いかに人を動かすか――サステナビリティで企業をドライブさせるための組織戦略

Day2 ブレイクアウト

企業におけるサステナビリティの取り組みは、サステナビリティ関連部署だけでは完結しない。経営層から末端の社員まで、そして社外のステークホルダーをいかに巻き込むかが成功の鍵を握る。先進的な取り組みを進める3社が、人と組織を動かすための戦略を紹介した。(茂木澄花)

ファシリテーター
小山嚴也・関東学院大学 学長・経営学部教授
パネリスト
小川宣子・日本航空 ESG推進部 部長
里見陵・UCCジャパン 執行役員 サステナビリティ経営推進本部長
ニコ・ミラ・ボルボ・カー・ジャパン Head of Sustainability & PMO

仕組みを整え着実に、あらゆる部署と――JAL

小川氏

JALには、サステナビリティを議論する4つの会議体がある。毎週行われる担当者レベルの会議から、四半期ごとに全役員が集う会議まで、定期的に開催されている。同社の小川宣子氏は「毎週の会議というのは地道な活動だが、着実に一つ一つ取り組みを進めていくことが、社内の意識醸成や成果物の作成に必要不可欠だ」と語る。

また環境マネジメントシステム(EMS)を構築し、各部門に責任者と担当者を設置することで、現場社員とのコミュニケーションも図っている。

「社員の(サステナビリティの)自分事化」の事例としては、最新鋭の省燃費機材に持続可能な航空燃料「SAF」を搭載し、実質CO2排出量ゼロを実現した「サステナビリティ・チャレンジフライト」の取り組みを紹介。原材料や調達に配慮した機内食の提供や乗務員による手話通訳の実施など、2030年の時点で目指すフライトのサステナビリティの形を最大限表現した企画便で、あらゆる部署や職種の社員がアイデアを出し合い、搭乗者と共にサステナビリティを自分事として考える良い機会になっているという。

パーパスに組み込み、リスクにアプローチ――UCC

里見氏

UCCは、2021年に「より良い世界のために、コーヒーの力を解き放つ。」というパーパスの下に経営方針を刷新し、サステナビリティを組み込んだ。同社の里見陵氏は「サステナビリティという言葉がない頃から意識的にやってきた会社だが、より明示的に『地球社会への貢献』を価値観に入れて日々浸透を図っている」と話す。

同社は非上場企業だが、近年自主的に取り組みを加速させ、CO2排出削減や自然資源の回復、小規模農家の支援など、コーヒーに関するあらゆるリスクにアプローチする。2022年以降、国内の9工場に再生可能エネルギーを導入した。またコーヒー豆の水素焙煎技術の開発も進め、2025年4月には年間5億杯分のコーヒーを製造できる大型焙煎機を稼働させる予定だ。

販売店ネットワークと協働、時には後押しも――ボルボ

ミラ氏

ボルボ車の日本での販売を担うボルボ・カー・ジャパン。販売店ネットワークのほとんどは独立経営のディーラーであるため、CO2排出削減においても、いかにディーラーと協働するかが重要だ。

ガバナンス体制の整備や研修の実施とともに、インセンティブ制度も活用する。サステナビリティの成果を上げたディーラーにはボーナスを支給するなどし、取り組みの優先度を上げている。同社のニコ・ミラ氏は、ディーラーの自主性は尊重しながらも、「サステナビリティの緊急性は忘れられやすいため、時には決断を急がせるための後押しが必要だ」と強調した。

小山氏

ここでファシリテーターの小山嚴也氏は、組織にサステナビリティの考え方を浸透させ、行動につなげるための仕掛けについて、3氏に問いかけた。

これにUCCの里見氏は「やらされ感なく、主体的に取り組んでもらえるように工夫している」と応じた。例えば同社の社内SNSでは、さまざまな部署が業務に関連したサステナビリティの取り組みを自主的に発信しているという。

ボルボのミラ氏は、「安全性」という長年のパーパスが、サステナビリティの浸透にも役立っていると説明。人間の安全に加えて「地球の安全」も守るという考え方だ。従来から共感を得ている価値観に紐づけたことで、考え方の浸透は難しくなかったという。

JALの小川氏は、サステナビリティは本業に直結した課題だと強調した。少子高齢化やコロナ禍の影響で需要が減り、飛行機に乗るきっかけづくりが必要になったことで、関連部署だけではなく、自ずとあらゆる部署の協力が欠かせないものとなっている。

3氏の回答を受けて小山氏は、サステナビリティは「その企業が社会に必要なのか、残っていくのか」という、パーパスそのものの問題になってきていると指摘した。

いかに意思決定のスピードを上げるか

人と組織を動かすために、いかに議論へのエンゲージメントを高め、意思決定のスピードを上げるか――。UCCでは、経営戦略に直結する意思決定はあえて少人数で行うことでスピードを確保し、最もサステナビリティに厳格な欧州からの意見を特に重視しているという。

「変化のスピードを上げるために、ボトムでできることはあるか」という会場からの質問に、里見氏は、「すでにやっている仕事の中でできることを見つけると差別化につながる」と回答。ミラ氏は、「ボトムを巻き込むためにも基本的なトレーニングが重要だ」と付け加えた。

最後は小山氏が「人を動かすためには、仕組みづくりや地道な取り組みも必要だが、種まきがうまくいけば組織は自ら動き始める」とまとめ、セッションを終えた。

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