石川祐希、アタック決定率「36%」と苦戦。ミラノは敗れ1勝2敗の窮地に...。指揮官は「誰にでも起き得ること」と前向き!【現地取材】

現地時間4月7日、バレーボールのイタリアリーグ/スーペルレーガで2023-24シーズン・プレーオフ準決勝の第3戦が行なわれた。男子日本代表の石川祐希が所属するレギュラーシーズン6位アリアンツ・ミラノは、同2位シル スーサ ヴィム・ペルージャとアウェーで対戦。セットカウント1-3(25-20、18-25、13-25、21-25)で敗れて1勝2敗となり、決勝進出へ望みをつなぐには次戦での勝利が不可欠となった。

プレーオフ史上最長を記録した171分の激闘を制し、1勝目をつかみ取ったミラノ。連勝を狙い、初戦を落としたアウェーの地へ乗り込んだこの戦いを現地取材した。

ペルージャの本拠地パラ・バルトンは、ここで決勝へ王手を!と4,800人を超えるサポーターが集結。1週間前の第1戦を上回る異様な熱気に包まれた会場で、同国公営放送『RaiSport』の実況担当マウリツィオ・コラントーニ氏が、ミラノのロベルト・ピアッツァ監督に試合展望をインタビュー。大音量の応援が響き渡るなか、耳を凝らすと同氏の最後の質問は、兼ねてから高く評価する石川についてだった。

「特別な文化を持つ日本から来た“イシカワ“はどうやってモチベーションを上げているのか?」との問いかけに指揮官は、「ユウキは泰然自若な人物。思慮深く、普段は多くを語らないが、コートに立つと自分の考えを言葉にできるんだ。もの凄く影響力のある選手だよ」と回答。背番号14に対する同国バレーボール界からの注目度と、ミスター(監督の呼称)との厚い信頼関係が感じられるやりとりを目の当たりにした。
両チームの先発は1、2戦と同様。ペルージャは、身長2mを武器にチームトップのブロック14本を記録するセッターのイタリア代表シモーネ・ジャンネッリを筆頭に、アウトサイドヒッター(OH)ポーランド代表カミル・セメニュクウとクライナ代表オレフ・プロツニスキー、オポジット(OP)チュニジア代表ワシム・ベンタラ、ミドルブロッカー(MB)のブラジル代表フラビオ・グアルベルトとイタリア代表ロベルト・ルッソを起用した。

ミラノは、プレーオフ7試合の平均アタック決定率が5割を超える石川とその対角に第2戦でエース4本を成功させたブルガリア代表のベテランOHマテイ・カジースキ、その試合で最多31得点を叩き出した20歳のベルギー代表OPフェレ・レゲルス、4強勢のMB部門総合パフォーマンスでともにトップ5入りするアルゼンチン代表アグスティン・ロセルとマルコ・ヴィテッリ(イタリア)、22歳の司令塔イタリア代表パオロ・ポッロを送り出した。
第1セット、カジースキのエース1本を含むサーブを起点にミラノが序盤に3点のリード。中盤の入りに1点差へ詰め寄られるが、相手のサーブミスと誤打の後、石川がレフトからのバックアタックをコート奥へ叩き込んで再び突き放す。この打球に、メディア席からは、「ワォ!」の声。隣に座る某最大手紙の記者がこちらへ向けて称賛のウィンクを送ってくれた。以降、相手を圧倒したまま石川のレフト弾でマッチポイント。ポッロのエースで締めくくりセットを先取した。

最高のスタートを切ったミラノだったが、ここから形勢が一変する。

第2セットは、開始間もなくプロツニスキーのエースを皮切りに、石川のバックアタックをブロックで阻止するなどしてペルージャが3連続ブレーク。出鼻をくじかれたミラノは巻き返しに賭け、序盤に2度のタイムアウトを使い切る。しかし、前半に被ブロック4本の厳しい展開のなか、石川が繰り出した技ありのブロックアウトに、エンド最前列に陣取るペルージャのデータチームがこぞって頭を抱えるも、ミラノは終盤にエース2本を浴びてさらに後退。一度ベンチへ下がった石川は、14-22でコートへ戻りエースと後衛からの強打で奮闘するも、8点差が大きくのしかかり試合を振り出しへ戻された。
一進一退のまま中盤を迎えた第3セットは、石川が連続失点に見舞われた後にプロツニスキーのサーブで7点を献上して一気に失速。大量リードを許して2セット目を失い後がなくなった。追い込まれてからの逆襲で幾度も復活劇を演じてきたミラノ。だが、その怖さを知るペルージャに油断はなかった。

第4セット序盤、反撃のキーマン、石川の攻撃3打を立て続けにブロックで阻止されて勢いを削がれたミラノは、大黒柱に替えてキューバ代表主将のOHオスニエル・メルガレホを起用。細かくブレークを重ね15-15まで巻き返すが、相手のブロックとエースで再び押し返される。終盤にコートへ戻った石川のノールック弾、ポッロのエースで2点差まで追い上げ、レゲルスのブロックアウトで最初のマッチポイントを阻止するも、そこまで。OPベンタラの試合最多24得点目で2敗目を喫したミラノは、決勝への望みをつなぐために4戦目の勝利が不可欠となった。
石川は10得点(アタック9、エース1)。アタック決定率は先発出場した今季リーグ全26試合で5回目の40%以下(36%)に留まり、第2、第4セットで途中交代するなど、ペルージャ戦で稀に見る低調ぶりだった。チームとしては、ペルージャがブロック14、ミラノは6。ブレーク数でもペルージャの31に対して約半分の15と水をあけられた。

試合後のコートでピアッツァ監督に話を聞くと、「まずはミラノが存在感を示した。ペルージャは危機感を感じてコートに立ち始め、我々は相手がしたように仕切り直すことができなかった。相手の技術や戦術は大きな問題ではなく、ボールをつなぐこと、プレーをやり切ることへの意欲の差が違いを生んだ」とコメント。「確かに今日は第1戦のミラノではなく、第2戦のミラノでもなかった。レベルを維持して最後まで戦い抜くために、本来のバイタリティーと闘志を蘇らせて臨まなければならない」と次戦を見据えた。
第5セットで石川の被ブロックが3打連続したシーンについて、解説を務めた元イタリア代表のアンドレア・ルッケッタ氏に問うと、「あの場面は、セットの高さやスピード、ブロックを予測したディフェンスなど複合的な要因があった。ユウキにできたのは打ち切ることだけだった」と擁護。フィジカル面が気になり、監督に尋ねると、「ユウキのコンディションは至って良好だよ。今日はたまたま調子が上がらなかっただけで、誰にでも起き得ること。それは、彼のようなトッププレーヤーにとっても例外じゃないのさ」と話し、安心しろ!とばかりに肩を叩いてくれた。

準決勝のもう1試合は、高橋藍が試合最多25得点の活躍を見せた5位モンツァが、フルセットの末に首位トレントを下して1勝2敗とした。

中3日でホームでの第4戦(日本時間4月12日午前3時30分開始予定)に挑むミラノ。石川の復調と観客の応援を力に正念場を乗り越え、昨季を越える舞台へ近づくことを期待したい。

取材・文●佳子S.バディアーリ

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