ロングコース「奥高尾縦走」入門! 「絶景&グルメ」堪能できる「最適アレンジ」登山ルート

高尾山山頂からの夕日(撮影:吉田 哲大)

寒さから解放されつつある早春の季節は、日差しが心地よく山登りを満喫できる。空気も澄みわたり、晴れの日も多いため、山頂からの眺望も抜群だ。雲と青空のコントラストも気持ちをリフレッシュしてくれるだろう。低山登山は誰もが登りやすく、比較的簡単な装備で気軽に山の魅力を堪能できるのが特徴だ。

その代表格として挙げられるのが、年間260万人が登る「年間登山者数・世界一」の高尾山であろう。ケーブルやリフトで山の中腹まで行け、9つのハイキングコースがある高尾山だが、そこから先の「奥高尾」を知らず、山頂から復路で折り返している人もきっと多いはずだ。

実は、高尾山の山頂からほんの10分歩くだけで風景がガラリと変わる。今回は幼少期から200回以上、高尾を歩いた八王子在住の筆者が奥高尾の魅力と気軽に登れるルートを紹介するので、ぜひ参考にしてもらいたい。

■奥高尾縦走路について

高尾山山頂に奥高尾へのルート標識がある

高尾山から延びる奥高尾縦走路の基本ルートは、以下の通り。

高尾山(たかおさん・599m)〜 小仏城山(こぼとけしろやま・670.3m)〜 景信山(かげのぶやま・727.1m)〜 陣馬山(じんばさん・855m)

奥高尾縦走路にもいくつかコースがあるが、ルートの組み合わせによって楽しみ方も変わってくる。筆者は、人が少なくなる夕方に高尾山山頂を訪れるルートにしている。人混みの日常から離れたいのであれば、高尾山からの眺望を最後に楽しむことをおすすめしたい。

いずれも尾根づたいに山頂をつなぐルートで、計約6時間〜7時間かけて縦走するのが奥高尾の真骨頂であると筆者は感じている。ただ、途中で下山することも可能である。

例えば、 ① 景信山〜小仏城山ルート ② 陣馬山〜景信山ルート ③ 小仏城山〜高尾山ルート

など、気分次第でルートを変更できる。もちろん2つのルートを経由したり、スタート地点を逆にしたりと、組み合わせは自由だ。

今では観光地となった高尾山の人混みから、一気に林間の風と光を感じることができる。それが奥高尾の魅力である。

■まずは「小仏峠〜高尾山」ルートにチャレンジ!

奥高尾の山々を行かず、明るいうちに京王電鉄高尾山口駅から高尾山を折り返すのは一般的なコースではあるが、非常にもったいない。空気の澄んだ季節に富士山がとても綺麗に見えるスポットや、紅葉の時期に深い色に染まる紅葉など、自然の中を堪能するのも楽しい。

奥高尾ルートの入門編としておすすめしたいのが、「小仏峠〜小仏城山〜高尾山」の縦走ルートである。奥高尾はトレイルランニングの練習場所としても人気が高く、筆者もトレランをしていた頃はこのルートをよく利用した。

ハイキングでもこのルートは初心者でも抵抗なく自然の息吹を感じられ、数々の撮影スポットや城山グルメを堪能できる。

■明治天皇も休憩した小仏峠の吹き抜ける風

JR中央線の高尾駅から、バスの終点である小仏バス停で下車。そこから少し舗装された道を歩くと、景信山への登山口がある。そこを横目に道なりに進むと、小仏峠への登山口が見えてくる。手前には数台駐車場もあるが、空いている保証はないのでバスの方が賢明だ。

登山口に入ると、空気の変化を感じることができるだろう。林間からの光と空気が心地よく、マイナスイオン効果を感じる。登山口付近に飲める湧水スペースがあり、冷たい軟水を楽しめる。

上り道ではあるが、急な傾斜も少なく着実に登れる道だ。焦らずマイペースで登っていこう。

そろそろ開けた場所が恋しくなる頃、平坦な小仏峠に出る。ここはかつて明治天皇が旅すがら休んだ場所としても知られており、石碑も建立されている。小仏峠は年中心地よい風が通り抜ける場所として有名であり、富士山と相模湖が同時に眺められ、休憩にはもってこいの場所である。

■小仏城山の「絶品なめこ汁と絶景」でくつろぎタイム

小仏峠を後にし、小仏城山の山頂へ向かう。道中トレランの人や、高尾山から抜けてきた人と多くすれ違うのがこのあたりの道だ。

奥高尾に行き交う人全般に言えることだが、気さくに話せて「こんにちは」の挨拶も自ずと飛び交う。トレランで息を切らしている人ですら挨拶をしてくれる。きっと初めての人は、山登りのよさを感じる光景だろう。

小仏峠からは、道幅は少し狭くなり木の根が張り出して大きめの岩も出てくる。こうした歩幅が一定しない道ではトレランの訓練に向いているが、登山者としては少し過酷な道だ。

しばらくすると城山鉄塔が見え、一気に視界が開け小仏城山の山頂に辿り着く。真っ先に目につくのが2軒ある茶屋だ。

うち1軒の城山茶屋で出されるなめこ汁(税込み300円)が実に美味い。味噌ベースの茶屋は多いが、城山茶屋のなめこ汁は醤油ベースなのだ。しかも、ほかの茶屋と比較しても安い。

