猪子寿之×成田悠輔 真夜中の麻布台ヒルズで「チームラボボーダレス」が“光”に満ちる謎を解く

未来の日本を作る変革者=PLAYERSと経済学者の成田悠輔が、予測不能な対談を繰り広げる番組『夜明け前のPLAYERS』。その収録のために成田は1月某日の真夜中、東京・麻布台ヒルズの地下にいた。2月9日の開館を前に準備に追われる『森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス』に潜入、本館を制作するteamLab(チームラボ)の代表・猪子寿之に「あの作品は何なんですか」と詰め寄った。

というのも対談前、猪子から熱い解説を受けながら制作中の館内を案内された成田は「珍しく感動しました」ともらしていたのだ。特に“非対称宇宙”と呼ばれる部屋での体験に心をゆさぶられたようだ。

成田の“非対称宇宙”部屋への疑問に対して猪子が提示した答えは……

光が織りなす空間の中で、鏡のようなものの前に立った成田は「こっちの物があっちに映っていないことが多々あり、鏡の向こうにある物はこちらに存在していないように見える。完全に対称性が壊れている」と言葉を失っていた。

チームラボ《Light Vortex》©チームラボ

チームラボボーダレスとは、チームラボのアート群による「地図のないミュージアム」だ。作品群は境界なく連続する空間を創るのと同時に、歩き回る来館者の動きに連続して変化する。一体感や周囲との複雑な関係性を体験することで来館者は、永遠に変化し続ける境界のない世界に没入する。

しかし成田は、「ほんとうに衝撃を受けた」と改めて感動を口にしつつも、”非対称宇宙”での体験は一体感といったチームラボボーダレスのコンセプトとは対極なものではないか、と疑問を持っていた。成田はその空間で「何か神々しい存在を目撃した感覚」を覚え、「ある種強烈な壁、自分とは異質なものが立ち現れたという感覚」を抱いていた。だから「あの作品は何なんですか」という問いになったのだ。

猪子は「自分ではもはや理解できないような存在との一体化が、究極的で宇宙的な体験のような気がする」と言い、「サイエンス的な“宇宙”が認識される前から、人類は宇宙を表現し、宇宙的体験みたいなことを言っていますよね。それはいったい何なのかといったことにすごく興味がある」と話し始める。

自身が興味を覚えた理由や感覚を、中国の少数民族・ハニ族の棚田を見た時の感動を例に挙げるなどして説明に努める猪子だが、うまく言葉にするのは難しかったようで「何言っているか分からないですね」と自嘲気味に笑った。

チームラボは古典的なアートの真逆? 無限の空間を表す光と鏡とテクニック

そこで成田は違う角度からボールを投げる。チームラボボーダレス全体を取り巻く“光”についての質問だ。「どの作品も主成分が”光”になっているじゃないですか。それは(チームラボの活動の)最初からですか?」

「作品は光で作らざるを得ないので、作品=光ですね」と猪子。人間が表現したものをこの世に残す方法として、油絵などの物質だった時代に対して今は「変化を表現するとか、動くモノを表現するといった時は、自分に限らず、光なんじゃないでしょうか」と答えた。

成田の質問の意図は違うところにあるようだ。「例えば絵画でも彫刻でも古典的なアートでは、モノがあって、そこに光が当たることで僕たちはそのモノを鑑賞する。でもチームラボの作品は空間そのものが光を発している」と、チームラボの作品における光の位置づけが古典的なアートとは真逆だと感じると指摘。「そうかもしれないですね」と猪子も同意した。

さらに成田は、対談場所であるチームラボ《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 – ワンストローク》にも目を向ける。鏡と膨大な数の光の玉に包まれたそのエリアは、「鏡に映っているものが、ここにあるモノの鏡像なのか、あっちに世界があるのか、かなり判別が難しい」と成田は指摘。自分の鏡像に出会いにくい構造で、境界も認識しづらい空間なのだ。

猪子も、この作品を作るにあたって成田が指摘した点を「結構意識している」と言い、「可能であれば無限の空間にしたい」という。来館者に、自分の鏡像に出会うことは無限ではないことを認識させてしまうため、光がきれいに連続するよう綿密に計算しているのだとチームラボボーダレスのテクニカル面を紹介した。

それらは概ね「目線に何かを置いたり、導線に対して垂直に面を作らないといった汎用的な“知”の積み上げ」であり、「ニッチだけれども汎用的な“知”こそが全体のクオリティーを上げたり、生産性を上げたりすると思っているので、すごく大事にしています」と語った。

境界という点で、成田は再び”光”の話題に立ち返る。「光というのは境界を作り出すのがすごく難しいもののような気がしますよね」

「(天文学的な)ビッグバンみたいなモノも、暗闇からバンッと光が現れるようなステレオタイプなイメージを持っているし、神話も光からスタートすることが多い」と言い、「光は、境界が生まれ分節化される以前の“世界の始まり”みたいなモノと結び付いているのかな。そのことが、チームラボの作品が常に光に満ちていることと関係しているのかもしれない」と考察した。

「そうかもしれないですね」と猪子。「境界の概念が生まれにくい表現にすごく興味があったのだと思うんです。変化しないモノより変化するモノ。自分と関係しないモノより、自分と関係するような存在。もしくは他者と関係するような、他者によって変わるようなモノ、そういうモノをそのまま作りたかったんです」と語る。

成田は「(対談する部屋が)鏡像に見えないということは、非対称に見えるということでもある」として、改めて例の”非対称宇宙”の謎にも切り込んだ。「原理は全然違うと思うのですが、非対称性が鏡のある空間の中に生まれるという結果の部分では(”非対称宇宙”の部屋と対談をしている部屋は)つながっているのかもしれない」と成田の解釈を投げる。

しかし猪子は「それを感じさせることで、境界なく雄大なこの世界に一体化しているかのような感覚になればいいなと思って」とだけ話し、神髄は語らず。成田は「非対称宇宙の原理は全く分からなかったです」と残念そうな顔をするも、収録後に「あの”非対称宇宙”に感動したというのは皮肉のない本音です」と三度、感動を口にした。

本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

「夜明け前のPLAYERS」
公式HP:PLAY VIDEO STORES
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写真提供:(C)日テレ

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