令和ロマン・髙比良くるま「M-1連覇のチャンスを逃したくない」 放送作家・白武ときおに語った“若き王者の悩み”

プラットフォームを問わず縦横無尽にコンテンツを生み出し続ける、放送作家・白武ときお。インディペンデントな活動をする人たちと、エンタメ業界における今後の仮説や制作のマイルールなどについて語り合う連載企画「作り方の作り方」。

第十回は、令和ロマン・髙比良くるまが登場。2018年に吉本興業の養成所(NSC東京校)を首席で卒業し、相方の松井ケムリと共に魔人無骨としてデビュー。2019年5月に令和ロマンに改名した。2020年に神保町よしもと漫才劇場の所属となり、2023年に『M-1グランプリ』王者となった。

芸人であれば誰もがうらやむほど順調に、スターダムにのしあがってきたかのように見えるが、その裏にはいくつもの葛藤もあった。若くして王者となったがゆえに思いがけず激流に巻き込まれ、思い悩むことも多い。

テレビやYouTube、劇場や地下ライブなど、あらゆる現場を目にしてきた髙比良と白武が、お笑いを始めとするエンタメの現状や展望、そして等身大の悩みなどを語り合う。

・旧コンビ名「魔人無骨」の改名は、消費されることからの逃走だった

白武:くるまくんに初めて会ったのは、昔YouTubeでやっていた番組『Aマッソのゲラニチョビ』で開催した、「お笑いハンター試験」のときでしたね。当時、くるまくんのことをまだ知らなかったんですけど、めっちゃ面白い人がいるなと。

くるま:そうだったんですか? あのとき、まるで手応えとかなかったですよ。でも、俺も白武さんの印象は、そのときが一番強いんですよ。永野さんみたいな言い方をすれば「なんだこの司(つかさど)ってる奴は! こんなに司ってる奴がいるんだ!」と思って。

参加者の中には一般の方もいるのに無茶振りばっかりで、たいした説明もなく急に白線を渡らせて。クリアするためには普通に渡っちゃダメなんですけど、白武さんは、普通に渡っちゃった何十人もの参加者をそのまま帰らせて「どんどん行きましょう」みたいなこと言ってて。

もちろん全員の了承を得た上でやってるんですけど、そのためだけに地方から来た人とかもいるんですよ? だから「すごいな、この人」と思ったのを覚えてます。

白武:あれはいつ頃だったかな。

くるま:2019年だと思います。俺が2018年にデビューして、コロナ禍のギリ前だったんで。

白武:もしかすると当時、くるまくんのことを知らなかったんじゃなくて、僕の中で名前が一致してなかったのかもしれないです。「O-keis(慶應義塾大学のお笑いサークル)に、魔人無骨って名前のすごいコンビがいる」というのは聞こえてきていたし、『M-1グランプリ2018』準決勝にワイルドカードで進んだことも知っていたから。

くるま:まさに、一致させたくなかったんですよ! 魔人無骨って名前を早く消したかったんです。消費されることへの恐怖がめちゃくちゃあったから。

それこそ「司ってる奴」に本当にバレたくなかったんです。改名については今までいろいろ言い訳してきたんですけど、それがほぼ本当の理由です!

白武:「若手のすごい奴が出てきた」って飛びつかれたくなかった、と。

くるま:当時ちょうど、 “お笑い第七世代”が流行ってたんですけど、そこに入れられかけたんですよ。でも霜降り(明星)さんやハナコさんと一緒にやっても、こっちはかなわないじゃないですか! それですぐ「コイツらはダメだ」みたいな烙印を押されるのは怖すぎるから、コンビ名を変えたんですよ。そうやって一旦逃走したんです。

だって絶対に俺らが一番下だってわかってるところに、入りたくないじゃないですか! たとえばサッカーをやりたいとして、強豪校と普通の高校のどちらに進むか考えたときに、絶対にレギュラーになれない強豪校ではやらないって判断しただけの話です。

・「劇場を作りたい」発言の真意

白武:いくつかのインタビューで、くるまくんが「劇場を作りたい」って話してるのを読んだんですけど、あれはどんな構想なんですか?

くるま:現状、若手芸人が吉本で一番下から始めると、劇場の出番が少ないんですよ。それで地下ライブに出続けて、病んでいく。変なフォームを身につけて勝手に腐るというか。

なんかいま、下積みブームじゃないですか。若手が苦渋を舐めたがっちゃうんですよ。ちょっとうまくいかないと地下ライブに出て「お客さん少ねぇ~!」とか言って浸っちゃう。

白武:それはそれで楽しいだろうなあ、若いうちは。

くるま:そうなんですけど、そのなかには「ただ浸りたくて浸ってる」人がいるじゃないですか。具体的にいうと、腐したり、スカしたりするお笑いを身につけている若手がめちゃくちゃ多いなと。だから、そういう状態になってる芸人の矯正施設みたいな場所を作りたいんです。

白武:斜に構えるんじゃなく、ちゃんと盛り上げるお笑いを学ぼうと。

くるま:いや、どっちもあっていいと思うんですけど、変なフォームばかり身についちゃう施設が現状多いんですよ。

白武:くるまくんがそうならなかったのはどうして?

