2023年度「人手不足」関連倒産 過去最多の191件 「人件費高騰」が3.8倍、「求人難」が2.6倍に増加

2023年度「人手不足」関連倒産の状況

コロナ禍を経て、人手不足が深刻さを増している。2023年度(4-3月)の「人手不足」関連倒産は191件(前年度比141.7%増)と、前年度の2.4倍に急増した。2年連続で前年度を上回り、2019年度(160件)を超え、調査を開始した2013年度以降で最多を更新した。
2023年度は、「求人難」が78件(前年度比168.9%増)、「人件費高騰」が65件(同282.3%増)と、いずれも過去最多となった。なかでも、「人件費高騰」は前年度の3.8倍と大幅に増加し、初めて50件を超えた。収益力が乏しい中小企業では人材確保のための人件費アップが、資金繰りに負担になっていることを示している。

産業別は、最多が飲食業(19件)を含むサービス業他の60件(前年度比106.8%増)。増加率でみると、今年4月から残業時間の上限が規制される「2024年問題」に直面している運輸業が前年度比269.2%増(13→48件)、建設業が同178.5%増(14→39件)と際立った。
資本金別は、1千万円未満が124件(構成比64.9%)、負債額別では1億円未満が104件(同54.4%)で、小・零細規模が半数以上を占めた。
形態別では破産が172件(前年度比123.3%増、構成比90.0%)と9割を占め、人手不足が経営再建の足かせになっていることがうかがわれる。

2024年4月から賃上げ促進税制が強化された。中小企業は、全雇用者の給与等支給額の増加の最大45%を税額控除、また、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額の5年間の繰越しが可能になる。ただ、収益が伴わない企業の無理な賃上げは資金繰り悪化から、さらなる人材流出を促す可能性も残している。

※本調査は、2023年度(2023年4月-2024年3月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)


2023年度の「人手不足」関連倒産 2013年度以降で最多の191件

2023年度(4-3月)の「人手不足」関連倒産は、191件(前年度比141.7%増)だった。深刻な人手不足を反映し、調査開始の2013年度以降、2019年度の160件を大幅に上回り最多を更新した。
2023年度の内訳は、最多が「求人難」の78件(前年度比168.9%増)。次いで、「人件費高騰」の65件(同282.3%増)、「従業員退職」の48件(同45.4%増)の順で、「求人難」と「人件費高騰」は、2013年度以降で最多となった。「人件費高騰」が初めて50件を超え、大手企業の高額な賃上げ回答で、中小企業も賃上げが求められている。だが、業績回復の遅れや収益確保が難しい企業には背伸びした人件費の引上げは諸刃の剣になりかねない。
従業員の離職防止、人材確保には賃上げは避けられない。だが、企業体力以上の賃上げは経営を揺るがしかねず、「人手不足」への対応は難しい舵取りを迫られている。

【要因別】人件費高騰が3.8倍に増加

要因別では、最多が「求人難」の78件(前年度比168.9%増)で、2年連続で前年度を上回った。構成比は40.8%(前年度36.7%)だった。「人件費高騰」は65件(前年度比282.3%増)、「従業員退職」は48件(同45.4%増)で、それぞれ2年連続で前年度を上回った。
今春闘では大手企業を中心に満額回答が相次いだ。ただ、中小企業にとって人件費の高騰は資金繰りに大きな負担となる。ただ、賃上げを実施しなければ従業員の退職が増え、新たな人材も集まらず業務に支障が出るため、両立はなかなか容易でない。
賃上げをしたくても原資を確保できない企業と、賃上げを実施した企業の業績格差がさらに広がることが危惧される。

【産業別】10産業のうち、9産業で増加

産業別では、10産業のうち、金融・保険業を除く9産業で前年度を上回った。
最多は、サービス業他の60件(前年度比106.8%増、前年度29件)で、2年連続で前年度を上回った。構成比は31.4%(前年度36.7%)だった。
サービス業他では、飲食業19件(同5件)、医療,福祉事業12件(同16件)、生活関連サービス業,娯楽業11件(同3件)など。人流の回復、円安を背景にインバウンド需要も活発となる一方で、対面サービス業では人手不足が深刻さをみせている。
今年4月から残業時間の上限が規制される「2024年問題」対象の運輸業が48件(同269.2%増)、建設業が39件(同178.5%増)で、それぞれ2年連続で前年度を上回った。
このほか、農・林・漁・鉱業2件(同100.0%増)と製造業18件(同63.6%増)、小売業11件(同175.0%増)、情報通信業6件(同100.0%増)が2年連続、卸売業が5件(同66.6%増)で2年ぶり、不動産業が2件(同100.0%増)で4年ぶりに、それぞれ前年度を上回った。
金融・保険業は、3年連続で発生がなかった。

業種別では、一般貨物自動車運送業が32件(前年度9件)と突出。このほか、一般乗用旅客自動車運送業が9件(同ゼロ)、土木工事業(同5件)と訪問介護事業(同2件)が各6件、とび工事業(同ゼロ)と受託開発ソフトウェア業(同2件)が各5件、建築リフォーム工事業と内装工事業、酒場,ビヤホール、配達飲食サービス業、労働者派遣業が各4件、建築工事業と木造建築工事業、一般管工事業、貨物軽自動車運送業、食堂,レストラン、ラーメン店、喫茶店、普通洗濯業、エステティック業が各3件で増加した。

【形態別】破産が9割

形態別は、最多が「破産」の172件(前年度比123.3%増)で、2年連続で前年度を上回った。また、「特別清算」が4件(前年度ゼロ)で、3年ぶりに発生した。消滅型が176件(前年度比128.5%増、構成比92.1%)で、2018年度より6年連続で90%台での推移が続く。
一方、再建型の民事再生法は11件(前年度比1000.0%増)、会社更生法は発生がなかった。
業績低迷の企業は従業員の退職も進み、経営再建が難しく破産を選択している。

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