市の記念Tシャツ、自腹で買わなきゃならないの? 全職員への購入依頼にモヤモヤの声 識者に妥当性を聞いた

成田市役所ロビーに展示されている市制施行70周年記念のTシャツ

 自治体が記念Tシャツを職員に自腹で購入させるのは是か非か―。3月末に市制施行70周年を迎えた成田市が節目を盛り上げようと、全職員に「任意」での記念Tシャツ購入を求めたところ、一部職員から「半ば強制にも感じる」と割り切れない気持ちを吐露する声が上がった。同市以外でも、職員が行事などでそろいのTシャツを着用する光景はよく見られるが、果たして私費での購入依頼に妥当性はあるのか。識者に見解を尋ねた。 「節目を盛り上げたい」と市  成田市は市制70周年を記念し、今年、多数のイベントを通年で企画。記念Tシャツもその一環で、市職員以外でも買える。市は「記念事業を盛り上げる手段の一つにしたい」と説明。市内の就労支援事業所が製造・販売を担当し、ここで働く人たちの工賃向上につながる利点もあるという。

 市は1月下旬、各職員に積極的な購入と着用を検討するよう一斉に通知。特に記念行事が開催される市制施行日の3月31日と翌4月1日の勤務者に対しては、日付を示して着用を求めた。Tシャツ姿を見た来庁者やイベント参加者が市制施行日に関心を持つきっかけにするのが狙いという。

 価格は1枚1800円。2月22日までの予約分は、市がPR効果を狙って1枚当たり800円を同事業所に補助し、割安の1千円で販売した。

 市は通知後、部署ごとに購入数を取りまとめ、同事業所に一括注文。同日までの予約で市職員が約1300枚、市民ら一般人が約1400枚購入した。一人で複数枚予約した職員もいたという。 「業務使用なのに…」疑問の声  「記念事業は肯定するが、市の広報に私費を投じさせるのは疑問」。そんな“モヤモヤ”を口にするのは同市のある職員。「業務で使用する物品であれば市の経費として支出してほしい」。他の職員も、釈然としない思いを口にした。

 実態としては市の業務で使用する物を職員個人に購入させる理由は何か。市は取材に「これまでも市キャラクターのポロシャツや祭りのオリジナルTシャツを職員が主体的に判断し、購入・着用している。今回も同様と考える」と答えた。 妥当なのは私費?公費?  私費と公費。一体どちらが妥当なのだろうか。

 「職員個人に帰属して所有物になるTシャツに行政の予算を使うのは難しい」

 そう説明するのは、中央学院大学法学部の田部井彩准教授(行政法学)。業務上必要な名刺でも、自治体では職員自身が自費で購入するケースがほとんどだという。

 では、私費が適切?田部井氏によると、こうしたグッズの場合、職員には私費で購入してもらわざるを得ないという。ただ、私費購入を促す場合、自治体側の職員への「伝え方」が大切だと訴える。

 「特定のTシャツ着用を一斉に呼びかけると、職員たちは実質的に着るか着ないかの二者択一を迫られる。職場で誰が“協力していないのか”が可視化されるため、結果的に『強制された』という印象を持つ職員が出てしまう」 丁寧に順を追って伝達すべき  職員の“モヤモヤ”を避けるにはどうすれば良いか。

 田部井氏は「職員が『自ら選んだ』という納得感を抱けるようにすることが重要」と強調する。

 今回のケースでも、自主的な購入者だけに着用をお願いするなど依頼方法に工夫の余地があったと説明。例えば(1)「Tシャツを制作するので、良ければ購入を検討してほしい」(2)購入者に対し「せっかくなので職務中も着てほしい」(3)「着用するなら、ぜひこの日にも着てほしい」―と段階を踏んで伝達することが好ましいという。

 別の自治体では同様のTシャツ購入を依頼する際、職員組合の了承を得て、組合費で全員分を購入したケースもある。田部井氏は「労働環境に関わる話なので、組合とすり合わせるのも有意義」と指摘。「いずれにせよ、断っても職員の不利益にならないと強調する必要がある」と念押しした。

成田市制施行70周年の記念イベントについて話し合う記念事業実行委員会=昨年5月、同市役所
成田市観光キャラクター「うなりくん」が描かれたかわいらしいデザインの記念Tシャツ(市提供)

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