寸胴鍋で作るため、なめこが家庭では出せないとろみを出している。醤油ベースの隠し味にゆずが使われており、とろりとしたなめこ汁は何杯でも飲めてしまうことだろう。昼食はぜひこの山頂でとることをおすすめする。

景色も最高である。都心のスカイツリーから横浜ランドマーク方面まで一望できる。反対の相模湖側へ回れば、富士山が目の前に現れている。

広がる茶屋ベンチの脇に芝生の場所がある。ここは茶屋より一段低く視界も開けているため、静かに過ごしたい人にはおすすめの場所だ。ごろ寝をすれば、青空と富士山だけが見え、うたた寝をしたくなる筆者お気に入りの場所である。

■桜の一丁平と紅葉のもみじ台で四季を感じよう

小仏城山から高尾山へ向かう登山道はなだらかで、歩きやすい道が続く。高尾山方面から来ると上りが多く感じるかもしれない。ほどよい下りと平坦な道で景色ものんびり見ることができる。

小仏城山で昼食を済ませれば、体力も温存され心地よく歩けることだろう。このあたりは巻き道も多いので、要所要所の標識を見ながら進んでもらいたい。

小仏城山から高尾山までのルート上にある「一丁平の千本桜」は有名で、春の時期になると多くの人で賑わうスポットだ。一丁平には展望デッキもあり、富士山と丹沢の山々を眺められる。背後には屋根付きの休憩スペースもあり、少しのんびり山の景色を堪能するのもいいだろう。

一丁平からもみじ台までは、整備された道と階段が続く。もみじ台は文字通り、紅葉シーズンに鮮やかな赤色に彩られる。例年ボジョレーヌーボーが解禁される頃、この下で飲むのが恒例となっているリピーターもいるほどだ。もみじ台は高尾山から10分も歩けば着く場所なので、紅葉シーズンはここまで来る価値がある。

■夕日をとるか、蕎麦をとるか

もみじ台から最後の目的地、高尾山へ到着すると、人の数・服装も一気に変わってくる。バックパックもなく、気軽なノリで来てしまったような人達も少なくない。実際、それでも来られてしまうのが高尾山であり、その手軽さも魅力なのかもしれない。

のんびり縦走してくると、リフトやケーブルカーの最終便の時間も近づき、ピーク時と比べ観光客は少ない。

さて、ここで2つの選択肢から一方を選ばなければならない。山頂で待機して夕日をとるか、下山して蕎麦をとるかである。

高尾山の山頂から眺める夕日は素晴らしい。高尾山口駅から高尾山だけを登ってすぐに下山してしまう人は意外と知らないはずだが、夜景も素晴らしい。この景色をファインダーに納めたくて日が沈むのを待っている人もいるぐらいである。

高尾山は灯りや舗装路のコースもあるので、ライトは必須だが安心して下山できるのも特徴の一つである。

下山して蕎麦を食べる方を選ぶのなら、ぜひ髙尾山ケーブルカー清滝駅前にある「高橋家」を訪れてもらいたい。昼間は必ず行列ができる店だが、ピークの時間帯を避ければすんなり入れる。

高橋家は今から200年前の江戸時代・天保年間に創業し、高尾山を訪れる登山客や信仰者、観光客などに長年愛されてきた老舗店だ。店内には樹齢150年余りの柿の大木が根を下ろし、迎えてくれる。落ち着いた店内で食べる蕎麦は、なぜかホッとする。

高橋家の閉店は午後5時。夕日を待って下山の時間も考慮したら、店は閉まっている。筆者は夕日と蕎麦でいつも迷ってしまう。

■人気の高い奥高尾の山々! ぜひ一度足を踏み入れてみて!

今回は、高尾山から先の奥高尾の中でも比較的初心者向けで、コースタイムに余裕のある小仏城山〜高尾山ルートを紹介した。

登山用のGPS地図アプリを展開するコミュニティサイト「ヤマレコ」が、2023年3月〜2024年3月までの1年間で調査した「全国人気の山ランキング」では、高尾山が1位に選ばれたほか、2位に小仏城山、5位に景信山が選ばれるなど奥高尾の山々が多くランクインしている。

多くの登山者が利用するアプリの調査結果からも馴染みやすく気軽に登れて、充実感も味わえる山であることがわかるだろう。1600種類の花々、100種類の野鳥、30種類の動物、4000種類の昆虫が生息していると言われ、まさに「自然の宝庫」の山々である。

2020年6月文化庁が認定する「日本遺産」に東京都で初めて認定された高尾山。フランスで発売される日本の観光地を紹介するガイドブック「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」の三つ星に京都や奈良、富士山と並んで選ばれてたことから外国人観光客も増え、訪れる人数は年々増加傾向だ。

しかし奥高尾に一歩踏み込むと、自然豊かで静かに散策できる非日常がそこにはある。シャッターチャンスのポイントも数多くある。

縦走後は高尾山への玄関口でもある京王線高尾山口駅内にある「極楽湯」で、疲れた身体を癒して帰るのもいいだろう。7種類の風呂に浸かれば、1日を満喫した達成感を感じるはずだ。

達成感や心地よい疲労感は、色々な角度からの富士山や空や雲、林間からの風や様々な景色を堪能し、人との触れ合いに心和んだからなのかもしれない。

グルメや絶景を堪能できる奥高尾に、ぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。

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