「年収1000万円でも教育費が大変」と聞きます。1000万円もあればどうにかなりそうな気がしますが、どのように大変なのでしょうか?

年収1000万円の手取りは額面の75~80%程度しかない

「年収1000万円」というと、1000万円が丸ごと手元に来ることをイメージしますが、実際に使えるお金は税金や社会保険料などを差し引いたあとに残る、いわゆる「手取り」の部分だけです。

金融庁の資料「給与所得 〔平成23年以降〕に係る実効税率表」によると、年収1000万円で子どもがいる人の、所得税・住民税・社会保険料の負担率は、年収の約20.81~24.23%です。これらの負担分を差し引いた手取り額は、750~800万円程度でしかありません。年収1000万円の人は、字面から想像するほどの潤沢な可処分所得があるわけではないのです。

年収1000万円の世帯が負担する平均的な在学費用は年収の1割強

日本政策金融公庫が公開している「令和3年度「教育費負担の実態調査結果」」によると、年収別の世帯年収に占める在学費用(学校教育費と家庭教育費の合計)の割合と平均額は図表1のとおりです。

【図表1】

日本政策金融公庫「令和3年度「教育費負担の実態調査結果」より筆者作成

図表1に当てはめると、年収1000万円世帯の在学費用の負担割合は1割強です。平均額150万円をもとに計算すると、年収の約15%は在学費用として費やされることになります。手取り額が800万円だとすると、在学費用の割合は約19%にはね上がります。

私立学校に通うと教育費負担はより大きくなる

子どもが進学先に私立学校を選択した場合は、教育費の負担がさらに大きくなる可能性があります。文部科学省「令和3年度 子供の学習費調査」の結果によると、幼稚園~高等学校までにかかる学習費は、公立、私立それぞれ図表2のとおりです。

【図表2】

文部科学省「令和3年度子供の学習費調査」より筆者作成

いずれの教育段階でも私立のほうが大幅に学習費は高く、最も差が大きい小学校時代には5倍近く差がついています。また、日本政策金融公庫「令和3年度「教育費負担の実態調査結果」によると、大学の在学費用の平均は国公立大学が103万5000円なのに対して、私立大学文系が152万円、私立大学理系が183万2000円です。

将来、私立学校に進学する可能性に備えて、教育費の負担と並行して子どもの人数分の教育資金も貯蓄するとなると、年収1000万円といえど、家計にゆとりがあるとはいえないでしょう。

年収が1000万円あると受けられなくなる公的な支援がある

年収が1000万円あると、高校や大学の学費に関する公的な支援を受けられないケースが出てきます。

例えば、高等学校等就学支援金制度(高校無償化)では、片働きで世帯年収が1000万円を超えていると、支援金を一切受給できない可能性が高いでしょう(子どもの人数や住んでいる自治体などによる)。また、大学の学費などの支援を受けられる「高等教育の修学支援新制度」では、片働き4人家族が支援を受けられる年収の目安を、380万円程度としています。

公的な支援を受けられないとなると、学費を全て自己資金で工面しなければならないため、支援を受けられる世帯と比べると負担感は大きいといえるでしょう。

子ども1人を大学まで出すには膨大な教育費の捻出が必要

子どもを1人大学まで出すには、膨大な教育費が必要です。私立に進学したり子どもの人数が多かったりする場合には、輪をかけて多くの費用がかかります。その一方で、所得制限のある公的な支援は、受けられないケースが少なくないのです。

年収1000万円とは、1000万円を丸ごと生活費に使えるという意味ではありません。手取りは額面の8割前後しかなく、そのなかでのやりくりはイメージほど余裕のあるものではないでしょう。

出典

国税庁 給与所得者と税
金融庁 給与所得 〔平成23年以降〕に係る実効税率表
日本政策金融公庫 令和3年度 教育費負担の実態調査結果
文部科学省 令和3年度 子供の学習費調査
文部科学省 高等学校等就学支援金制度
文部科学省 高等教育の修学支援新制度

執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

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