髙橋海人は“劣等感”の芝居が抜群に上手い! 『95』Q役で平成初期のムードを体現

髙橋海人が主演を務めるドラマ『95』(テレビ東京系)が4月8日にスタートした。

タイトルの『95』が示すのは、1995年。阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件が起き、「1999年7の月に人類が滅亡する」と世界中を恐怖に陥れたノストラダムスの大予言が刻一刻と迫っていた年だ。『不適切にもほどがある!』(TBS系)でも直接は描かれていないにしても、やがて訪れる未来として阪神・淡路大震災が重要な出来事の1つとして登場しており、『不適切にもほどがある!』が昭和であれば、『95』は平成7年という“平成初期”を切り取った作品と言える。

安室奈美恵「Body Feels EXIT」、H Jungle with t「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント」、小沢健二「愛し愛されて生きるのさ」、どれも95年にリリースされたその年を代表する曲。高視聴率を獲得した『電波少年』(日本テレビ系)シリーズに、若貴ブームを経ての貴乃花の結婚、そして東京メトロ丸の内線で起こる同時多発テロ。95年当時、筆者はまだ7歳で朧げながらも、ブラウン管のテレビ越しに見つめていた当時の空気をよく覚えている。

ノストラダムスの呪縛から解けた数年後、映画では『バトル・ロワイアル』(2000年)、『GO』(2001年)、ドラマでは『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)、『ロング・ラブレター~漂流教室』(2002年/フジテレビ系)といったヒット作が生まれ(窪塚洋介ブームでもある)、音楽シーンはGOING STEADY、MONGOL800、175R、ロードオブメジャーといった、いわゆる青春パンクブームへと突入していく。『95』にはそのような危うく、ヒリヒリとした時代の中で蒼く生きる、平成の青春群像劇としてのムードを強く感じさせるのだ。

●翔(中川大志)が放った“平成の青春群像劇”を象徴させるセリフ

その象徴と言えるのが、翔(中川大志)の「今を生きる」。リアルタイムで『ロング・ラブレター』を観ていた世代としては決してスルーできないセリフだ。第1話では秋久ことQ(髙橋海人)が地下鉄サリン事件をきっかけにして、翔が率いるチームに入ることになる。Qが抱えているのは焦燥感。インターネット元年と呼ばれた95年は、ウィンドウズ95がようやく発売された、まだインターネットが一般的に流通していない時代。テレビや雑誌に情報を求め、その真偽がそれぞれに委ねられていたからこそ、ノストラダムスの大予言のような現代では一蹴されそうな噂も流布してしまったのではないかと、SNSが発達した今とはなっては思える。

「あとはなに、戦争かウイルス? 流石にそうなったら笑っちゃうよな」という翔のセリフは、令和に生きる我々に対する“メタ発言”であるが、第1話の中心にあるのは、Qと翔の3度にわたるやり取り。高校生にしてチームのほとんどのメンバーがタバコを吸っている描写(しかも路上喫煙)は注意テロップを出さなくて大丈夫なのかと心配になってしまうが、煙を燻らせながら翔は、ただぼんやり終わりを迎えようとしているQをチームに誘っていく。

中川大志にとって、髙橋海人は学生時代の後輩。意外にも今作が初共演となり、すでに抜群のコンビネーションを発揮しているように感じる。印象的なのは、Qが警察に補導されかける前の「俺は……!」という絶叫。『だが、情熱はある』(日本テレビ系)での演技を筆頭にして、抑え込んでいたネガティブな感情を一気に爆発させる、そんな劣等感を抱えた人物の芝居が髙橋は抜群に上手い。それは『95』にキャスティングされた理由、Qがハマり役であるとも言えるだろう。

“世界の終わりの始まり”という時代の変わり目に、翔と出会ったQ。物語は45歳となった秋久(安田顕)が取材の中で新村(桜井ユキ)に当時の出来事を話していく形式で進んでおり、第1話の冒頭には激しい殴り合いの末にQが翔に拳銃を向ける姿も映し出されている。本作のヒロインである岸セイラ(松本穂香)との恋愛やチーム一人ひとりとの関係性など、これから楽しみな要素は多くある。95年という“今”を生きた、Qたちの熱く、そして儚い物語が始まった。
(文=渡辺彰浩)

© 株式会社blueprint