くるま:俺だけじゃなく同期くらいまでは、運が良かったんですよ。ムゲンダイ(ヨシモト∞ホール)が健全に切磋琢磨してる時期に入れたから。

いまはお笑い自体が流行っちゃってるから、ゆるいライブでもなんかオッケー出ちゃうし、企画コーナーが成立してないこととかもいっぱいあるし。腐そうとする精神に、成立してない企画が当たると、始めから腐しちゃうことが多いんですよ。今それがどんどん悪化するループが続いてる。

白武:なるほど。

くるま:俺らより上の世代は、そういう企画でも「逆にどうするか」とか考えて必死になるし、お客さんもきっと楽しいけど、若手にはそういう取り組み方を別の場所で教えなきゃもうダメだなと思うんですよね。

神保町(神保町よしもと漫才劇場)のなかではそういうことを3年くらい取り組んだんですけど、一旦このなかでやるのは現実的じゃないなって思って、卒業して。だから別の場所に劇場を作って、若手の矯正に取り組みたいんです。

白武:他者貢献なんですかね、それは。

くるま:いや、俺のエゴがデカすぎるだけです! だから後輩をどうにかしてあげたいと思うのも、単純な後輩思いとかじゃなく、彼らがお笑いを続けてくれないとどんどん減っていっちゃうから、お笑い界の少子化対策みたいなことですね。

一番の目標は、自分が好きな人とずっと一緒にいることなんですよ。死ぬまで。それが根源的な目標です。みんなでわちゃわちゃしたまま棺桶に入りたい。

俺がなにかで突き抜けたいとか、評価されたいなんて思わないし、みんながいろいろやりたいのはわかるし、それがバラバラでもいいとは思ってます。だけど、みんなとはずっと楽しく遊んでいたくて、それを維持するためのシステムを作りたい。みたいなことなのかもしれません。

白武:じゃあ、司りたいってことじゃないですか。

くるま:かなり司りたいです! めちゃくちゃ自己中なんですよ、俺!

テレビで生き残れる天才じゃない くるまが考える“テレビとYouTubeの違い”

白武:くるまくんは、まわりと一緒に楽しくやりたいと。ケムリさんはテレビスターになりたいって言ってるのを見たことがあって。テレビスターになっていく令和ロマンも見てみたいですけどね。

くるま:ケムリはYouTubeやTikTokが伸びて成功しているんだから、それでいいんじゃないかと思うんですけどね。でも、世代的にやっぱりすごかったテレビの印象を強く持っているから、テレビでチヤホヤされることこそが、ケムリにとってマックスの状態なんですよ。

ただ、そのチャレンジは難しいと思うんですよ。ネットで注目されて出るドーパミンを知っちゃってたら、抜け出せないと思うから。目に見えて数字が出て、お金がもらえる状況からは抜け出すのが難しい。

それにいまのテレビって、マジで天才しか出てないじゃないですか! 本当に才能があって意志が強い、成功するんだって思ってやり続けられるスターしかいないから、俺だったらなれないし。

白武:くるまくんも、なれるチャンスはありますよね?

くるま:いやいや、なれないですよ! 俺は同じことを続けられないから。とにかく「面白くなりたい!」としか思わないし、スターになりたいとかではないし。

白武:じゃあたとえば、4月からフジテレビの深夜番組をやることになって、好きな人を呼んでやりましょうとなったとする。それを5年、10年続けましょうっていうのは?

くるま:正直、続かないことがわかっちゃってますし。リアルな話、俺のいまのポジションと経歴に対して動いてくれるスタッフとか、出てくれる演者とか、バランスを考えたときにもう無理なんですよ。いまのテレビで生き残れるクオリティに達しないから。

それは『M-1』の前からちょこちょこ見てきて、誰が面白いとか、どこでなにをやってこうなるとか、全体像を掴めてるから、別にもう無理なのはわかってますし。

白武:でも、奇跡があるわけですよ。

くるま:そうそう。その奇跡を信じられる人はテレビを目指すと思うんですけど、俺はそうじゃないんですよ。だから着実に積み重ねられるYouTubeとか劇場、『M-1』とかが好きなんですよ。だってテレビって、奇跡待ちじゃないですか。無名ギャルタレントが爆跳ねするかもしれない、とか。

