全国企業倒産集計2023年度報  2023年度の倒産、9年ぶり高水準

概況・主要ポイント

1.2023年度の倒産件数は8881件(前年度6799件、30.6%増)と、前年度から2082件増えた。2年連続で前年度を上回り、2014年度(9044件)に迫る9年ぶりの高水準となった。前年度からの増加率が30.6%となり、過去30年で最も高かった

2.負債総額は2兆4344億7400万円(前年度2兆3385億9100万円、4.1%増)だった。パナソニック液晶ディスプレイ㈱やユニゾホールディングス㈱など、負債100億円以上の大型倒産が19件(同12件)発生し、10年ぶりに2年連続で2兆円を超えた

3.業種別にみると、全7業種において2年連続で前年度を上回った。『サービス業』(前年度1699件→2187件、28.7%増)は12年ぶりに2000件を超えた。『小売業』(同1315件→1874件、42.5%増)は「飲食店」(同514件→802件)が2000年度以降で最多となった

4.主因別にみると、「経営者の病気、死亡」は、2000年度以降で最多となった

5.規模別にみると、負債「100億円以上」は19件発生、年度としては過去10年で最多となった

6.地域別にみると、2008年度以来15年ぶりに全9地域で前年度を上回ったほか、コロナ禍前の水準を超えた。『東北』(前年度336件→493件、46.7%増)は、2010年度(553件)以来の高水準だった

7.「人手不足倒産」は313件発生。年間で初の300件台となり、過去最多を大幅に更新した

8.「物価高倒産」は837件発生。年間で初めて800件を超え、過去最多を大幅に更新

注目の倒産動向 -1

■「飲食店」倒産動向

2023年度の「飲食店」倒産、802件で過去最多

業態別では「居酒屋」「中華料理・ラーメン店」が過去最多に

 2023年度の飲食店の倒産は、前年度比56.0%増の802件となり、2019年度(784件)を上回って過去最多となった。

 業態別(11業態)にみると、最も多かったのは居酒屋を主体とする「酒場、ビヤホール」(207件)で、ラーメン店などの「中華料理店、その他の東洋料理店」(130件)、「西洋料理店」(90件)、「バー、キャバレー、ナイトクラブ」(72件)が続いた。深夜時間帯での営業店舗が多い「酒場、ビヤホール」と「バー、キャバレー、ナイトクラブ」を合わせると279件となり、飲食店全体の34.8%を占めた。「酒場、ビヤホール」と「中華料理店、その他の東洋料理店」の件数が過去最多となって全体を押し上げたほか、新型コロナが拡大した2020年度以降の4年間では11業態中7業態で最多となった。都道府県別にみると、東京(129件)、大阪(95件)、兵庫(72件)で多く、上位5都府県で全体の50.4%を占めた。

 コロナ禍前の2019年度に784件まで増えた飲食店の倒産は、ゼロゼロ融資や休業・時短営業に伴う協力金などによって、2022年度は514件に抑制された。一方、コロナが収束に向かい多くの飲食店が賑わうようになったものの、2022年度以降の光熱費や各種食材の価格高騰、人手不足の深刻化、賃上げ対応など新たな経営課題に直面し、採算が確保できずに事業継続を断念する事業者が急増している。 

 今後は、今年4月にゼロゼロ融資返済開始の最後の山場を迎え、資金難に追い込まれた末の倒産増加が懸念され、当面は高水準での推移が予想される。

■ゼロゼロ(コロナ)融資後倒産

2023年度は699件発生 22年度比1.5倍

 「ゼロゼロ(コロナ)融資後倒産」は、2023年度に699件(前年度453件、54.3%増)発生、過去最多を更新した。実際の融資額が判明した約440社のゼロゼロ融資借入額の平均は約5800万円となり、「不良債権(焦げ付き)」に相当するゼロゼロ融資喪失総額は推計で約823億2200万円にのぼった。

■人手不足倒産

2023年度は313件発生 22年度から倍増、過去最多を大幅に更新 

 「人手不足倒産」は、2023年度に313件(前年度146件、114.4%増)発生した。年間で初の300件台となり、過去最多を大幅に更新した。業種別では、『建設業』(94件)が最も多く、全体の3割を占めた。『サービス業』(75件)では、ソフトウェア開発などIT産業や人材派遣などの業種が目立った。『運輸・通信業』(63件)は前年度(26件)から倍増した。

注目の倒産動向 -2

■「タクシー業」倒産動向

タクシー業の倒産増、過去10年で最多の33件

深刻な「ドライバー不足」、燃料高が追い打ち 需要回復も5割超が「業績悪化」

 「タクシーがつかまらない」―深刻な台数不足が指摘されるタクシー業界で、倒産件数が過去10年で最多を更新した。2023年度に発生したタクシー業の倒産は33件判明し、2年連続で前年度(28件)を上回ったほか、これまで最多だった11年度(36件)に迫る水準となった。

 タクシー業界はコロナ禍に発生した、利用客減少による売上高の急減から立ち直りつつある。ただ、プロパンガスなど燃料代の高騰が収益を圧迫し、経営環境は厳しさを増している。2023年度のタクシー業の倒産のうち、半数を「物価高」倒産が占めたほか、23年度の業績が判明したタクシー業のうち半数超が、燃料高などを理由に赤字や減益など「業績悪化」に直面した。こうしたなか、近時は需要増にも関わらず「ドライバー不足」で営業が困難になるタクシー会社の経営破綻が目立ち始めた。愛知県の「毎日タクシーグループ」(破産、24年1月)はコロナ禍での需要減に加え、ドライバーの高齢化や不足から経営に行き詰まり、事業継続を断念した。

