「お気に入りの一冊をあなたへ 読書推せん文コンクール」表彰式レポ! 過去入賞作から本を探せるライブラリー機能も登場

By 学研キッズネット編集部

公益財団法人 博報堂教育財団 が小・中学生を対象に開催している「お気に入りの一冊をあなたへ 読書推せん文コンクール」。子どもに読書への興味を持ってほしい、読書を習慣にしてほしいという願いから2020年にスタートし、今年で3回目を迎えました。今回は3月16日に行われた表彰式の模様を紹介します。

「お気に入りの一冊をあなたへ 読書推せん文コンクール」とは?

読書推せん文コンクールは、自分が好きな本を誰かにすすめるコンクール。
選んだ本の何が気に入っていて、誰に何を伝えたいのかを、子ども自身の言葉で綴ります。応募資格があるのは全国および海外の小中学生で、対象となる本は、小説や詩集、図鑑や写真集、漫画など種類もさまざま。厳正な選考を経て入賞作品を選出し、表彰式で個人賞と団体賞を贈呈します。

応募総数は3万作品以上。今年はさまざまなジャンルの推せん文が!

2020年に財団設立50周年記念事業としてスタートした「お気に入りの一冊をあなたへ 読書推せん文コンクール」。読書推せん文という新しい試みが少しずつ世の中に浸透し始め、2023年度は全国各地、および海外から3万を超える作品が集まりました。

開会の挨拶を務めた博報堂教育財団理事長 戸田裕一さんは「原稿用紙に書かれた文字からはみなさんの本が大好きという気持ちが伝わってきて、読書意欲がかき立てられました。みなさんにはこれからもたくさんの本を読み、本から何かを感じ、何かを考え、そしてその思いを誰かに伝えるということを続けていってほしいと思います」と語りました。

まず最初に発表されたのは、小学校1年生から3年生の部。今回は21名の作品が個人賞として選ばれました。
『大ピンチずかん』や、『ちいちゃんのかげおくり』など図書館や図書室でもおなじみの絵本から、『酷道大百科』などの個性たっぷりの書籍の推せん文も!

選考委員を務めた児童文学作家 久米絵美里さんは、コンクールを振り返りこのようにお話しします。
「今年はヒーローのような作品が多かったように思います。今は、インターネット上でも日常でも人を攻撃する言葉が簡単に使われる時代です。世界中では紛争や戦争が起こり、たくさんの方が亡くなり傷ついたりしていますが、この問題の根底には言葉があると思います。今持っている素敵な言葉の紡ぎ方を忘れないでください。皆さんの言葉には人を動かす力があって人を救える力があります」

続いて小学校4年生から6年生の部の発表。入賞したのは31名で、『マンガでマスター 手話教室』や『世界一やさしい精神科の本』など、多様性をテーマにした本の推薦文などもありました。

どの作品にも優しさや思いやりが感じられたと話すのは、選考委員の文部科学省 大滝一登さん。
「これまではコロナ禍の中で暗い話題や世の中の様々な紛争の話題が多かったのですが、今年の作品を見ていると本の幅が広がったように思います。どの作品にも優しさや思いやり、困った人への愛情が随所に感じられました。様々なところで優しい方とのコミュニケーションが充実している証拠だと思います」

同じく選考委員の慶應大学教授 佐久間亜紀さんは、
「誰のために本を読む?勉強をする?と質問をすると自分のためということが多いですが、みなさんは自分のためだけに本を読んで終わりにしないで、誰かにおすすめしようと思って文章を書きました。苦しんだり挑戦しようとしている人を励ましたり、平和で生きやすい世の中を作ろうという呼びかけだったり、素敵なパワーを持っていました。本を読み文章を書くことは、大きく世の中を動かすことにつながるのかもしれません」と感想を述べました。

中学生の部で入賞したのは68名。『黒い雨』『戦争をやめた人たちー1914年のクリスマス休戦ー』、『へいわとせんそう』などの戦争をテーマとした作品から、『ディズニーランドであった心温まる物語』、『さかなクンの一魚一会 まいにち夢中な人生!』など幅広いジャンルの作品がずらり。

選考委員の作家・コラムニスト ひきたよしあきさんは推せん文を読み、このように語ります。
「読書推せん文は人に推せんしているようで、自分の考えを深めたり自分の行動の幅を大きくしている、それを深く感じました。文を書くとき誰かにすすめることを考えてみてください。すすめた言葉は必ず自分自身に返ってきます。そして自分の大きな気づきとなり、行動の変換点になるでしょう」

選考委員長で広島大学教授の山元隆春さんはコンクール全体を振り返り、
「今大会では、すすめたい相手をはっきり作っている印象を受けました。頭の中に読者仲間が作られていると言ってもいいでしょう。低学年の推せん文では、保護者や今はもういない親しい人への想いが伝わり、高学年では仲間で共感や共鳴を求める相手が多くなりました。中学生になると、伝えたい相手がいい意味で抽象化するような印象を受けました。それだけ、言葉選びも豊かになり鋭くなったということです」と総評を述べました。