白武:たとえば『キョコロヒー』(テレビ朝日)のように、齊藤京子さんとヒコロヒーさんの組み合わせが面白くて評判になるとか。こないだやっていた『令和ロマンの娯楽がたり』(テレビ朝日)もくるまくんの分析芸とか、キャラを見つけたり育ててもらえる番組になっていくかもしれない。だから近いうちでもフィットする番組がありえるんじゃないかなって。

くるま:あると思いますよ。そういう居場所は作りたいなとは思いますし。だから別にテレビを諦めているわけじゃないし、出たくないわけじゃなくて。

でもたとえばYouTubeとか自分のものの数字とか伸ばしていって、じゃあテレビでこういうのもやりませんか……みたいに、積み上げてから出るものだと思ってるんですよ。

白武:今も十分、積み上がっているものがあるはず。

くるま:そもそも自分がどうなりたいかにあんまり興味がないから「信頼のある場所で得意なことをやったほうが魅力が伝わるじゃん」とか言われても「そうなんだ~」と思うだけなんですよね。

それに俺の仕事は、自分が前に出るというよりは、自分の視点でなにかを繋ぐこととかだと思ってるんですよ。YouTuberと芸人とか、世代の違う人同士が話すとか、それをライブで繋ぐとか。だからテレビ自体は魅力的ですけど、自分の仕事があるので。

テレビに関しては、スケジュール的にもいまは特に厳しいのもありますし。拘束時間が長いし、こうやらなきゃいけないとかもあるから、ただ「できなくて残念~」って感じです。

白武:いまはやりたいことが他にあるからってことだもんね。くるまくんが初めて掘っていく“おもしろ”があると思うから楽しみです。お笑いの世界で結果を出したくるまくんが、どうその枠の外側と接していくのかを見ていきたい。

くるま:でもなんか、わかんないです。自分の存在より大きすぎるものの話だし、そんな難しいことまで考えてないんですけどね。テレビに関してはとにかくみんなが楽しそうにしてるから、邪魔したくないって気持ちが大きいんですよ。

だってもう、みんな楽しくやってるじゃないですか。テレビは。俺、人の番組を観るのとかめっちゃ好きで、それでもう満足しちゃうんですよね。それを観ていたいだけで、自分はあんまりそこに関わりたいとは思わないんです。

・『M-1』にずっと出続けたい理由

白武:くるまくんは、たとえば「『M-1』優勝」とかゴール設定をしてクリアしていくタイプなのか、紆余曲折してたどり着くタイプなのかでいえば、どちらなんですか?

くるま:強いて言えば、紆余曲折ですかね。消去法なんですよ。「これは違うな」「これはやめたほうがいいな」ってなって、残ったものが『M-1』でいえば優勝になっちゃったわけで。

今年の『M-1』はやっぱり出たいし、優勝したいんですよ。どうしたらもう一度決勝に押し上げるような空気を作れるかを考えたら、ゴールデン番組を一周している場合じゃないし、ネタ作らなきゃいけないし。だからいま、ネタを作っても出す場がないのがストレスです。

白武:今後はネタを作って披露していく状況を作れそうですか?

くるま:そうですね。今後はもっとフラットな場所とか、ルミネtheよしもとに定期的に出してもらいますし、どんどん試していけたらいいなって思ってます。

『M-1』で優勝して、いろんなインタビューとかが出て、俺がどういう人間なのかが知られて、そのイメージが固まり始めている状況だと思うんですよ。その上で、どんなネタをやるのかを考えたいです。早く。とにかく『M-1』に向けてもう一度同じ一年を過ごしたいんですよ!

白武:その原動力というか、モチベーションはなになんですか?

くるま:楽しいは楽しいし、もっと良い決勝にしたかったから、できなかったものを回収したいというか。クリアはしたけど取ってないアイテムがある感じです。

白武:達成度を100%にしたいんですか?

くるま:100%にしたい! まだまだやり込んでないんで! お客さんや近しい芸人は嫌がる人も多いですけど、歴代チャンピオンとかだと「チャンスがあるなら挑戦したいよな。俺もしたかったな」って言ってる方がけっこう多くて。

「『M-1』優勝して、テレビに出るチャンスがあるのになんでやらないの?」みたいなことも言われるんですけど、そのチャンスよりもさらに確率が低いのが『M-1』連覇じゃないですか! 一番貴重なチャンスを逃したくないのは普通じゃないかなって。

白武:普通だったら連覇に挑むしんどさや勝ちにくさを考えてまたやりたいとならなかったり、優勝できなくて新チャンピオンが出たら話題は移っちゃうから「せっかく去年優勝したのに売れ逃したね」ってなるのを避けたいじゃないですか。

