チームラボ・猪子寿之 「チームラボはアートなのか?」と問う成田悠輔に「アートであってもなくても全部オッケー」

2月9日に東京・麻布台ヒルズにオープンした「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」。それはデジタルテクノロジーを駆使した新しいアートミュージアムだ。前身となる東京・お台場の「チームラボボーダレス」は年間230万人の来館者を記録。制作するteamLab(チームラボ)は同様のアート作品を各国で展開し、世界的に高く評価されている。経済学者の成田悠輔は、自身がMCを務める対談番組『夜明け前のPLAYERS』で、チームラボ代表・猪子寿之にずっと気になっていた”アレ”を聞いた。

それは「チームラボはアートか否か」といった巷(ちまた)に広がる問答だ。成田は「チームラボはアートではない」と語る人にちょくちょく遭遇するのだと言う。成田自身もチームラボが生み出す作品に「普通のアートとベクトルが逆(方向)に行き過ぎているんじゃないか」と思うことがあるらしい。

■アートでないとしたら「それはチームラボでしかない。もはや、もっといいね」

成田は問う。「(チームラボが)アートであるか否か論争や、何をもってアートと呼ぶべきかといった議論についてはどう思われますか?」。

そう問いつつ「どうでもいいって感じですか?」と呼び水を差し出す成田。しばらく考えた猪子から出た言葉は「まあ、そうだね……。究極的にはそうだね」。しかしその後に続く言葉に成田は「名言出ました」と感心することになる。

猪子は言うのだ。「もし仮に、人類がこれをアートではないとしたとしましょうよ。そうすると、これはいったい何なのか。それはチームラボとしか言いようがないよね。もはや、もっといいね」。さらに「人類がこれをアートだとしたとしようよ。それはそれでありがたいね。アートという歴史の中で何かを作れるというのはありがたい。だから全部OK」と笑った。

さらに猪子は「(例えば、絵画における)印象派にしても、当時は上の世代の方々や権威から“こんなのアートじゃない”と言われたわけだよね。歴史から学ぶとするならば、アートじゃないと言われることは“歴史に残るぞ”って、めちゃくちゃ褒められているのかな」と冗談めかして加えた。

■アートとは何か 雨を線で描くようになった人類はアートによって認識世界が広がった

「素晴らしい回答で、かつ敵を作らない」と感服した様子の成田は猪子の言葉を受けて、歴史的には、“アートではない”と言われたモノがアートの文脈に取り込まれたことでアートの概念自体が広がってきたと指摘。「それを踏まえて“アートとは何か”と考えると、どうですか?」とつっこんだ。

猪子は唐突に「実は僕、アートがすごく好きで。サイエンスと同じぐらい好き」と発言。サイエンスとアートとの関係をもって成田の問いに答えた。ポイントはレンズと雨だ。

「もしかしたらそれは、レンズの発明によって生まれたのかもしれない」とルネサンス期に写実的な絵が登場した経緯をひもとく猪子。「レンズによる像を、当時は写真のように現像できなかったので、画家たちがそれをトレースしたことが始まりだったと思うんです」

「それを人々が夢中になってたくさん見ることによって、人間はレンズのように見ることができるようになり、見えるから写実的に描けるようになっていった。それで明らかに認識が広がったと思う」と持論を展開。例として1800年代後半に描かれた『パリ通り、雨』(ギュスターヴ・カイユボット作)という絵画と浮世絵を引き合いに出した。

『パリ通り、雨』に描かれている雨は靄(もや)のように表現されているが「同じような時期に日本の浮世絵師が、線の集合で雨の絵を描いているんです。それが魅力的で世界中に広がり、ゴッホたちが模写してさらに広がることによって(人間の)認識世界に“線の雨”ができた。そして今、全人類は線の集合みたいな雨を描いているし、そういうふうに見えているつもりになっている」と言う。

「確かに。雨を見てもどこにも線はないですもんね」と成田も同意。猪子も「そもそも見えてんのか」と笑いながら、「あんなにちっちゃい粒が高速に降っているのを人間の肉体は見え切れているのか。認識世界になければ、見えないんじゃないかなと思うんです」と話した。

■アートは認識の革命 人類の行動変容に「すごく貢献してきたんじゃないかな」

猪子の中でレンズはサイエンスともつながる。「レンズによって世界を見ると境界が生まれ、境界の向こう側に世界ができるんですが、そこに自分はいなくなる。それをポジティブに言うと“客観性が増す”ということ。つまり、観察や観測の概念を強く生む世界の見方(ができる)とも言えるわけです」

猪子はそれがルネサンス期にサイエンスが花開いた所以(ゆえん)であるとし、「(前述の)画家たちが写実的な絵を描き、みんなが夢中になることによって、レンズのように世界を見る手段が増えたことと関係していると僕は思うんです」と続ける。

「世界の見え方を変えることは、結果的に人類の行動を大きく変えてきたんじゃないかと思っていて、そういう意味でアートは認識の革命。ちっちゃいなり大きいなりに認識の革命を起こすことが、アートの役割だったんじゃないかと思う」と論じた。

成田も、レオナルド・ダビンチが人体解剖をしながらスケッチをしたことを例に挙げ「(それは)彼の絵の活動につながり、同時に人体についての医学的な探求にもつながった。たぶん当時の人たちにとってサイエンスとアートはほぼ一体の活動だったのだという気がしますよね」とうなずいた。

歴史の中でアーティストたちが綿々と何かを提示したことで人々の認識が広がってきたと推察する猪子は「認識世界が広がるということは、複雑で情報量が多すぎるこの世界をどう認識していくかということで、それに対してサイエンスはもちろん、アートもすごく貢献してきたんじゃないかな」と語った。

本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

「夜明け前のPLAYERS」
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