 足元では慢性的なタクシー不足に対し、代替交通手段として「配車アプリ」を活用したライドシェア制度が部分的に解禁された。タクシー業界にとっては「ライバルとなる競争相手」か「共存共栄のパートナー」かの見極めが急務となる。「安心できる移動手段」としてのタクシー運行をどう存続させるのか、利用者・タクシー会社ともに再考すべき時期に差し掛かっている。

■後継者難倒産

2023年度は586件発生、22年度から2割増 初の年間500件超え

 「後継者難倒産」は、2023年度に586件(前年度487件、20.3%増)発生した。年間で初めて500件を超え、過去最多を大幅に更新した。後継者難倒産のうち、「経営者の病気・死亡」による倒産が全体の40.1%を占めたものの、過去最高の22年度(47.8%)に比べると大幅に低下した。後継者不在を最後のきっかけとして、事業継続をあきらめるケースが増加している。

■物価高(インフレ)倒産

2023年度は837件発生、過去最多を更新 建設や小売で急増目立つ

 「物価高(インフレ)倒産」は、2023年度に837件(前年度463件、80.8%増)発生した。年間で初めて800件を超え、過去最多を大幅に更新した。業種別では、『建設業』(209件)が最も多く、前年度(94件)から2.2倍に増加。『小売業』(120件)は前年度(58件)から2.1倍に、『製造業』(180件)も前年度(96件)から1.9倍に増加した。

今後の見通し

「実抜計画」の策定猶予が終了、リスケ実行率低下の可能性

 政府は3月8日、「再生支援の総合的対策」を発表した。4月に到来する民間ゼロゼロ融資の返済開始の最後のピークに万全を期すべく、コロナ対策の各種資金繰り支援制度を6月末まで延長するとともに、官民金融機関等による再生支援を強化する。7月以降は“コロナ前の支援水準”に戻していき、事業者の経営改善・再生支援に支援の軸足を移す方針を明らかにした。

 数ある施策の中で注目されるのが、金融機関に対して求めた取引先企業における「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画(実抜計画)」の策定促進だ。本来、金融機関は返済条件を変更(リスケジュール、以下リスケ)した企業への貸出金を不良債権に分類しないためには実抜計画の策定が必須だが、コロナ禍で事実上猶予されていた。ポストコロナ局面の2024年度からは原則、計画策定が必要となる。これにより、金融機関による「企業選別」の動きが進む可能性がある。現状、実行率99%のリスケのハードルが一段上がることで、今後は金融機関がリスケに応じる比率が低下し、事業継続が難しくなる企業がさらに増えるおそれがある。

当面は「短期プライムレート」引き上げの動きを注視

 日本銀行は3月19日、マイナス金利政策を含めた大規模な金融緩和の解除を決めた。賃金と物価の好循環の強まりが確認されたとして、17年ぶりの利上げに踏み切った。植田総裁は記者会見で「2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現が見通せる状況に至ったと判断した」と説明した。今のところ、今回の政策転換が倒産件数に影響を及ぼすのはもう少し先になりそうだ。住宅ローンの変動型金利や企業向け貸出金利に影響を与える「短期プライムレート」が据え置かれているためである。

 当面は、各金融機関がこの短プラの引き上げにいつ動くのか注視していきたい。コロナ禍に実施されたゼロゼロ融資では、都道府県の利子補給により当初3年間は実質無利子だったものの、多くの借り入れ企業で3年が経過し、すでに利払いはスタートしている。今回のマイナス金利解除を受けて借入金利が上昇すれば、企業にとっては借り換えのタイミングなどで支払い利息がさらに上乗せされる。ゼロゼロ融資で膨らんだ過剰債務を抱える中小企業には死活問題となりかねない。

「ゾンビ企業」淘汰進み、2024年度は1万件突破も視野

 こうした影響を最も受けるのは、低金利下におけるリスケ等の支援策を受けながらも収益改善が進まず、本業の利益で借入金の利払いができない状態に陥っている「ゾンビ企業」だろう。帝国データバンクの推計では2022年度決算時点で25万1000社にのぼるが、物価高や人手不足、賃上げ等にともなうコスト増もあり、この1年でさらに増えた可能性が高い。金融政策が正常化に向かう中で、金融機関によるリスケも、金融円滑化法の施行(2009年)以前とはいかないまでも、当たり前に受けられるものではなくなり“正常化”へ少しずつ向かう過程で、ゾンビ企業の淘汰が進むはずだ。「淘汰」というとネガティブな響きはあるが、産業の「新陳代謝」を進めるうえで必要なプロセスともいえる。むしろ、生産性の低いビジネスモデルや企業を温存させることによる弊害の方が問題だろう。

 幸い、過去の倒産増加局面とは異なり、雇用関連の指標はそこまで悪化していない。2024年度の倒産件数は1万件突破も視野に、引き続き増加が見込まれるが、今すぐ経済危機につながる状況にはない。多くの企業が人手不足の解消に頭を悩ませる中で、事業や雇用を別会社に承継するスキームも目立つ。今こそ「倒産=すべて悪」という固定観念から脱し、新陳代謝を促すツールやバロメーターの側面もあると、認識を改めるべき時かもしれない。

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