飲食店無許可営業の国文化財「私物化」に住民反発 小田原市、業者選定後に増築容認

これまで市民らに無料開放されていた清閑亭。3月から民間業者による飲食店が営業している=小田原市南町

 神奈川県小田原市所有の国登録有形文化財「清閑亭」(同市南町)で飲食店を運営する民間業者が無許可営業で県から行政指導を受けた問題を巡り、市が民間からの提案募集段階で禁止していた国指定史跡内の増築を、業者選定後に業者の要望で一転して認めていたことが8日、分かった。業者は主屋に隣接して火気を扱う厨房(ちゅうぼう)を小田原城跡の土塁の上に建設。近隣住民らは「景観にもそぐわず、市民の憩いの場が一企業の利益に独占されている」と反発し、事業見直しを求めるインターネット署名は1800筆以上が集まった。

 厨房は木造平屋建て(延べ床面積23平方メートル)で、裏庭の一角に2月に建てられた。侯爵・黒田長成(ながしげ)(1867~1939年)の別邸として建てられた数寄屋風書院造りの主屋に対し、厨房は土塁の表層を25センチ掘り、コンクリートの基礎を打ち込んだ現代的な構造物となっている。10年間の事業終了後に市に譲渡され、将来的な撤去費用に公金が投じられることになる。

 清閑亭の民間利活用は守屋輝彦市長の肝いりで、2021年にプロポーザル方式で業者を募集。敷地が史跡の範囲内であることから増築や掘削などをしないことを条件とした。9社から利活用プランの応募があり、鍋料理などを提供する市内の飲食会社のプランが選ばれた。

 しかし、当初は電磁誘導加熱(IH)コンロを使って主屋内で調理するとしていたこの業者は、選定後に計画を変更し、市に厨房の増築を認めるよう要請。業者側は神奈川新聞社の取材に「IHでは水炊き料理の火力が足りない。ガス火を使うので主屋の外側に厨房が必要だった」と説明している。 

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