くるま:そもそもテレビに出て売れたい欲がないからでしょうね。それよりもずっと『M-1』に出たい! 連覇じゃなくても、何回優勝とかでもいいし、期間が空いて3回くらい優勝してもいいし。

白武:バカリズムさんが『IPPONグランプリ』で優勝を重ていくシーンを見たいみたいに。

くるま:そうですね。今年7年目になるんで、8年後まで出られますから。今年優勝して、2031年にまた優勝とかいいですよね! 渋いですね~。その時点でまだ38歳とかですからね! 漫才としては一番脂が乗ってる時期だと思うんで、そのときに決勝出られたら一番いいですよね。

白武:それは楽しみですね。

くるま:だから俺は『M-1』ライフを打ち切られただけなんですよ! ラストイヤーまで何度も決勝に出る人でいたかったのに!

白武:なんでそのポジションがいいんですか?

くるま:ずっと漫才に取り組み続けて、ごはんを食べられてる。その状態が自分の理想に一番近いんですよ。健全だから。それなのに「『M-1』優勝しちゃったじゃん」とか言われるとさみしいし、みんなとまだ一緒にいたいし、もっと漫才を追究したいんです。

・「本当に面白い人たちに見透かされるのが怖い」

白武:テレビの演出家みたいになって、自分も出て、それこそ北野武さんみたいに自分で監督をしながら演者もやるような、そういうコントロールできる世界でなにか作ることには興味ないんですか?

くるま:それは興味はあるかもしれないですけど、めんどくさがりなんで。めんどくさいなあって思っちゃう。できたら気持ちが良いだろうなと思いますよ、チームがやれたら。いま、いい感じに仲間探しができている感覚はあるので。

こうやって白武さんに会えていることもそうだし、『娯楽がたり』のチームもそうだし。同じことを思ってくれる人がいるわけだから、仲間が集まったら動くのかもしれないですね。

白武:いまは仲間探しの時期なんですね。

くるま:いや、動きたいのかな……漫才以外のことをしなきゃ、いけないのかな……めんどくさいなあ……。でもケムリがいつまで健康かもわからないんで、とか危機感はありますよ。

コンビや会社が当たり前にあるわけじゃないからこそ、ひとりでできることもやらなきゃなとは思います。でも、やっぱりめんどくさいんですよね……めんどくさいんですよ……とにかく……。

白武:今日はひとつ課題ができました。くるまくんが「めんどくさい」から抜け出すほど魅力的に思うなにかを、今後提案したいです。

くるま:え、そんなこと言われたら嬉しいですよ! 嬉しいけど、白武さんに対するコンプレックスとかが一番あるのかもしれないです。

白武:なんですかそれは。

くるま:霜降りさんとかAマッソさんとか、本当に面白い人たちと仕事をしている人だから、なんか見透かされちゃいそうな気がするんですよ! あいつとは違う、とか思われちゃうんじゃないかと思うんですよね。

白武:それはこっちも同じように不安ですよ。他の優秀な気の合うスタッフがいるのに声かけられちゃったなと思われないか。令和ロマンのYouTubeもたくさん観てますよ。面白い。

くるま:そうなんですか? いやそれも恥ずかしいんですよね。結局は、恥ずかしい気持ちがデカいかもしれないです!

優秀な人たちは若くして富と権力を得てきて、なんかこうプランとかビジョンとかあるんでしょう? 年上に対する反骨心とかも持ち合わせた、粗品さんとか加納さんとかが、なにかを築いていくんでしょう?

もうそっちでやってください! ごめんなさい、私は戦力になれません! こっちでこそこそやっとくんで、本当にもう気にしないでください!!

白武:いや、ちゃんとくるまくんの城を建ててほしい。

くるま:いやもうそれはこっちでこそこそやっとくんで、もう「これは面白いんですか?」「これはすごいですよね!」とか言ってこっちを光で照らさないでください!! もうみんな勘弁してください……僕の家に入ってこないでください……。

白武:こそこそしてる場合じゃありませんよ。お邪魔します。

くるま:ああ~怖い~!! こうやって輝きと力を持った人間が蹂躙するんですよ! だから入ってこられないように、鍵をかけておかないとダメだ! それでも入ってきちゃうんだろうな、こういう人たちは知的好奇心と行動力がすごいから。チームもあるし。だからもう、それが本音です。俺はただ怖いんです!

白武:大丈夫大丈夫。怖くない怖くない…鍵となるアイデアを考えないと。

くるま:怖い~!! 今後はこの攻防をお楽しみください!

(文・取材=鈴木 梢)

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