『ウルトラマンアーク』辻本貴則監督が期待されるワケ 『HiGH&LOW』シーズン2で示した力量

7月から放送されるウルトラマンシリーズの新作『ウルトラマンアーク』について、詳細が発表された。この作品でメイン監督を務めるのが、辻本貴則監督である。

自主映画出身、なおかつ商業映画監督デビュー作から主にアクション畑を歩き続けている辻本監督。生粋のウルトラマンファンとしても知られており、直近の『ウルトラマンブレーザー』をはじめ、近年のウルトラマンシリーズでは多数のエピソードを監督している。そんな辻本監督が『ウルトラマンアーク』ではシリーズを通してメイン監督として参加するという。期待大である。

なぜ期待できるのかといえば、それは辻本監督が『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』のシーズン2で、4話および7~8話を監督した人物だからである。ハイローを通して見たことがある人ならば、「シーズン2の7~8話をやった人が監督するウルトラマン」というだけで「それは面白くなるのでは……」と思うのではないだろうか。

EXILEなどを擁するLDHが手掛ける総合エンターテインメントプロジェクト『HiGH&LOW(以下ハイロー)』は、プロジェクト開始当初の2015年にはテレビドラマとして放送されていた。このテレビドラマ版は衝撃的なクリフハンガーエンドで終わるシーズン1、そしてそれぞれのキャラクターの過去などを掘り下げつつ映画版へとつながるシーズン2が放送され、辻本監督が参加したのはこのシーズン2の方。劇中最硬キャラである九十九さん(青柳翔)がいかにしてMUGEN入りしたのかが語られる第4話、そしてシリーズ屈指の人気キャラクター、轟洋介(前田公輝)が鬼邪高校へと攻め込んでくる第7話と第8話で、エピソード監督を担当しているのだ。

第4話では九十九さんの過去が語られる。MUGENのリーダーである琥珀さん(EXILE AKIRA)に対し、たまたま道で出会った九十九さんは喧嘩を売る。殴り合いで琥珀さんとの圧倒的なフィジカルの差を見せつけられた九十九さんだったが、琥珀さんの提案でバイクレースで勝負することに。

このレースシーンが、アクションに慣れた監督ならではの安定感である。貨物などが多数置かれている埠頭の中を縫うように2台のバイクが走るのだが、ややこしいロケーションにも関わらず2台の位置関係がちゃんと読み取れ、なおかつ短いレース中でも役者の表情やキャラクターの闘志、バイクのスピード感もきちんと理解できる。「最初は勢いで九十九さんがリードするが、テクニックで勝る琥珀さんがじわじわ追いつき、最後は焦った九十九さんが事故る」という流れが、スルスルと飲み込めるのだ。そのあとの「落下してきたフォークリフト用パレットから身を挺して九十九さんを守る琥珀さん」まで含め、辻本監督の力量を示す名場面である。

7~8話に関しては、これはもう文句なしの名エピソードだ。子供の頃からいじめられてきたが一念発起して体を鍛えまくり、不良狩りを趣味にするようになった危険な高校生、轟洋介。全国から不良が集まる鬼邪高校を次のターゲットにするべく乗り込んできたが、鬼邪高で頭を張っているはずの村山(山田裕貴)は目標を見失ってボンヤリしてしまっており、暖簾に腕押しな状態。しかし仲間を轟にボコられたことで村山がシャッキリし、2人が激闘を繰り広げるまでが2話連続で描かれる。

ハイロー屈指の人気キャラである轟の初登場となるエピソードだが、まず初登場時の轟の見せ場が素晴らしい。ぱっと見メガネのガリ勉に見える轟を「車が三つだから、三輪車だ~!」と舐め腐った鬼邪高の不良に対し、机の上に飛び上がっての飛び蹴り一閃、激重な轟の蹴りの前に雑魚の不良は吹っ飛んでいく。そして返す刀で脇の不良にアッパーを喰らわせると、不良の体は空中で一回転し、もんどりうって教室の床に転がるのである。さらに自分がぶちのめした不良をヘラヘラしながらスマホで撮影する轟の姿を見せることで、「あ、こいつは格が違うんだな」と視聴者の脳裏にしっかり印象付ける。唐突に登場した強キャラのヤバさを短時間で説明するシーンとして、100点満点だ。

さらに力が入っているのが、村山と轟が雌雄を決する8話の決闘シーンである。演者の全身が入る引いたアングル(おそらくロケーション的に水平方向の引きじりがなかったので、わざわざカメラを上方向に持ち上げている)で素早く手数の多い打ち合いを見せたと思えば、重い打撃は音や動きを使って描き分け、さらにスローモーションで止め絵のかっこよさも表現する。轟が膝蹴りで村山を蹴り飛ばし、吹っ飛んだ村山がロッカーに突っ込んでいくカットのカッコよさたるや……。やはり辻本監督のアクション筋はマジである。

直近のハイローは鬼邪高をメインに据えた映画が連続で作られているが、シリーズ開始当初の予定では鬼邪高はちょっとしたかませ犬程度の出番に収まるはずだったという。それをひっくり返して単独の映画まで製作させた理由には、間違いなく山田裕貴ら俳優の気合と熱演もあるが、個人的にはこの7~8話の存在も大きかったと思う。「鬼邪高には全日と定時があり、定時のほうが悪い」という他のチームにはない二重構造が描写され、「定時の村山、全日の轟」という枠組みが導入されたのは7~8話であり、その後の鬼邪高単独ドラマ&映画は基本的にこの枠組みをベースにしているからだ。現在までのハイローの流れを決定づけた(のではないかとおれが勝手に思っている)エピソードを監督したのが、辻本監督なのだ。

ウルトラマンの話のはずがハイローのことばかり書いてしまったが、要はそのくらい辻本監督の担当したエピソードが名作なのである。不良の殴り合いをウルトラマンに置き換えて、アクションの達人がいかに暴れ回るか、期待しながら放送を待ちたいと思う。

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