カーボンニュートラル達成への道 問われる日本企業のリーダーシップ

左からビュルギ氏、村岡氏、大我氏

Day1 ブレイクアウト

カーボンニュートラルな未来を築くために、企業がいかにリーダーシップを発揮していくかが問われている。温室効果ガスの排出量を可視化し、削減していく道筋には、再エネの活用や、エネルギーの効率化、サプライチェーンの見直しなど、さまざまなアプローチがあるなかで、成功のポイントはどこにあるのか――。気候変動対策のソリューションを提供するスタートアップ、booost technologiesの大我猛氏をファシリテーターに、この分野で世界をけん引するスイス発のグローバル企業、サウスポールのパトリック・ビュルギ氏と、エネルギートランジション事業を手掛ける日揮ホールディングスの村岡智英氏が議論を交わした。(井上美羽)

ファシリテーター
大我 猛・booost technologies 取締役 COO(最高執行責任者)
パネリスト
パトリック・ビュルギ・South Pole Japan 代表取締役
村岡智英・日揮ホールディングス サステナビリティ協創ユニット 低・脱炭素事業化グループ 理事/チーフエンジニア

サウスポールは、世界40カ所以上の拠点を通じて気候変動対策プロジェクトを推進し、世界全体でのネットゼロ達成を目指している。2022年には、日本企業の脱炭素化目標達成を支援するためにサウスポール ジャパンを設立した。その先頭に立つビュルギ氏は、世界と同様、日本でも企業の気候変動対策への取り組みが増えつつある一方で、国際的な基準に合致したネットゼロ目標を設定している企業は少ないことを指摘。重要なのは科学に基づいた、より信頼性の高い脱炭素化であり、そのための5つのステップとして「排出量とリスクの測定、目標の設定とロードマップの作成、排出の削減、カーボンクレジットの購入などバリューチェーン外での気候変動対策への投資、社内外への成果の発信」を挙げた。

日揮ホールディングスは、以前は石油や天然ガスのプラント建設がメイン事業だったが、昨今はクライアント企業への低炭素化の提案やそのバリューチェーンづくりに注力しており、資源循環、バイオエネルギー、CO2マネジメントに重点を置く。例えば、混合プラスチックのリサイクル技術で分別作業を軽減したり、CO2排出を減らすため、アンモニアから水素製造技術開発など多岐にわたる取り組みを展開している。村岡氏は「CO2はある程度の排出計測の技術があるが、メタンの排出定量化は未成熟の分野であるからこそ開拓の余白がある。オイルガスからのCO2だけでなくメタンの排出も早急に対処しなければならない」と話した。

日本企業のネットゼロに向けた今後の方向性について、ビュルギ氏は「初期投資は膨大かもしれないが、再生可能エネルギーは今後もコストは下がっていくからこそ、長期的な視点を持って企業側がそれを見越して投資をしていくことが重要だ。日本は1970年代のエネルギー危機にさかのぼると、資源効率、エネルギー効率において非常に優れていた。再エネでも、日本にとって最適なエネルギー構成のあり方があるはずだ」と、日本が他国とは違う独自のアプローチを取っていくことへの期待を口にした。

一方で、村岡氏によれば、CCS(CO2回収・貯留技術)や水素・アンモニアを利用した発電技術はすでに進展しているが、最大の課題は実用化に向けて発生するコストであるという。「再生可能エネルギーは日本は地理的に不利であるから、海外からの輸入に頼らざるを得ないが、その場合調達コストは避けられない。だからこそ国産のグリーン水素をいかに安く開発できるかが肝になってくる」。加えて、日本では「2030年に向けて政府の計画通りにカーボンニュートラル絡みのプロジェクトが増えた場合、建設要員も含めて圧倒的にリソースが足りない」という問題もある。

セッションの中で、ビュルギ氏と村岡氏の両氏が指摘したのは、国際的な流れと比較した、日本の脱炭素化に向けた規制の遅れだ。日本でも2026年にはGX推進法に基づく「カーボンプライシング」が義務化されるが、重要なのはそうした政策で、インセンティブやペナルティが決まらないと企業の取り組みも始まらない側面がある。とはいえ、村岡氏は「小さいことからでもやっていく。LNG(液化天然ガス)プラントの効率を良くして低炭素化に貢献することも重要な一歩だ」と短期と中期の両輪で取り組んでいくことの重要性を強調。「国の補助金を使って一号案件をつくって終わりでは、サステナビリティに貢献しない。大事なのは官民が連携し、それをどう拡大加速していくかだ」と述べた。

最後にファシリテーターの大我氏は、「脱炭素化はやらなきゃいけないことで、企業はいかにこれをビジネス機会と捉えて取り組んでいけるかが鍵だ」と総括。ビュルギ氏は、「2050年までにネットゼロを達成することは、過去何世紀にもわたった農業革命や産業革命をはるかに短い時間枠で行うようなもの。社会のすべてが一丸となって取り組む必要がある」と改めて強調し、セッションを終えた。

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