【桜花賞回顧】J.モレイラ騎手の騎乗光る ステレンボッシュの勝因は4コーナーにあり

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桜花賞で変わらないもの

満開の桜花賞は2016年以来、8年ぶりだという。ジュエラーが勝ち、シンハライトが2着。3着は今年の桜花賞に駒を進めたセシリエプラージュの母アットザシーサイドだった年だ。厄介な感染症で世の中の動きが緩やかになったせいもあり、ずいぶん遠い昔のように感じる。

ローテーションの変革など、様々な変化によって目にする景色は変わったかもしれない。だが、桜花賞を彩る桃色は変わらない。散り際も満開も開花まもなくも美しく、日本人の心を浄化してくれる。

もうひとつ変わらないのが、阪神JFが推理の出発地点であること。すべてはこれを基準に組み立てられる。今年の桜花賞も阪神JF1、2着が着順を入れ替え結末を迎えた。

昨年の阪神JFは1:32.6でレシステンシアの記録を0秒1上回るレースレコード。文句なしのハイレベルな一戦だった。序盤600m34.4、前後半800m46.4-46.2、ラスト600m34.4とどの角度からみてもスキがなく、当然、上位馬は桜花賞でも負けないだろうと思われた。そのゴール前、先に抜けたアスコリピチェーノを内から急襲したのがステレンボッシュだった。その差はわずかクビ。ゴール板での脚色は後ろからきたステレンボッシュが上回っていた。負けて強し。赤松賞を勝ったばかりで重賞での経験値の差が位置取りの差にあらわれ、すんでのところでGⅠをとり逃した。

そして、この2頭はそろって直行で桜花賞へ向かった。近年は賞金加算に成功した時点で本番への逆算がはじまる。どちらも選んだのは栗東留学。両馬、ほぼ同じタイミングで栗東へ入り、中間のウッドコースでの調教本数、5本までおそろいだった。ただ、当日の馬体重はアスコリピチェーノが+10キロ、ステレンボッシュ-4キロとわずかな差があった。もちろん推測だが、アスコリピチェーノの4コーナーでの反応が遅れたのは、ここにも原因があったかもしれない。

オークスでの再戦へ

レースの位置取りはアスコリピチェーノが前に行き、ステレンボッシュはその後ろ。J.モレイラ騎手はアスコリピチェーノさえ封じれば、栄冠を手にできるという読みだったか。先へ行くのではなく、後ろに賭けたのは、阪神JFのゴール前の脚色に根拠があった。やはり桜花賞は阪神JFが基準になる。進路さえ間違えなければ差せる。そんな確信もあったようなレースぶりだった。

ポイントは4コーナー。アスコリピチェーノのコーナリングがわずかに緩み、そのインに迷わずステレンボッシュが入った。これによってアスコリピチェーノは一瞬、走りのバランスを乱し追い出す態勢をつくりきれなかった。その間につけた差がゴール板の3/4馬身差に結びついた。勝負は一瞬のこと。それを逃さなかったモレイラ騎手とステレンボッシュが栄冠を勝ち取った。

これで1勝1敗。勝負は振り出しに戻ったにすぎず、決してアスコリピチェーノの力が劣ったわけではない。さあ次のラウンドへというところだが、ダイワメジャー産駒アスコリピチェーノの次走はどこになるだろうか。血統をみればオークスでは距離の壁を感じるが、ここまで4戦のレースぶりにマイラーっぽさを感じない。ひとつ上のアスコルティアーモは中距離中心に【3-1-2-0】。世代限定ならオークスもこなせる。レースセンスがあるタイプで弱点は少ない。

ステレンボッシュは血統的にも距離延長はのぞむところ。エピファネイア産駒は今年3月一杯まで、前走同距離161勝に対し、距離延長は102勝で勝率はあまり差がない。短縮は73勝で距離が延びることを苦にしない。なによりモレイラ騎手の短期免許は安田記念まで。次も引き続き騎乗してくれそうなのは心強い。

オークスで追いかけたい3、4着

3着は4コーナー最後方から追い込んだライトバック。序盤600m34.5、前後半800m46.3-45.9、ラスト600m34.1と流れとしてはスローに近く、追い込みが決まる状況ではなかったこともあり、1、2着とは位置取りの差が出てしまった。トライアルで逃げて権利を獲った馬たちが行かず、抽選突破のショウナンマヌエラが逃げたことで、想定より遅い流れになったのは痛かった。この状況下で3着まで来たのは能力そのもの。悲観することはない。マイラーではなさそうで距離延長を味方に次も好走してくるだろう。4着スウィープフィートも同様で、桜花賞で遅れ差しの形で敗れた馬はぜひオークスで買いたい。

今年は直行組に各トライアルで権利を獲得した馬がすべて出走してきた。状況的には最高の舞台の桜花賞だった。一方、人馬とも無事にゲートインできたわけではなく、エトヴプレに騎乗予定だった藤岡康太騎手は前日の阪神競馬で落馬し、乗り替わりになった。全人馬、無事に舞台に立つ難しさを感じた。しかし、そのエトヴプレは5着と掲示板を確保した。前走より遅い流れになったなか、2番手に控え、切れ味比べになったのは分が悪かったが、それでも0秒3差5着に踏ん張った。外回りのマイルGⅠでこれだけ戦えるなら、むしろ将来は明るい。夏には古馬相手に重賞を勝っていても不思議はない。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



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