善意の食品、やまぬ転売…利用者「失礼な行為」「気持ち分かるが…」 フードパントリー側も苦悩、工夫

埼玉県内で行われたフードパントリー

 ひとり親など支援を必要とする家庭に対し食品などを無料で配布する「子育て応援フードパントリー」で、一部利用者による転売がやまず、不安が広がっている。提供元との取り決めで転売は禁止されているが、経済的な事情からやむを得ず行うケースも考えられるため、パントリー側としては厳しく追及できないのが実情だ。「埼玉フードパントリーネットワーク」の草場澄江理事長(60)は「転売が続くと寄贈品が集まらなくなり、活動が続けられなくなってしまう」と話し、適正な利用を呼びかけている。

 3月、県北部で行われたフードパントリー。娘の離婚を機に昨夏から通う60代女性は「感謝しかない。とても明るく受け入れてくれて、気持ちも楽になる」と語り、配布された食品を受け取った。娘の代わりに高校生の孫に毎日手作りのお弁当やごはんを作るのが日課。転売について「お金もうけはいけない。善意をあだで返す失礼な行為」と表情を曇らせる。

 6人の子どもを育てる別の女性は約3年前に転売について知り、「心が痛い。例えば、子どもの入学準備金が必要になったりして、現金化したい気持ちは分かるけれども」と複雑な心境を明かす。

 パントリーの男性スタッフは「われわれはただ利用者に食料を与えているわけではない。少しでも選ぶ楽しみを感じてもらおうと思い、きちんと届けるという責任もある。信頼関係あっての活動だから、転売は悲しい」とこぼす。

 同ネットによると、4月1日現在、県内では29市町75団体が加盟。コロナ禍を受け子ども食堂の開催が困難になり、フードパントリーが急速に広がった。県内の支援対象は2月時点で約4300世帯。ほとんどがルールを守っているが、インターネット上で販売されていた商品の内容や出品日、賞味期限などから、一部の利用者による転売が確認されている。

 加盟団体は転売防止の呼びかけのほか、誓約書の記入やチラシの配布や掲示、不要品を回収するボックスを設けるなどの対策を講じてきた。しかし、完全に防ぐことはできず、協賛する企業側から「どういう対策を取っていますか」と聞かれることもあるという。

 各パントリーでは児童扶養手当などの受給者証を確認しながら食品などを配布している。生活困窮などの事情を考慮し、「問いただすのではなく、『みんな仲間なんだよ』って優しく伝えることを大事にしている」(同ネット)という。

 草場理事長は「利用者ときちんと信頼関係が築けていれば、理解が得られる自信がある。これからも信頼関係を大事に、転売しないことを守ってほしいと求めていきたい」と話した。

 フードパントリー 包装の破損など品質に問題がないにもかかわらず廃棄されてしまう食品を、ひとり親家庭などに無料で配布する活動。扱うのは缶詰やレトルト食品、菓子、調味料など幅広い。困窮世帯への支援のほか、食品ロスの削減にも貢献している。提供元とは転売しない契約を交わしている。企業や個人から集めた食品を一時的に保管し支援を必要とする団体などに提供する「フードバンク」などから供給を受けている。個人や企業から直接寄付を受けることもある。

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