「グリーンウォッシュ」批判を乗り越え、消費者とより良い関係を築くコミュニケーションとは

粟野氏と籠島氏

Day2 アフターヌーンプレナリー

サステナビリティに配慮したはずの広告や企業が、思わぬところで「グリーンウォッシュ」との批判を受ける事例が散見される。日本企業が陥りがちな問題の核心は何か。訴訟リスクもはらむ「グリーンウォッシュ批判」を乗り越え、企業・ブランドの価値を高めるには何が必要か。国内外のESG動向などに詳しい2人が登壇し、パーパスとコミュニケーションの重要性について議論を深めた。

ファシリテーター
青木茂樹・SB国際会議 アカデミック・プロデューサー/駒澤大学 経営学部 教授
パネリスト
粟野美佳子・一般社団法人SusCon 代表理事
籠島康治・電通 CXクリエーティブセンター クリエーティブディレクター

電通は昨年12月、グリーンウォッシュに留意した情報発信を支援する「サステナビリティ・コミュニケーションガイド2023」(以下、「ガイド」)を発行した。セッションではまず、その中から籠島康治氏が、海外で問題が指摘された幾つかの広告事例を紹介。あるスポーツブランドはスニーカーの広告で、「50%リサイクル」「プラスチック廃棄物を終わらせる」などと訴求していたが、消費者からの苦情を受け、フランスの広告自主規制機関が「グリーンウォッシュ」と裁定。その理由として「50%リサイクル」の主張が明確さを欠く、廃棄されたスニーカーの全てがリサイクルされるわけではない――などが指摘されたという。

籠島氏が紹介した事例を踏まえ、粟野美佳子氏は、「問題となるのは、グリーン(環境)に対するウォッシュだけではなく、若者の声を尊重すると言いながら、実際は若者を会場に呼んだだけといったユース(若者)ウォッシュなど、いろいろな社会問題に対するウォッシュがある」とした上で、「社会の価値観の変化に企業はついていっているか、その価値観の変化を見越しているか」と問題提起。「日本企業は海外の情報の取り方が甘い」とも述べ、「社会の価値観の変動に合わせて、何を広告すべきか、何をコミュニケーションすべきなのか」を常に意識し、“二枚舌”と言われるような行動をしないことの重要性を強調。それができていなければ、「下手をすると、グリーンウォッシュと言われることになる」と警鐘を鳴らした。

ここで、ファシリテーターの青木茂樹氏が「(グリーンウォッシュとの批判が)起きてしまったら、どうすれば良いか」と質問を投げかけた。籠島氏はガイドでは「誠実に向き合ってやりとり」することを推奨しているとし、「対応の仕方によっては、それ(グリーンウォッシュ批判)をプラスに転じることも不可能ではない」と主張。粟野氏も「グリーンウォッシュは企業にとって学びの経験になる」とするコメントがCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)の場でも出ていたと紹介し、「社会の価値観の変化が激しい中で、次の一手を打つための知識として企業の財産になる」と続けた。

サステナビリティについて触れずにいると、企業はグリーンウォッシュ批判を受けずに済むかもしれない。一方、それではサステナビリティに「関心がない」、あるいは「推進していない」と判断され、賛同を得られそうな消費者を遠ざける可能性もある。「言わないと駄目、言ったら言ったで叩かれる」、ややもすると辛い状況かもしれない。そこをどう乗り越えるのか。粟野氏は「会社の信念」「企業のパーパス」と言葉をつなぎ、「会社としての哲学がしっかりしていれば、多少のことがあってもコミュニケーションはブレないのではないか」と主張し、消費者にパーパスを丁寧に語る重要性を力説した。

激動する社会の中で、価値観は絶えず変化している。その動向をしっかり捉え、誠実なコミュニケーションを重ねることこそが企業価値を高め、ひいては持続可能な社会づくりへの一助となることを確信させられるセッションとなった。(眞崎裕史)

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