閉会式では選考委員で博報堂教育財団常務理事 中馬淳さんが登壇。

「選考にあたって意識したのは、おすすめしたい本とおすすめしたい相手とおすすめする理由。この3つがしっかりつながって一つのストーリーになっていることです。それを文章にまとめるのは簡単なんことではありません。ですが、みなさんはそれを見事にクリアしました」というメッセージを送りました。

コンクールを通じて子どもたちに体験してほしいこと

表彰式の後には、博報堂教育財団常務理事 中馬淳さんに、「読書推せん文コンクール」に込めた思いや、選考中の心に残ったエピソードなどを伺いました。

ー2020年にスタートした読書推せん文コンクールですが、どのような思いが込められているのでしょうか?

「博報堂教育財団というのは主に小学校中学校を対象に、主に『ことばの教育』をテーマに掲げています。

今は子どもたちの読書機会が減少していると言われますが、本を読むことは子供の人間形成にとって大きな要素で、紙の本を読むことも非常に重要だと思っています。

そして、このコンクールでは2つのことを目指しています。

まず1つ目はこれをきかっけに、子どもが読書を通じて感動や楽しさを体験するということ。読書が楽しいということを喚起し、それを習慣化してほしいと思っています。

2つめは、思考力や表現力の向上です。好きな本をおすすめする文章を書くということは、考える力や表現する力にもつながるのではないかと思っています。そういう力を伸ばせるチャンスだと思い、このコンクールを始めました」

ー今回の選考の中で印象的なエピソードがあれば教えてください。

「宿題の作文ではないので、書いている方も楽しみながら書いている感じが伝わってきて、審査は大変ですが非常に楽しいんですね。選考委員の先生からも、子供の言葉の力に癒される、元気をもらうというお話をよく耳にします。お仕着せじゃない文章が多いので、書き出すと子どもはすごく書ける、そういう感想を持った先生もいらっしゃいました。

そして、絵本、ノンフィクション、写真集、漫画、地図、図鑑、辞典、時刻表、学習資料集など子どもたちが選んでいる本が非常に多彩。すすめる相手も過去の自分やお母さんになった時の自分、校長先生や大統領、総理大臣、歴史上の人物、絶滅しそうな動物たちとさまざま。そうしたすすめる相手を思いつくことも大きいかなと思っています」

自分の思いを素直に表現してほしい

ーあえてジャンルレスにした理由はありますか?

「活字に触れる、文字に触れる習慣は、小説や教科書に限った話ではありません。印刷物からインスパイアされておもしろいなと興味を持てれば、それが図鑑であろうと地図であろうと、きっかけはなんでもいいんです」

ー今回が3回目ということですが、回を追うごとに変化はありましたか?

「回数を重ねるうちに読書推薦文のジャンルがわかってきて、書く方も慣れてきたところもあるのかなと思います。書き方の工夫が練られていたり、推薦文として相手に対してどういうメッセージを送るのかをしっかり書けるようになってきた印象です。

ただ毎回同じではなく時代や子供たちの環境の影響も大きくて、1回目や2回目はコロナ禍もあり閉塞的で閉鎖的なものも少なくなかったように思います。怒りや不満を作文にぶつけるような作品もありました。

今年は明るくて穏やかでカラッとしていましたね。選ぶテーマもSDGsやジェンダーなど、時代によって変化しています。それもまた面白いですよね」

ー公式サイトに自分にぴったりの一冊を見つけられる「ブックガイド検索」の機能が追加されました。

お気に入りの一冊ライブラリー

「これまでの個人賞の入賞者が300名を超えました。過去の作品を読んでもらうことも、重要な価値があるのではないか、コンクールでこんなにすばらしい財産ができたのだから、これを活用しようと思ったのが理由です。

過去の入賞作を並べるというのではなくて、本のジャンルで選ぶ、テーマで選ぶ、すすめたい相手で選ぶ、タイプで選ぶなど、検索のカテゴリーを工夫しました。子供たちだけでなく、保護者や先生、指導者の方も楽しく使ってもらえると思っています」

ー5月から第4回目の募集が始まります。

「子どもたちには好きな本を誰にすすめるか。どうすすめるかというのを考えて楽しんで書いてほしいです。やらされて書くのではなく、自分の思いを素直に表現してほしいですね。先生や保護者の方には、ぜひ子どもたちに自由に書かせてあげてください。文章の上手い下手、正しい文法よりも、子供の素直な思いとか自分の気持ち相手への思い、そこの強さをこのコンクールでは大事にしています。大人はそれを見守ってほしいですね」

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撮影/鈴木謙介 文/末永陽子

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