ガザ住民、イスラエル軍撤収で街に戻るも「住む家がない」

パレスチナ自治区ガザ地区南部から、イスラエル軍が1旅団だけ残して撤収した。南部ハンユニスにはパレスチナ住民数千人が避難先から戻りつつあるが、街は荒れ果て、生活再建の見通しは立たない状況となっている。

ガザ第2の都市ハンユニスでは、イスラエル軍が昨年12月から継続的に猛攻撃を繰り広げた。同軍は、北部にいたイスラム組織ハマスの指導者と戦闘員が同市に移動し、地下トンネルや病院に新たな拠点を築いたとみていた。

イスラエル軍は市内の各地域を回り、パレスチナ人に退去するよう命令して回った。住民の保護に全力を尽くしていると、イスラエル軍は説明している。猛烈な砲撃が始まると、約40万人いた住民は徐々に減っていった。

がれきと化したこの街に、いま住民たちが戻って来ている。自転車や徒歩、ロバが引く車で移動し、自宅があった場所を探している。

「破壊されたとわかっているが、それでも自分の家に行く。がれきの中からシャツを取り出す」。モハメド・アブ・ディアブさんはそう話した。

街には死臭が漂い、がれきの下にはまだ死体が残されていると住民らは言う。被害の大きさに、みんなショックを受けている。

アブ・サイフ・アブ・ムスタファさんは、「とんでもない規模の破壊だ。すべて再建しなくてはならない。人間はもちろん動物にとっても住むにふさわしくない」とBBCに話した。

ハンユニス近郊では、ラシャド・ハミス・アル=ナジャルさんが「まるで地震に襲われたみたいだ」と話した。「家は住めないし、モスクは礼拝ができる状態じゃない。道路もインフラも、電気でさえ完全に破壊された」。

別の住民は、「破壊されなかった家は燃やされたり、泥棒に略奪されたりしている。私たちはゆっくり死んでいる。住む家がなく、死者のように暮らしている」と話した。

避難場所に引き返す

ハンユニスに戻った多くの人は、自宅が住める状態ではないのを知り、集められる物だけ集めて、過密状態の避難場所に再び戻らざるを得ない状況となっている。

ヌール・アヤシュさんは、集合住宅の階段がなくなっていたため、自宅にたどり着けなかったと話した。彼女の兄が自宅までよじ登り、子どもたちの服を少しばかり確保することに成功したという。

自宅だった場所に何も残っていなくても、そこにとどまりたいと思う人もいる。モハメド・アブ・リゼクさんは、「私たちの土地からイスラエルが撤退すこと。それこそ私たちの一番の願いだ。もう殺害と破壊はたくさんだ。私たちにすれば、家を追われて亡命するより、自学のがれきの上でテント生活をする方がましだ」とBBCに話した。

ラファ攻撃の日程決定と

イスラエル軍は7日に部隊の一部をガザ南部から撤収させた後も、「かなりの兵力」がガザに残ると強調している。撤収は戦術的なもので、戦争が終わりに近づいている兆候ではないと解釈されている。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は8日、イスラエル軍がガザ南部ラファで軍事作戦を実施する日程を決めたと述べた。詳細は明らかにしなかった。ラファにはガザ各地から100万人以上が避難している。

ネタニヤフ氏は、ハマスに対する完全勝利をイスラエルは望んでいると主張。「この勝利にはラファへの進入と、そこにいるテロリスト大隊の排除が必要だ。それは実現する。日程が決まっている」と述べた。

停戦交渉は続いている。仲介するカタールの外務省はBBCに、新たな提案について慎重ではあるものの楽観していると述べた。

ハマスは最新の提案を検討中だとしている。ハマスは戦争の永続的な終結と、イスラエル軍のガザ完全撤退、支援物資の流入を条件に挙げている。

イスラエル側も同様に検討中で、人質の解放と引き換えに、戦闘を一時停止する意向を示している。

イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相は、今がハマスと取引する好機だと考えていると述べた。

こうしたなか、フランス、エジプト、ヨルダンの首脳は共同で、ガザでの即時停戦を呼びかけた。同時に、ラファでのイスラエルの攻撃について、「いっそうの死と苦難しかもたらさない」と警告した。

(英語記事 Gazans return to scenes of devastation in Khan Younis

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