難しいんですね。フルで披露できる放送尺があればいいんですけど、30分でトークも含めてアーティストの魅力を見せようとすると、なかなか難しいんです。『Venue101 Presents』では通常放送とは違った見せ方をしようとしていて、NewJeansの時で言うとライブに特化しましたが、ほかにもリクエストを募ったり、ドキュメントとして密着した映像を放送したり、いくつかフォーマットがあります。NewJeansだけでなく、その前にはStray Kidsにオファーをしたり、昨年の一発目はJO1でした。このアーティストなら30分放送できるという方たちにお願いしようと思っています。

――昨年9月には世界を舞台に活躍するアーティストが集結した『NHK MUSIC EXPO 2023』の放送があり、そこでのYOASOBIとNewJeansの交流が『紅白』での「アイドル」のコラボレーションに繋がっていったのかなと思っているのですが。

大塚:直接的な繋がりというのは実はあまりないんですけど、例えば『SUMMER SONIC』に海外アーティストが来るのと同じように、去年の風潮としてコロナ禍が明けたことにより、アーティストの皆さんの海外への進出や海外からの来日など、いろんなものが流動的に動いていました。『音楽の日2023』(TBS系)では、ダンスボーカルグループコラボもありましたよね。だから、必然なのかなという気はしていて。「アイドル」でのコラボレーションが生まれていったのは、その大きな流れがあったからだったんじゃないかなと思います。韓国アーティストがここまで日本で受け入れられているのは久々ですし、特に今の若い世代にとっては必然なんじゃないかという気はしています。

――あのさんが『あののオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)で橋本環奈さんとのやり取りを話していましたけど、あの2人の共演は2010年代のアイドルシーンを表現していて、そこに今の日本のアイドルとK-POPが登場し、YOASOBIが「アイドル」で総括していくというようなテーマにも捉えられます。

大塚:それに関しても、去年の大きな流れがまずあったからというのが大きいのと、「アイドル」という曲自体のパワーですよね。そこがうまくミックスされた12月31日が来るなという感じはありました。あのちゃんと環奈ちゃんは、いろんなアイデアをもらいながら、せっかくあのちゃんも出場することが決まったんだったら、こういうことをオファーしてみる価値はあるかなといったところからスタートしていきました。あれも実現できたから、2010年代のアイドルという風に言えますけど、いろんなものが網羅されている形になったのはよかったと思っています。

――他局の音楽番組というのはリサーチされていますか?

大塚:もちろん観ています。4月からは同じ土曜日に『with MUSIC』(日本テレビ系)が始まりますし、どういった音楽番組になるのか、ドキドキと焦りを感じています。この時代に音楽番組が新たにできるのはいいことだなとも思います。『週刊ナイナイミュージック』(フジテレビ系)が始まったりもしていますし。これから『with MUSIC』が始まってどうなっていくのかには期待しています。

――あのさんと粗品さんが出演している『あのちゃんの電電電波♪』(テレビ東京)は、ミュージシャンと芸人という組み合わせもそうですが、出るアーティストも『Venue101』と似ている部分が少しあって、ターゲット層としては重なるところもあるのかなと感じています。

大塚:それで言うと、『バズリズム02』(日本テレビ系)もブッキングが重なったりはしているんですよ。ターゲット層は似てるんだろうなと思いますし、バカリズムさんがMCをやられているというのもあったりして。その辺はそれぞれの特徴を出していかないといけないんだろうなという気はしています。『Venue101』は生放送で3組のクロストーク、MCの2人の丁々発止をうまく活かしていきたいというところです。

――この4月で『Venue101』は3年目に入りますが、改めて、どんな番組でありたいと考えていますか?

大塚:始まった当初は生放送であること、若年層向けであること、SNSを使って展開していくということが番組の柱としてあったんですけど、今はハマいくの2人の魅力、生放送のライブ感、アーティスト同士のクロストークを柱にして、さらに『Venue101』としての色を打ち出していけるのではないかと思っています。ハマいくの関係性が見ていて気持ちいいくらいになってきているのは一番の強みではありますね。正直、ここまでのコンビネーションになるとは思ってもみなかったです。

――4月には生田さんのソロデビューも控えています。

大塚:アーティスト・生田絵梨花として歌にも本腰を入れていくのかと思うと、ハマいくは大丈夫かなって(笑)。ハマいくも第2弾を考えなきゃね、みたいな話をしてるので。

――濱家さんがギターを買って練習しているという話もありましたよね。そういった部分で、2曲目もあり得るというか。

大塚:ギターに興味があるのかなとか思いながら(笑)。まだ分からないですけど、やりたいなとは思っています。

■大塚信広
1999年入局。ディレクターとして『POP JAM』『MUSIC JAPAN』『MUSIC JAPAN OVERSEAS』『春うた2009』『新垣結衣 一歩ずつ 少しずつ~ 二十歳の今 ~』を担当。プロデューサーとしては『シブヤノオト』『シブヤノオト Presents』『Venue101』『Venue101 Presents』『18祭』『笑いの正体』『NHK MUSIC EXPO 2023』などを手掛ける。

(文=渡辺彰浩)

© 株式会社blueprint